軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・知らぬが仏

明日に迫った白神祭、神界初の試みでもあるその行事を前日に控え、神族たちは最終確認作業を行っていた。

ここまで時間をかけて準備してきたこともあり滞りなくチェックは進み、最高神の三人から明日の心構えを伝えるために神族たちを集合させたタイミングで、クロノアがひとり呟くように声を発した。

「――畏まりました。では、そのように手配します」

近くにいたフェイトとライフは、その様子でシャローヴァナルからなんらかの指示があったことを察し、他の神族たちを静かにさせた上で、クロノアの言葉を待つ。

するとクロノアは集まった神族たちに視線を動かしたあとで、シャローヴァナルからの指示を伝える。

「たったいま、シャローヴァナル様より指示があった。明日の白神祭において、ミヤマ一行が中層に辿り着いた際に、天空神が案内を務めよとのことだ!」

「え!? わ、私ですか!? 最高神様ではなく?」

クロノアから伝えられた指示は、他の誰よりも当人である天空神スカイが驚愕する内容だった。彼女にしてみれば、なぜ自分が指名されるのか、その理由がさっぱり分からなかった。

神界にとって極めて重要といえる快人の案内……それを、交友のあるクロノアやライフ、さらには快人の恋人でもあるフェイトを差し置いて己に任される理由など本来は無いはずだ。

それでも、最高神に関しては今回の祭りの中心なので案内には回らず運営を行うと考えれば納得ができるが、上級神の中から選ぶにしても、快人と交友があり上級神としての立場も一番上である災厄神が本来なら第一候補になるはずだろう。

(無論、シャローヴァナル様の指示である以上拒否などあり得ない。わざわざ災厄神ではなく私を指名するということは、なにかしらシャローヴァナル様には深い考えがあるのでしょう)

驚きつつもそこは神族。シャローヴァナルの言葉は絶対であり、天空神は戸惑いつつも快人の案内について了承した。

シャローヴァナルには己では及ばない深い考えがあるのだろうと、そう思いながら……。

もちろん『深い考えなどなにも無く』、ただ単にガラポン抽選機で選ばれただけなのだが、彼女にそれを知る術はない。

重大な役割を任されたと緊張と共にやる気を漲らせるスカイの肩に、ポンッと手が置かれた。振り返ってみると、そこには穏やかな微笑みを浮かべた直属の上司であるライフの姿があった。

「シャローヴァナル様直々のご指名、大変栄誉なことですね。優秀な貴女であれば問題なくこなすでしょうが、しっかりと気を引き締めて臨んでください」

「はい!」

「……まぁ、もちろんあり得ないことだとは思います。ただ、念のために忠告をしておきますね」

「……は、はい?」

非常に優しい声で伝えながら、普段は閉じていた目を少しだけ開くライフ……口元はいまだに微笑んでいるが、赤い目は……笑っていなかった。

「万が一なにかしらの粗相があった場合は……貴女がこれまで生きてきた中で味わった『あらゆる苦痛や苦しみ』が、本当はあまりにも『甘く優しく幸せなもの』だったと……『その身をもって実感することになるでしょう』が……その心配はいりませんよね?」

「ひぇっ……は、はい!」

最高神の中で、シャローヴァナルへの不敬に関して一番厳しいのはライフである。そして今回のスカイの案内は、シャローヴァナル直々の指名でありその案内で粗相をすることは、シャローヴァナルの顔に泥を塗るに等しい。

故にライフの言葉は脅しではない。実際に粗相があった場合は確実に実行されるであろう未来であり、それをよく理解しているスカイは震えながら頷いた。

スカイは神族の集団から離れ、血眼で白神祭の日程を何度も何度も確認する。そんな彼女の元に宙に浮かぶクッションに乗ったフェイトが近づいてきた。

「お~い、天空神」

「ッ!? これは、運命神様!? なにか御用でしょうか?」

「ちょっと気負い過ぎかなぁって思って、生命神も本当に意地が悪いよね。あんな『実際には絶対起こりえないってわかってる脅し』をするなんてさ」

「え? えっと……」

のんびりと告げるフェイトの言葉に、スカイは戸惑ったような表情を浮かべた。スカイはライフの直属の部下であり、彼女が知りえるライフの性格上……間違いなく粗相があった場合己に待ち受けるのは死よりもつらい地獄だと確信していたのだが、フェイトはソレが起こりえないと口にする。

「……だってさ、それが『粗相である』って……誰が判断するの?」

「そ、それは、ミヤマカイト様では?」

「うん、そうだね。その上で、カイちゃんってすっごく優しいよ? そのカイちゃんが、仮に天空神がなにかしらの失敗をしたとして、それを粗相だ~なんて言うわけないじゃん」

「……そう、言われてみると……」

「カイちゃんが粗相だと思ってないのに、生命神が勝手に判断するわけにもいかないでしょ? さらに言えば、確認しようもないね。シャローヴァナル様の恋人であるカイちゃんに『今日の案内でなにか粗相がありましたか?』とか、そんな質問するほうが不敬だからね。結局、生命神にソレを判断する術はないから……今回のは、気が緩まないように釘を刺しただけだよ」

そう言って笑うフェイトを見て、スカイは明らかにホッとしたような表情を浮かべた。

「天空神……シャローヴァナル様からの指名で、『ちょっと浮かれてた』からね。生命神も最近そういう細かい感情の機微に気付くようになってきたからね~」

「な、なるほど……」

「まぁ、そんなわけで気負わずに頑張りなよ~」

「は、はい! ありがとうございました!」

ヒラヒラと手を振って去っていくフェイトを頭を下げて見送ったあとで、スカイは顎に手を当てて思考する。

たしかにフェイトの指摘通り、シャローヴァナルから重要な仕事を任されたとあって、内心舞い上がっていたのは否定できない。

(……ご指摘を賜れたのは本当にありがたい。自分では気づきにくいものですからね……浮かれ過ぎないように己を律しつつも、肩に力が入って空回りしないようにしなくては……シャローヴァナル様が私の能力を信頼して任せてくださった大役、必ず完璧に遂行してみせます!)

……なお、能力云々は関係なく、抽選機を回したのも快人である。

(最近最高神様方には変化が表れている。アレはおそらく、以前シャローヴァナル様が仰っていた成長の兆候なのでしょう。最高神様の次は、私を含めた上級神の成長が期待されていて、私はその先駆けということなのでしょう!)

……シャローヴァナルにそんな意図はまったく無い。

(シャローヴァナル様には私には及びもつかない深いお考えがあるに違いありません! きっと、今回ミヤマカイト様の案内を務めることが、私にとっても大きな糧となるからこそ、最高神様や災厄神を差し置いて私が選ばれた)

……くどいようだが、選んだのはガラポン抽選機であり、シャローヴァナルは一切細工をしていないので完全にランダムである。

(よ~~~しっ! 頑張るぞぉぉぉ!!)

……世の中には知らない方が幸せなこともあり、やる気に満ちているスカイにとってもまた己が選ばれたのがガラポン抽選機による抽選の結果だとは知らないままの方がいいだろう。