軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-19 アインズヘイルで休息を ブランド

……一体どうしたことでしょう。

このクラス、第二錬金科は貴族だけのクラス。

今更私の教養の授業などとっくに会得していて普段なら眠そうな顔をしているはずなのに、今日は皆しゃんとしているなんて……。

「せんせー。宿題はー?」

「え? あ、今日はありませんよ」

「よーし! それじゃあ、次は錬金の授業だから準備だよぉー!」

「「「「おー!」」」」

なんて機敏……っ!

未だかつて見ないほど皆さん機敏に動いていらっしゃる!

錬金の授業の準備を休み時間のうちにするなんて!!

普段の休み時間ならお茶を飲んでチャイムがなってから、あははうふふと談笑し、先生が教室に入ると慌てて片づけを開始していてもおかしくない程なのに!

はっ! そういえば昨日から臨時の講師がここにきているとか……。

エリオダルト様? ……は、違う。来れなかったそうだから……一体だれが!

「「材料はー?」」

「「「「大丈夫ー!」」」」

「「乳鉢と乳棒はぁー?」」

「「「「大丈夫ー!」」」」

「「お水の用意もー?」」

「「「「大丈夫ー!」」」」

確認にまで余念がない!

しかも全員真ん中の席の一番前の席と二列目の席だなんて!

極めつけは既に着席して待っている! 誰を?

例の講師を!

……いいなあ。

私もこんな、期待されて待たれるような教師になりたかった……。

本当に、一体どんな凄腕なのだろう……。

※※※

はぁー……。

暇だ。

やる事が無い。

眠くなりそうなほど暇だー……。

「だーかーらー! ネギンはないってばー!」

「でもでも、ネギンの匂いって良くないですか? 青っぽい匂いならやはりネギンだと思います!」

「今回のお題は社交界で使えるものだよぉー! 青っぽい匂いなんていらないんだよぉー!」

「でもでも、華やかな匂いばかり集めてもまとまりませんよ! やはりここは奇を衒ってネギン――」

「「「ネギンは却下!」」」

「それよりも、もっと調和を! まとまりをー!」

うーん……驚くほど真面目で順調だなー。

お、チャイムなった。

「お前らー。チャイムなったぞー。休憩しろ休憩ー」

「薔薇がいいかなー……? でも、やっぱりラベンダー? ああー柑橘系も捨てがたいー!」

「だから、数を作ってその中から候補を絞ろうよぉー!」

俺の話聞いてないし……。

後でトイレとか行きたくなっても知らないよ?

駄目! って言っちゃうよ?

大変なことになっちゃうよ?

……や、言わないけどさ。

んんー……俺が行ってくるか……。

で、戻ってきて授業開始のチャイムがなってもまだやってるよ……。

やる気十分なのは結構な事だが、休むことも大切なんだけどな……。

「じゃあ、班に分かれて授業終了前に品評会を経てベースを決めるよー」

「どうするー? 私はやっぱり薔薇の匂いを全面に押し出したいよー」

「柑橘系とミント系のすっきりとした清涼感を出したいですね……」

「ベリー系の甘酸っぱさを、もっと際立てるよー! 甘さの中にもきらりと光る酸っぱさが、可愛いだけじゃない女の子の強さを表すんだよぉー!」

「ふっふっふ……皆に知らしめてあげます。ネギンの底力を……」

ああー……うん。

俺の出番ないなー……。

でも、ネギンはやめた方がいいと思う……。

ふわぁ……しかし、あのクラスがこんなにもやる気になるとはな……。

『ブランド?』

『ああ。お前達が作る、お前達のブランドだ!』

『『『『……?』』』』

あれ? 反応が薄い……。

もっと盛り上がるところだよここ?

『ブランドって何ですかー?』

あ、そこ? だから盛り上がらなかったのね……。

あれ? でもいざブランドを言葉だけで説明するって難しくない?

