作品タイトル不明
10-18 アインズヘイルで休息を 第二錬金科
王都立エルサス学院。
建物は古く、随分と歴史を感じさせる学院だ。
全国から貴族の子が集められており、若くして才能を認められた庶民もより良い教育環境で高みを目指して集まる、エリートの育成の場として伝統と歴史のある学院だそうだ。
『貴族科』に所属する貴族の子は皆、次世代の爵位を継ぐ長男や長女が所属し、『騎士科』『魔法科』『冒険科』がそれに次いで人数が多く、それ以外だと『錬金科』『商業科』など、細々とした科が多数あるらしい。
『貴族科』だけは別棟で授業をして食事もそちらでマナーを学びながら摂るそうで、俺は基本的に関わることはないそうだ。
その中で俺が今回教えるのは当然錬金科な訳だが……。
「あー……聞いていると思うが、エリオダルトの代わりに『第二錬金科』の皆に錬金スキルを教える事になった 忍宮一樹(しのみやいつき) だ」
第二ってなんだよとか突っ込みたいのだが、まずそれよりも何だこの教室は。
生徒は10人くらいで、女の子しかいない……。
しかもおそらく全員が実家は貴族なのだろうという雰囲気を放っている。
まあ、この学院において貴族だ平民だは関係ないらしい。
門をくぐった時点で貴族としての立場を利用すること、または学院で起きた諍いを外に持ち出すことも禁じているそうだ。
この学院が設立当初からの定めであり、そればかりは王族どころか王様であっても変えることは出来ないとのこと。
なんでも、帝国の学院が貴族中心のものにしたところ人材不足が著しくなったので、その同じ轍を踏まないようにだそうだ。
まあ、すぐ近くに失敗例があるのに、同じ過ちをする程愚かではなかったのだろう。
「まあなんだ。エリオダルトが来ると思ってたみたいで悪いんだが、よろしく頼む」
俺が言い終わるとぱちぱちと大きめの拍手がもらえる。
どうやら、心配していたお呼びでないムードではなさそうだ。
……むしろ、どちらかといえば歓迎されている感じだと思うのは、俺のうぬぼれだろうか?
「せーんせー。あんまり肩肘張らなくていいよー。気楽にいこー」
「そうそうー。エリオダルト様が来ても私達には勿体ないからさー。むしろ、お忙しいエリオダルト様の時間を取ったら申し訳ないくらいだったよぉー」
間延びした声で話す年相応ながらも可愛らしい生徒の二人。
双子……だよな?
えっと名簿に……ああ、あったあった。
初めに話した方がおっぱいで姉のラズ・ベルセン。
後に話した方がちっぱいで妹のクラン・ベルセン。
ベルセン侯爵家のご令嬢だそうだ。
侯爵家って……爵位がかなり上の方だよな?
それこそ、隼人やエリオダルトの伯爵家よりも上だった気が……。
そんなここに来なければ一生関わり合いのなさそうな二人がフレンドリーに俺に話しかけ、一番前の席で仲が良さそうに体を寄せて隣同士で座り、若々しいオーラを相乗効果を載せて放っている。
他の生徒も同じ様なことを考えていたらしく、うんうんと頷いており、どうやら気を使われたというわけではなさそうだ。
なるほどな……やる気がないと聞いていたのだが、だれていたりやさぐれていたりと目に見えるわけじゃないのか。
授業放棄とかされるんじゃないかと心配したのだが、それは大丈夫そうだな。
「そうか? なら、お言葉に甘えるかな。ああでも、仕事はちゃんとするつもりだぞ」
「おー。せんせーノリいいねー。教師ってかたっ苦しくて真面目な人が多くてさー。せんせーは比較的若いし分かってくれると思ってたんだー」
「まあ教師ってのはそういうもんだ。とはいえ、それがありがたい日も来るかもな。俺は臨時だし、楽にしていいなら楽させてもらうよ」
「せんせくらいが私達にはちょうどいいねぇー」
とはいえ、一度請け負った以上は仕事はしっかりとこなす。
エリオダルトへの依頼だったのだろうし、成果を生まなきゃお礼にはならないだろうし。
「さて、早速だが今日は質疑応答にしようと思う。俺に聞きたいこと。俺が聞きたいことを答えていってほしい」
「え、授業しないのー? いいのー?」
「ああ。お前らがどういう子達なのかも分からないし、俺がどんなやつなのかもわからないだろ? そんな中で進めるよりも、お互いの理解を深めてからの方が効率がいいと思ってさ」
