作品タイトル不明
閑話・各地の開催前夜
白神祭が翌日に迫り、各地でもやはりその祭りのことが話題に上がっていた。
魔界の最北、死の大地にある居城では死王アイシスが、非常に上機嫌な様子で紅茶を飲んでいた。
「ずいぶん楽しそうですね、アイシス様?」
「……うん……明日は白神祭……いつも勇者祭とかに参加する時も……ひとりだったけど……今回はイリスとポラリスが居るから……すごく楽しみ」
イリスの問いかけに傍目に見ても嬉しくて仕方ないという感情が伝わってくる表情を浮かべるアイシス。彼女は、魔界の頂点の一角であり勇者祭はもちろん人界三国の建国記念祭などにも招かれる。
しかし、いままでのアイシスには配下はおらず、参加する時はいつもひとりであり……他の六王たちが同行者と共に参加しているのを見ると、いつも孤独な気持ちが強くなった。
正直に言ってしまえばアイシスは勇者祭もあまり好きではなかったし、義務として参加していただけでいつも憂鬱だった。
「私もそういった行事からは長らく遠ざかっていたので、楽しみですね」
「楽しむのは結構だが、くれぐれもアイシス様の配下として恥ずかしくない行動を、な?」
「筆頭殿はお堅いねぇ」
だが、今回は違う。いまのアイシスには配下がふたりもおり、イリスもポラリスも今回の白神祭にアイシスの同行者として参加する。
それがアイシスにはたまらなく嬉しく、白神祭の開催日が近づくにつれどんどん上機嫌になっており、いまも本当に楽しみにしているのが伝わってきた。
そんなアイシスの姿を見て微笑まし気な表情を浮かべながら、イリスとポラリスはアイシスと同じテーブルでお茶と雑談を楽しんだ。
また同じころ、魔界にあるセーディッチ魔法具商会の本部の一室では、とある人物が護衛ふたりと共に居た。
「いいですか、トーレ姉様! 参加は認めましたが、絶対に私たちふたりの傍を離れないでくださいよ!」
「うんうん! お祭り楽しみだね~屋台とか沢山回りたいなぁ~」
「……シエン」
「チェント、言うだけ無駄だと思う。私たちがいつも以上に注意するしかないよ」
ニコニコと楽しそうに笑うトーレに対して、チェントとシエンは複雑そうな表情を浮かべて顔を見合わせた。
今回の白神祭は、かなりの混雑が予想されるため一度はぐれればトーレの捜索が困難になる。だからふたりとしては、今回の祭りには不参加にしたかった。
しかし、なんだかんだでトーレに甘いふたりは押し切られ、結局トーレの参加を許すことになった。
「流された私たちの自業自得とはいえ、いまから胃が痛む思いだ」
「うん……基本的にトーレ姉様と手を繋いで歩こう、絶対に離さないようにしないと……白神祭の規模じゃ一度抜け出されたら、見つけられない可能性が高いよ」
「いっそ、ツヴァイ姉様にも動向を頼めないものか……」
「そうしてもらえるとありがたいけど、ツヴァイ姉様は明日は仕事で参加できないって……」
楽し気なトーレとは裏腹に、チェントとシエンはいつも以上の緊張と共に戦々恐々としながら白神祭の対策を話し合っていた。
人界にある快人の家の庭では、ネピュラとイルネスが庭の改修について最後の打ち合わせを行っていた。
「あの辺りから、伸ばすようにして……来客を通せるように道を……」
「そうですねぇ。カイト様の家に関してはぁ、馬車での来客は~ほぼ無いと思いますのでぇ、あまり広くなくてでいいと思いますねぇ」
「はい! あとは、花壇ですね。ベルフリードやリンドブルムが遊ぶのを邪魔しないように、この辺りですね」
「はい~こちらもぉ、予定通りでよさそうですねぇ」
快人から庭を改修する許可を貰ったあとネピュラとイルネスは何度も打ち合わせをして改修案をまとめており、もうほぼ修正するところはないぐらいに完成されている。
実行に関しても、ふたりの能力なら一日どころか半日もかからず改修を終えることができるだろうし、現在行っているのは予定通りに進めても問題ないという最終確認だ。
「あぁ~それとぉ、以前言っていた~紅茶の件ですがぁ、カイト様の好みを考えると~この辺りの茶葉がいいと思いますねぇ」
「いいですね! どれもよい茶葉になりますし、他ともブレンドしやすいです。主様は、あまり癖が強くない紅茶がお好きなのですね」
「そうですね~シンプルなものとぉ、少し甘みのあるものを好んでいますねぇ。逆に~癖の強い味はぁ、あまり好みではないようですぅ」
「なるほど……ならこの茶葉はいいですね。ストレートでもほのかな甘みを感じられますし、クッキーなどとの相性もいいです」
庭の改修についての打ち合わせは終わり、ふたりはイルネスが持ってきた紅茶の茶葉がまとめられた本を一緒に読みながら、家の裏に作る予定の畑についても話し合っていく。
まだそれほど長い付き合いとは言えないものの、すっかり気が合い仲良くなったふたりは、互いに楽しそうに快人が喜んでくれるであろうことを相談していった。