『んんー……付加価値? 信頼と信用? 商品の特別化……?』

『せんせ……。せんせもよくわからないものを作らせようとしてたのぉー?』

『いや待て……んーそうだな。例えばだけど、アインズヘイルといえば、何を思い浮かべる?』

『キャタピラスー!』

『あー……うん。そうだな。そうなるよな』

認めたくないが、現在アインズヘイルの名産品はキャタピラスだ。

認めたくないのだが、そこを基準に説明していこう。

『今言ってくれた通りキャタピラスはアインズヘイルの名産品だ。キャタピラスといえば、アインズヘイル……そんな感じの事をお前達の規模でやろうって事だ』

『私達の規模? 私達が名産品を作るんですか?』

『ちょっとだけ違うかな。お前達だからこそって物を作るんだ。それがいずれブランドになる』

ブランドを作ってみないかと言ったが、ブランドを育てるといった方が正しかったかな。

『私達だからこそー? でも、私達は皆錬金のレベルも低いし、優秀でもないんだよー? そんな私達が作ったものでいいのぉー?』

『ああ。作るものは錬金の基礎で出来る物だ。それに、お前達にはお前達にしかない武器がある』

『おおお……自信満々だよー』

『頼りがいのある顔をしているよぉー』

そりゃあ自信があるからな。

『それで、私達はいったい何を作るのー?』

『ふっふっふ』

『もったいぶるのは無しだよぉー』

『そうだな……それじゃあ、発表するか!』

『ドキドキ、だよー』

『ワクワク、だよぉー』

『それは……香水だ!』

もし効果音があるのなら、デデーン! っと、音がしていることだろう。

そして、シーン……と音がしていることだろう。

……あれ? 思ったよりも反応がいまいちだな。

俺が思う盛り上がりポイントとずれているのは、もしかしてジェネレーションギャップというものなのだろうか……。

『あー……香水かぁー……』

『え、ダメか香水?』

香水ならポーションと違って魔力も必要ないから、失敗はしないだろうと思ったんだけどな……。

香水がだめだと石鹸とかシャンプーやリンスになるんだが、あれは洗浄効果をつけなくてはいけないから、作業が少し複雑化してしまうんだよな……。

出来れば、香水でブランドイメージを作ってから第二段階などに回したかったんだが……。

『うーん……あんまり好きな類ではないんだよぉ……』

『社交界でつけてくる人もいると思うんだが、いないのか?』

『それは勿論いるよー? でも、基本的にはせんせーよりも年上の女性で、キツくて強い匂いが多いから好みは分かれてるんだよー』

『あんまりキツイ匂いだと、いい顔されないし、嫌われる事もあるんだよぉー』

うんうんっと皆も頷いている。

どうやら思った以上に流行っている訳ではないらしい。

まあ、それはそれで構わない。

『そいつは好都合だな。つまり、現状の香水の改善点がわかってるってことだろう?』

『え?』

『キツイ匂いじゃなければいい。答えがわかっているのだから、需要を満たせばいいだけじゃないか。香りってのは、人が人に対して関わる五感の一つだ。視覚を満たすために着飾るのだから、嗅覚を満たすために香りをつける事は悪くないだろう?』

『お、おー? そう言われると、確かに程よい良い香りなら悪くないと思うよー?』

『商売の常は需要と供給だ。キツイ匂いじゃない香水に好感触が持たれて流行れば、需要が生まれる。それを供給すれば、商売が成り立つ』

『流行ればって……。あ、私達が社交界で使うんだー』

『その通り。お前たちが率先して、嫌みのない香水を使えば興味を持つ人が現れる。どこで手に入れたかを気にすることになる。となれば……』

『私達が作った物が売れる……』

『そう。そして噂は広がっていく。しかも、他所で売っている普通の香水ではなく、貴族が監修し、貴族が作った特別な香水だ。この条件を満たせる相手は、そういないだろう』

それこそが彼女達の武器。

いかに香水を作る者が他にいようとも、現場の声を聴き更には現場に足を運べて反応を窺えるのは、彼女達にしかできないはずだ。

『でも、錬金術師を抱えている貴族もいますよ? その方に真似をされては……』

『いや、それでもお前達の方が有利だよ。元祖ってのは、其れだけで特別だ。それに、ここには10人もいるんだ。言ったろ? 【お前達】で、ブランドを作るんだって。たった一人の貴族の意見で作った物よりも、より多くの貴族が意見を交えて作った物の方があらゆる面でクオリティが高いのは間違いない。そして、そのクオリティと信頼がお前達の象徴。つまりはブランドになるんだ』