簡単な話をすれば、褒めて伸ばす方がいいのか、たたいて伸ばす方がいいのかとかな。
まあ、そんな単純な話で済むのなら外部から講師を呼ぶような苦労はいらないと思うが……。
「んー質問かー。はいはいはーい! せんせはいくつですかぁー?」
「歳か? 歳は26だな」
「じゃあじゃあせんせーは恋人はいますかー?」
お、やはり定番はあるようだ。
「ああ。大切な人が6人ほど」
「わー意外と誑しだったよー」
「6人って……すごぉー……」
少しざわっとなり、後ろの方に座っていた生徒が手を挙げたのでどうぞと促すと、貴族らしく美しい所作で立ち上がる。
「経済力は大丈夫なのですか?」
「ん? まあ錬金で稼いでるからな」
「錬金で……。やはり、ポーションよりもアクセサリーや魔道具なのでしょうか?」
「そうだな。アクセサリーの方が収入面では多いな。でも、冒険者ギルドにポーションは毎回卸してるから、アクセサリーだけって訳じゃないけどな」
最近だとポーションはミゼラのばかり売れるけどな……。
まあ、弟子に人気を取られてかわいそうだと、既婚者や馴染みの連中は俺の方を買ってくれるんだけどさ。
「せんせーは錬金のレベルいくつなのー? 私たちは皆1か2だよー」
「俺か? 俺は9だぞ」
「おおー! せんせその若さで9なんだぁー!」
「普通に凄いー! 実はエリオダルト様にも引けを取らないとかー?」
「いやいや、あれは生粋の天才だろ……」
流石にアレと同一視されるのは気が引けるってもんだ。
「っていうか、皆もう錬金スキルは覚えてるんだな」
「そりゃあねー。錬金科だしぃー」
「第二とはいえ錬金スキルが覚えられないと入れないしねー」
「そういえば、第二ってなんなんだ……?」
「あれー? なにも聞いてないのー?」
「ああ。エリオダルトからは錬金科に教えてやってくれって言われただけだからな」
ついでに、どうせならやる気を出させて欲しいと言われたんだよなー。
「そっかそっかー。あのね、この教室に入って何か気づいたことはないかなぁー?」
「いい匂いがした」
「匂……匂いは違うと、思うよー? っていうか、恥ずかしいから匂いとか言っちゃ駄目だよぉー!」
「んー……じゃあ、女の子しかいない」
「正解ー。他にはー?」
「全員貴族のご令嬢か……?」
「正解ー。ではそこから行き着く答えはぁー?」
「……錬金で成功させなくても暮らしていける?」
「「惜しいー」ぃー」
惜しいんだ……。
「一応私達も継承権はないから、自分の生活は自分でなんとかしないといけないんだけどねぇー」
「でも、錬金で生活を整えるよりも結婚相手を探した方が現実的なんだよー」
「あー……」
「錬金するのが嫌なわけじゃないんだよー? でもね、親の願望的にも、貴族の娘が必死にあくせくポーションを作ってギリギリの生計を立てる……なんてのは、まずいんだよー」
「あー……」
「だから、体裁として学園に入るために錬金科には入れさせられたんだけど、錬金は才能があるなら頑張れって事で、どちらかというとここで優秀な伴侶を見つけろ。見つからなければ卒業後に家が探す。ってなってるんだよぉー」
なんだその、微妙に自由な状態は……。
一応学生のうちに結婚相手を選ぶ権利は与えるが、猶予付きなうえに優秀な相手じゃないといけない的な制限が付いている感じがして中途半端に微妙な気がするんだが……。
「あー……。じゃあ、別に錬金術師になりたいとかじゃないんだな……。そうなると、俺なんで呼ばれたんだ?」
「んー多分だけど、優秀な錬金術師を呼んで卒業くらいは出来るようにしてほしいって事だと思うよー。卒業の条件は錬金のレベルが3になるか、卒業に見合う成果を上げるかなんだよー。ちなみに、あと2年はあるんだよー」
「あー……」
もうあーしか言えないよね。
はぁぁ……結構気合入れてきたのにな……。
レベル3って、優秀で1年だとヤーシスが言ってたんだが……。
今まで多少なりやってきているだろうし、その猶予があと2年もあるのか……。
2になってる子もいるって言っていたし……俺、やっぱり必要なくね?
普通にやってれば上がると思うよ?
