作品タイトル不明
深まる絆と約束
穏やかな昼下がり、窓から差し込む温かな日差しが眠気を誘う。そんな心地よい空気の中、俺は紅茶の入ったティーカップを傾ける。
地球に居た頃はどちらかと言えばコーヒー派ではあったが、こちらの世界に来てからは紅茶を飲む機会が多かったこともあり、いまでは俺も多少は違いが分かるぐらいに紅茶好きになっていた。
ちなみに、今日の紅茶は……なんかアレだ。えっと、ちょっとホッとする甘みを感じるとか、だいたいそんな感じだ。まぁ、美味しければいいんじゃないかなぁとも思う。
「そういえば、結局白神祭に間に合わなかったなぁ、挨拶回り」
「ああ、そう言えばまだ七姫の途中でしたっけ?」
「うん。あとは薔薇姫と大樹姫と桜花姫の三人と予定が合わなくて、白神祭のあとに顔合わせをする予定」
「なるほど、まぁ別に焦る必要もありませんしね」
「だな」
俺に焦る必要はないとそう言いながら、紅茶を飲むアリスの言葉を聞き頷く。六王幹部への挨拶はあらかた終わってはいたのだが、まだ七姫が三人残っている。
しかし、アリスの言う通り別に白神祭までに会わなければならないというわけでもないので、終わったあとにゆっくり会えばいいだろう。
ちなみに、神界初の祭りとなる白神祭までもう十日を切っており、最近はどこに行ってもその話題で持ちきりだ。
先日は中層で行われる事前予約性の礼拝などのイベントの抽選発表があったらしく、それもかなり騒ぎになっていたみたいだ。
聞いた話では俺は別に顔パスで行っていいらしいのだが……シロさんに祈りを捧げるもなにも、夕方からは神域に行くことになっているので、わざわざ行く必要もないだろう。
「……ところで、さ。そろそろツッコミ入れていいかな?」
「なんすか?」
「……なんでお前『着ぐるみ姿』なの?」
アリスは、最近ではあまり見なかった。というか、分体には着させているが、それ以外では着ていなかったねこの着ぐるみを着ている。
着ぐるみ状態でどうやって紅茶を飲んでいるのかも気になるところではあるが、それ以上にそもそもなぜ着ぐるみを着ているのかが疑問だった。
「……おっと、いまのアリスちゃんの取り扱いには注意してくださいね。爆発しますよ?」
「なにが?」
「羞恥心が……」
「お前まだ、引きずってるのか……」
どうやら着ぐるみを着ている理由は、単純に恥ずかしいからだったみたいだ。前の縁日デートのことをまだ引きずっているらしい。
いや、正しくは俺が覚えているという結果自体は受け入れたものの、恥ずかしいものは恥ずかしいといった感じだろう。
なんともアリスらしい理由で、本人には悪いが可愛らしいと思ってしまった。そしてそうなると、ちょっとしたイタズラ心も芽生えてしまう。
「……海」
「ッ!?!?」
俺がボソリと呟くと、分かりやすいぐらいに動揺したアリスが飛び跳ね、それを見て吹き出してしまった。
「ぷっ……あはは」
「……カ~イ~ト~さ~ん~!」
「ごめんつい反応が面白くて……ははは」
「ははは、じゃねぇっすよ! 心臓に悪いです……はぁ、本当に、カイトさんって私に対しては時々Sになりますよね」
「う~ん、言われてみれば確かに……それだけ気を許してる証拠かな?」
「うぐっ、それはズルいです。そう言われると、これ以上文句も言えないじゃないっすか……」
アリスの言ったことには割と自覚はある。どうにもアリスとは恋人になる前から仲のいい友達として接していたので、ある意味一番素に近い感じで話せる相手かもしれない。
あといちいち反応が可愛いので、ついつい意地悪をしてしまうというのもある。
「……けど、いつかふたりで行けたらいいな、海」
「……そう、ですね」
俺としては別に急かすつもりもなく、いまの言葉も話をここで区切るために告げた。しかし、俺の言葉を聞いたアリスは、少しして着ぐるみを消し……仮面を外した状態で、俺の方を向く。
恥ずかしがっているのか頬は赤く染まっているが、瞳に宿る光は力強く……なにかを決意しているようにも感じられた。
「……まぁ、その……そんなに長く待たせる気は無いので」
「……そっか」
「予想外だったとはいえ、あの一件で多少恋愛経験値が上がったのか、少しだけ積極的になれるようになった気がしますよ……恋愛クソ雑魚なのは変わってないので、カイトさんには容赦してもらいたいところですが!!」
「いや、だから後半……力強く宣言するなよ」
胸を張りつつ自分を恋愛クソ雑魚だと評するアリスを見て思わず苦笑する。本当に、なんというか……アリスらしい。
「なぁ、アリス。ひとつ要望を聞いてもらいたいんだけど……」
「なんすか? 内容によりますよ?」
「一緒に海に行くときは、アリスの普通の水着姿も見てみたいなぁって」
「うぐっ……そ、そうきましたか……」
別にビキニじゃないと駄目だとかそういうわけじゃないが……前に皆で海水浴に行った時は、肌の露出を極限まで削った水着だったので、可愛い水着を着たアリスも見てみたい。
アリスは俺の要望を聞いてしばらく悩むような表情を浮かべたあと、少しして恥ずかしそうに呟く。
「……じゃぁ、なんか、そういう水着……買ってください」
「なら、今度一緒に買いに行こうか」
「そうっすね……あんまり際どいのとかは駄目ですからね!!」
「分かってるって」
そう言って微笑みを零しながら、先ほどのアリスの発言を思い返していた。たしかに、あの縁日のデートはアリスにとっても俺にとっても、かなりいい切っ掛けになったのかもしれない。
少なくとも、それまでよりずっと……アリスとの距離を近くに感じる気がした。