だが、と顔を真剣なものに変えて説得力を持たせる。

ここが、一番大事なところだからな。

『ブランドってのは信頼と信用の証でもある。お前達が作った物だから大丈夫だとずっと思わせなくてはならない。だから、妥協は許されない。10人がいて、10人が認める香りでなければ商品にはできないくらいの厳しい審査と話し合い、それに研究が必要だ。誰かの意見に飲まれるな。ただし、否定することに固執もするな。相手の好き嫌いで判断するな。自分の意見を大事にしつつ、相手の意見を受け入れる器も必要でなければいけない』

『そんなに厳しくって……もしどうしても納得が出来ず、意見が割れたままだとどうすれば……』

まあ、当然そういうこともあるよな。

だが、ふっと笑みをこぼして最後に少し緩くした事を言う。

『まあ、もし意見が割れていくら話を交えても答えが出ないなら、2つ作っちまえばいい。商品化するのは、評価の高かった方にするとかな。難しいことを言うようだが、思考は柔軟に、だけど妥協はするなって事だ』

『お、おおー』

『でも、相手が貴族の女性だと数も限られますしあまり売れ行きは望めない気が……。そもそも一つ一つの単価は香水だとあまり上げられませんし、一度購入されたらしばらくは売れないんじゃ……』

『男性用や一般用のものも考えてみればいいさ。それぞれ好きなように作った自信作にお前達の名をつけた香水なんてのも面白いかもな。○○様がお作りになった香水……なんて、自分達の領地なら当然売れるだろうし、王都で全種類買える! ……なんて、店を出すのもいいと思わないか?』

まあ、サイズや濃度などで値段を抑える必要もあると思うが……。

どうせなら貴族用はガラス瓶に細工を施して高級感を持たせるのも悪くないかもしれない。

桐の箱に入れ、贈答用なんてのも面白いな。

『貴族じゃない普通の市民が香水を使うのかなー……』

『私達の名前を使って売れるのー?』

『売れるさ。貴族は庶民の憧れ。身近で手ごろでお前達に近づけるものがあるのなら、手に入れたい。いざという時のおまじないや、お祝いの場に……なんて、謳い文句をつけてもいいだろう』

『おー。贅沢品ではあるけど、一回で使い切らないしそれなら買ってくれそー!』

それに、と一つ付け加えておく。

『お前ら全員が全員とんでもない美人だしな。そりゃあ、世の女性なら憧れもするだろうさ』

天然のモデル……ってやつか?

貴族の娘だからって理由にはならないはずなのに、なんでこんなにも美人ばかりなのだろうな。

『なっ、なななー! 誑されたよー!?』

『これが6人の女性を囲う男の誑し術だよー! あまりにもナチュラルだったよぉー!』

『なんだよ。茶化すなよ』

『茶化したのはせんせだよぉー!』

『なんで、なんで俺が? って顔しているんだよー!』

いやそんな顔するだろう。

実際相当美人なのだし、褒められ慣れているのだろうから自覚もしてるだろう?

『なんだー? いっちょ前に照れてるのか? はっはっは』

『『ううう、うるさいんだよー』ぉー』

『まあ、ともかく。これで俺が説明できることは終わりかな』

『……うう、話を戻されたよー……』

『なんか悔しいよぉー……』

そりゃあ戻すだろう。

今は真面目な話をしているんだから、茶化しちゃ駄目なんだぞ?

『一つ言っておくが、しっかり悩めよ。俺がお前達をどうにかしてやるんじゃない。どうしたいかを決めるのはお前達一人一人だ。だが、もし現状を変えたい。このままじゃ嫌だって決起するのなら、俺は俺の持つ知識も経験も全部を出して手助けしたいと思ってる。だから……しっかりと考えて自分の意志で決めるんだ』