「だからエリオダルト様が来るって聞いて申し訳なかったんだよー……。あ、でもせんせーだから別にいいって訳じゃないよー!?」
「せんせにもごめんねー? こんな役をお願いするのは、申し訳ないと思ってるんだよぉー……」
間延びした声だから真剣みを帯びていないように思えるが、表情からはしっかりと申し訳なさが伝わってくる。
ほかの生徒達を見ても、同様なところを見ると皆いい子なんだな……と思わざるを得ない。
「んんー……」
どうしたもんかなぁー……。
要するに、彼女たちは錬金を必死に覚える必要がない……ってことだもんな。
やりたくない、やる必要がないなら、やらなきゃいいを信条としている俺としては強制なんぞはしたくない。
とはいえ、俺の都合だが何もしなかったっていうのもお礼として気が引けるし……。
確かに、ポーションで稼ぐには結構な成功率がいる。
ミゼラや俺達のように冒険者と提携して薬体草を稼いできてもらうにしても、最低でも3割の成功率は必要だ。
しかし、3割でも最低限暮らしていけるって程度だから、貴族のご令嬢としてはまずいと……。
「アクセサリー作りはどうなんだ?」
「んんー……正直売れるものを作れるとは思わないかなー……。能力が付かないと値段は付かないし、自分達で使うにしても不格好だから、買った方がいいんだよー」
「あとは指を傷つけるのはまずいんだよー。パーティとかには今も呼ばれるから、社交界で火傷や切り傷があると、恥ずかしい思いを親にさせちゃうからねぇー」
「あー……なるほど。そっか……」
「せんせー怒っちゃったー……? ごめんねー」
「せんせがやめたいなら、私達からせんせが悪くならないように口添えはするよぉー……。でも、出来ればせんせに教えてもらいたいなーって思うよぉー……」
「いや、怒ってないよ。えっと、じゃあ、皆もう結婚相手がいるのかな?」
「んんー……そういうわけじゃあないんだよー」
「このまま自由に生きられればいいなーと思いながら、現実的な未来と悩んでるうちに自由へと続く道を閉ざされた我儘で哀れな存在なんだよぉー」
なんだその微妙に転職時期を逃してその日暮らしを続けるサラリーマンのような意見は……。
今よりいいところに転職したい……でも、今のままでも生活は出来ているし……と悩んでいるうちに転職できない状態になっていたみたいな……。
あー……懐かしい……。
「自分で我儘で哀れな存在とか言うなよ……。じゃあ、出来るなら錬金で成功したいのか?」
俺が聞くと、全員が全員コクンと頷いて答えてくれる。
君ら仲いいね。
「そうだねー。出来るならそれがいいんだけど、難しいかなって思うよー」
「錬金以外に大した才能はないし、今更第一に追いつけるとも思っていないしねー、第一の中にはもう4割の成功率の子もいるんだってぇー」
まあ、それは確かに……。
第一の方は純粋に錬金スキルを修めて錬金術師になろうとしている者たちなのだし、今から追いつくのは難しいだろう。
「ポーション作りは効率的に諦めるか……。社交界があるからアクセサリーもダメと……」
「せんせー?」
「せんせ?」
本来なら基本であるポーション作りはおろそかにしない方がいいんだけどな……。
とはいえ、錬金術師としてやっていくわけではないのだから些細な問題か。
で、稼ぎ頭であるアクセサリーも現状は難しい……さて、何かあるかねえ。
「おーい。せんせー?」
「黙っちゃったら困るし怖いんだよー? 悪戯しちゃうよぉー?」
何なら売れるか……。
出来ればこの子達でしかできないことがいい。
競争相手は少なく、そのうえでこの子達だからと利点のあるもの……。
女の子……貴族……社交界……若さ……んんー……。
「むうう……。無視は良くないんだよー」つんつん
「頬っぺた突いても気づかないんだよぉー?」ふぅー
「ラズの吐息も効果なしだよー」
「次は私が試してみます」
「し、死んじゃってないよね……?」
何か……何かないか?
んんー……なんか出てきそうなんだけどなー……。
ああーすっきりしない。
喉の手前で引っかかっているようですっきりしない……ん?
「っ! 何してるんだ!?」
「あ、気が付いたー。誰? 誰が決め手?」
「何が!?」
気づいたら女生徒達に取り囲まれていた!
しかも、なんか距離が近い!
顔やら手やら体が近い!!
凄くいい匂いが、女学生の若い良い匂いが濃ゆ……い?
……あ、これだ。
「よし。お前らそのまま聞いてくれ。いや待て。ちょっと離れてくれ。近いから。お前ら全員近いからな? 淑女らしくな? な?」
そのまま聞かれたらまるで俺が女学生に取り囲まれるのを良しとしているみたいじゃないか。
初日だというのにいきなりそんな勘違いはとても困る!
臨時ではあるが教師としての沽券に関わってしまう。
「せんせがぼーっとしてたのにぃー」
「ぼーっとしてたと思ったら真面目な話なのー?」
「あー悪い。でもさ、いい案を思いついたんだよ」
「「いい案ー?」」
俺の自信満々の顔を見て少しの期待を持って聞き返す侯爵家のラズとクラン。
更には同じような顔を俺に向ける8人の貴族の娘たち。
そんな貴族の彼女達だからこそできる、いや彼女達でなければ作りえない名案を俺は口にした。
「お前たち……『ブランド』を作ってみないか?」