軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アリスと縁日デート⑦

黒い月の浮かぶ一面白い空間……そこに居たマキナは、不意に空間への入り口が開く気配を感じて振り返る。

この空間へ自力で来れるのは、鍵を渡しているアリスだけなので必然的に誰が来たかはすぐに分かった。

現れたアリスは、やや俯き気味かつやや早足でマキナの元に近づいてきて、それを見たマキナは笑顔を浮かべて片手を上げる。

「アリス、いらっしゃ――ふぐぅ!?」

そしてアリスが放った凄まじい威力の拳が、マキナの腹に叩き込まれて、たまらずマキナは片膝をつく。するとアリスは片膝立ちになっているマキナの膝を踏みつけて跳躍すると共に、マキナの顔に膝蹴りを叩き込む。

「へぶぅっ!?」

空間が揺れるほどの威力の飛び膝蹴りを受け、マキナはキリモミ回転しながら吹き飛んでいったが……そこはやはり圧倒的な力を持つ存在であり、直後には何事もない様子でアリスの前に戻ってきた。

「……出会い頭に腹パンからのシャイニングウィザードって……殺意が、殺意が高すぎるよ」

「……」

「う~ん……えっとね、もしかしてだけどね……怒ってる?」

「怒ってるに決まってるでしょうがぁぁぁぁ!?」

マキナが尋ねた直後アリスは憤怒の表情を浮かべてマキナの胸倉を掴みつつ、鋭い目で睨みつける。

「よくもやってくれましたね、貴女!!」

「な、なにをかなぁ……」

「貴女自身に関することは除外するとして、そこまでの縁日での出来事は覚えていなくって、私とのデートだけ覚えてるってことは……私たちと別れたあとで、あの空間をトリニィアに移動させやがりましたね? おおかた、シャローヴァナル様あたりに異世界の祭りを紹介するとか、そんな建前で!!」

「……さすがアリスだよ。ほぼ完璧に正解」

「……」

「……てへっ――あだだだだだ、痛い!? コ、コブラツイスト!?」

いらずらがバレたような……実際その通りではあるが、そんな笑みを浮かべたマキナに、アリスは素早く関節技を仕掛ける。

「あっ、外れ――フランケンシュタイナー!?」

アリスはコブラツイストから流れるような動きでマキナの顔を両足で挟み、引き寄せるように回転してマキナの頭を地面に叩きつける。

そして地面に倒れたマキナへの追撃のため、跳躍した。

「いたた……今度は、なにもない空中を蹴って跳躍して空中で回転。あっ、フェニックススプラッシュだ――痛いっ!?」

プロレス技を連続で叩き込むアリス……無論その一撃一撃には桁外れの魔力を込めており、一撃で星も消し飛ばせる威力だ。

……まぁ、もっとも、それでもマキナにとってはハリセンで頭を叩かれている程度のダメージすらないので、彼女の理不尽さがうかがえる。

そんな相手だからこそ、アリスも全力で攻撃しているとも言えるのだが……。

「難易度の高いコンビネーション……技巧派だよ。けど、その反応ってことは我が子とはいっぱいイチャイチャできたんだよね! それなら私も、策を講じたかいがあるってものだよね」

「……なんというか、全然悪びれませんね、貴女」

「だって、アリス、恥ずかしかったことに関しては怒ってるけど……私が『騙したことに関しては怒ってない』みたいだしね」

「……はぁ」

微笑むマキナを見てアリスは毒気を抜かれたようなため息を吐いた。そのままいろいろなものを呑み込むような複雑な表情を浮かべたあとで、肩の力を抜いてマキナの隣に座る。

「……まぁ、あんな機会でもなければ、なかなか私の方からアプローチはできなかったでしょうし……カイトさんがデートのことを忘れてなくて、どこかホッとした気持ちがあったのも事実ですしね。ハメられたことに関しては、腹が立ちますが」

「あはは、ごめんごめん。でも、アリスはちょっと奥手すぎるよ。せっかく我が子と恋人なんだし、もっとガンガン行けばいいのにさ」

「貴女はガンガン行きすぎなので、もっと抑えて欲しいところですが……」

「それはね、私も反省してないわけじゃないんだけど……改善できるかどうかは別なんだよねぇ」

たしかに発覚直後は怒りに震えていたアリスだったが……冷静に考えてみれば、マキナのやったことはアリスにとってプラスになることだ。

彼女なりに積極的に行動できた経験は、なかなかに得難いもので、恋愛に奥手なアリスの今後の改善へと繋がるだろう。

結局のところ、マキナの行動は悪意ではなく善意である。アリスのためを思って行ったことであるというのが、アリスにも分かっているため、そこまで強く咎める気にはならなかった。

「……そういえば、シャローヴァナル様にこっちの世界の祭りについて教えたのって、シャローヴァナル様側からの要望ですか?」

「うん、最近わりと他の世界の情報を集めてるみたいだよ。たぶん我が子とのデートとかで活用したいんだろうけど、他の世界での恋人同士の定番のイベントとかも調べてるみたい」

「というか、シャローヴァナル様って貴女以外の世界創造主の知り合い、居るんすか?」

「……ほぼいなかったね。シャローヴァナルは本当に恐れられてるし……ただ最近、新しい交友先作ったみたいだよ」

「ほう、それはちょっと興味ありますね」

「簡単に言えば、かつてのネピュラの配下なんだけど……たしか、名前は――」

互いに気心知れた親友同士だからか、いつの間にか穏やかな空気に変わり、ふたりはいつものように雑談を始めた。