この言葉に、クラスの皆が押し黙り真面目に考えだす。

誰かに相談をするわけでもなく、自分自身の芯となるものに問いただしているように沈黙が訪れる。

『せんせは、成功すると思いますかぁー……?』

『する……って言えば安心するか? 夢を見させてやることなら簡単だが、世の中に絶対なんてないからな……。ただ、俺は成功させる気でいるぞ』

俺の嘘偽りない真っすぐな言葉に真剣な瞳で応えるラズとクラン。

そして二人は手を繋ぎ、言葉を交わさずに目と目で会話をして一度大きく頷いていた。

『……私達は、やりたいよー!』

『それがうまくいけば、私達の望みが叶うかもしれないからねぇー!』

望みね……。

いいねえ、若いのに強い意志がはっきりと見て取れる良い目だ。

なんか、俺おっさん度が上がってるなあ……。

若い子の瞳を見て良い目だとか……でも、実際心に芯を構えるような良い目なんだから仕方ない。

『わ、私もやりたいです! だ、だって……これが成功すれば騎士科のユー君とも結婚出来たり……』

『そうだね。あんたはお気に入りがいたけど、経済的理由で難しそうだったもんね。でも、自分でも稼げるなら……いけるかもね。……私も……』

『私も! 自分の香水を作ってみたい……。それを皆が手にして幸せそうにしてくれるなら、頑張りたいです!』

『まあ、一度くらいは……本気で何かに打ち込んでみたかったしねー。学生のうちに出来るなら、やってみたいな』

『わかる……。第一錬金科や騎士科とか冒険科が頑張っているのを見て、私達って、駄目だなー……って落ち込んでたもん……。でも、これで私達もやれるんだって証明できるよね!』

次々にやってみたいという声が聞こえてくる。

どうやら全員……参加するみたいだな。

『何度も言うが、絶対だなんてのは無いからな? 失敗して傷ついて、もう二度と錬金なんて……って、可能性もあるぞ。無駄な時間を過ごすかもしれない。それでも、やるって言えるのか?』

ここで再度確認と揺さぶりのために不安を煽る。

まあ……駄目だとしても家に帰って結婚すれば……なんて言葉を現状で言うようじゃ、はっきり言って足りないけどな……。

だが――。

『……不安はあるよー。でも、それ以上に期待が持てるよぉー!』

『やるよー! せっかく訪れたチャンスだもんー!』

『やるからには、本気で取り組みたいです!』

ラズとクランに続くように、それぞれが強い気持ちを乗せた言葉や視線を送ってくる。

どうやら、そんな甘い考えでいる子はいないらしい。

やる以上は本気……ならば、俺も真剣に全力で応えるとしようか。

『ならよし! わからないことがあれば何でも聞いてくれ。俺がわからない事でも、俺の師匠や先輩がわかるだろうから聞いて答えるようにする。俺は臨時の講師だが、講師期間が終わっても相談には乗ってやるよ』

ここまで焚きつけたんだ。

焚きつけるだけ焚きつけておしまい……だなんて、無責任な真似は出来ないよな。

まあ、ベースはしっかりと期間中に叩き込むから、あまり心配もいらないだろう。

『せんせー! それは最後まで責任を持ってくれるってことですかー?』

『ん? ああーまあそうだな。お前達が成功するように――』

『よーし! せんせが最後まで責任を持つらしいよー! ダメだったらせんせのお家で住み込みの弟子入りすれば、将来安泰だよぉー!』

『……へ?』

いや待て。そんなことは一言も言っていない!

住み込みの弟子入り……?

俺が面倒を見るの!?

『待て待て待て。騒ぐな。落ち着けって! そこ! なんでキャー! だ! 何もしねえよ! じゃなくて!』

『最後までって言ったら、駄目だった時の保険も含むんだよー?』

『お前達、駄目だったら結婚するんじゃないのかよ!?』

そんな覚悟では……とは思ってはいたが、とはいえ実際問題駄目ならそうなるよな……と思っていたのに!?

……これはまさか、俺の方の覚悟が足りてなかったということか!?

『夢を見させておいて今更戻れる気はしないよー! 少なくとも、私とラズは一緒にお世話になるよぉー!』

『や、待てって! お前いきなりそんな……』

ウェンディ達が許してくれるわけ……だ、駄目だ。

許してはくれるだろうが、暫くの間諦められた目で見られる未来しか見えない!

それに俺にはミゼラという立派に育て上げなければいけない弟子もいるのだ。

この子たちは大丈夫だと思うが、王国のハーフエルフに対しての意識も心配だし……。

っていうか、ラズとクランは侯爵家のご令嬢……。

隼人に助けを求める……? ダメだ迷惑しかかけられない!

『平民がっ! 娘を誑かしおってっ!』

なんて、冗談ではない未来が見える!

うん。それは無しだ。無し無しの無しの方向だ。きっぱりと否定しよう。

『あのな――』

『流石に冗談だよー。まあでも、駄目だったらもしかして……だよー?』

『駄目にはならないんだよねぇー? せんせ?』

『っ……ああ。意地でも成功させてやる。だからお前らも、本気で取り組めよ』

って、なったんだけどな……。

俺、今はやることがないです。