軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アリスと縁日デート⑥

アリスとの縁日デートは、とても楽しく幸せな空気のままたっぷりと時間を使って沢山の屋台を回った。

幸いこの空間から元の世界に戻れば1分しか経過していない時間に戻れるので、時間を気にすることなく思いっきり楽しむことができた。

アリスも恥ずかしがり屋なのは相変わらずではあったが、恥ずかしがりながらも終始笑顔であり、彼女も非情に楽しんでくれたことを実感できた。

そして十分すぎるほどの屋台を回り終えたあとは、神社の境内に戻ってきて雑談をしていた。どことなく少ししんみりとした気分になるのは、楽しかった時間の終わりが近づいているからだろう。

子供の頃に母さんと父さんと一緒に行った遊園地で日が落ち始めた時もこんな気持ちだったような覚えがある。

それだけ、アリスとふたりで回る縁日が楽しかったということの証明でもあるが……。

「……しかし、思いっきり回ったな」

「はい。楽しかったっすね。なんというか、思いっきり羽を伸ばしたって感じですよ」

「アリスの要望通りの恋人らしいこともいっぱいできたしな」

「ぁぅ……思い出すと顔から火が出そうですよ。けど、そうですね……幸せでした」

そう呟くアリスの表情はどこか少し寂し気な感じで、なんとなくではあるが俺が今感じている名残惜しさとは別の感情が彼女の中にあるような気がした。

ただこれもなんとなくではあるが、あまり踏み込んでほしそうな感じではなかったので、俺はなにも聞いたりせずアリスの肩を抱き寄せる。

アリスは少し苦笑を浮かべたあと、嬉しそうな顔で身を寄せ、甘えるような仕草で俺に軽く抱き着いたあとで呟く。

「……はぁ、今日ぐらい素直になれるように、これから頑張らないといけないですね」

「うん?」

「いえ、今日の私はなんというか、ちょっと『ズルしてる』ので少し後ろめたかったりもするんですよ」

「……そっか」

「……聞かないんすか?」

「必要ないだろ。なんとなく予想はできるし……それに大事なのは、アリスが楽しかった、幸せだったて思ってくれたこと。その上、俺も同じ気持ちが共有できたんだから、大満足以外に言うことなんてないよ」

「もぅ、そういうイケメン発言を時々サラッとしちゃうから、私が照れまくっちゃうんすよ」

あくまで予想ではあるが……俺はおそらく向こうに戻った時には、この空間での出来事を覚えていないのだろう。

マキナさんに関することと同じで、向こうの世界では思い出せずこちらに戻ってきた時だけ思い出せるような、そんな感じなのだと思う。

だからこそ、恥ずかしがり屋のアリスがいつもより思い切った行動をとれたのだと思う。

そんなことを考えていると、不意に首に手が回され、アリスがギュッと抱き着いてきた。

「……カイトさん」

「うん?」

「また今度……頑張って、私の方から誘いますから……一緒に海に行きましょう。前に皆さんといった時とは違って、ふたりっきりで」

「あぁ、楽しみだな……」

「コテージのあるところがいいです。泊りがけで……」

「……アリス」

優しい声で呟かれた言葉、アリスにとって特別な意味を持つその言葉に俺が驚くのとほぼ同時に、この日初めて……アリスの方から俺にキスをしてきた。

そのまま十秒ほど唇を重ねたあと、ゆっくりと顔を離してから……アリスはとびっきりの笑顔で告げた。

「……カイトさん、愛してます」

その表情は本当に、忘れてしまうのがもったいないほどに美しくて……愛おしかった。

アリスの親友に会いに出発して、その一分後の時間に戻ってきた。もちろん場所はアリスの雑貨屋である。

結構な時間をむこうで過ごしたはずだし、縁日という関係上夜だったのに戻るといきなり昼だから、なんとなく戸惑ってしまう。

そんな俺とは対照的にいつも通りの調子のアリスが紅茶を用意してくれたので、それをいただく。

しかし……あれ? おかしいな? なんか違和感があるというか……具体的になにがおかしいとはすぐに思い至らないのだが、なんか違う気がした。

その原因がなにかを考えていると、その様子を見たアリスが首を傾げながら尋ねてくる。

「カイトさん? どうしたんすか?」

「いや、なにかおかしいというか、予想と違うというか……」

「うん? よくわかりませんが……とりあえず、茶菓子でも用意しますか?」

「いや、お腹が膨れてる感じはしないけど、『さっき屋台で散々食べた』から、あんまり食べる気分じゃ――うん?」

「ッ!? な、なな……」

俺が自分の発言に違和感を覚えるのと、驚愕したアリスが手に持っていたカップを落としたのはほぼ同時だった。

床に落ちて割れたカップに目を向けることもなく、アリスは心底信じられないといった表情で震える指を俺の方に向ける。

「……カ、カイ、カイト……さん……おお、覚えて……るんすか?」

「え? あっ、う、うん。覚えてる」

ようやく違和感の正体が分かった。そう、俺はアリスと縁日を回ったことをしっかり覚えているのだ。こっちに戻ったら間違いなく忘れるだろうと思っていたはずのに……。

「な、なんで、どうして? カ、カイトさん! 私のもうひとりの親友の名前は!?」

「え? ……あれ? 駄目だ、思い出せない。アリスの親友に関することだけ、すっぽり抜け落ちてるような感覚がする」

「で、でも、私とのデートに関しては……」

「……バッチリ覚えてる」

「~~~!?!?!?」

俺の言葉を聞いた瞬間、ボンッと爆発音が聞こえそうな勢いでアリスの顔が赤くなる。そのままプルプルと震えていたアリスだったが、頭の回る彼女はすぐになんらかの原因に辿り着いたらしく……表情が羞恥から、憤怒へと塗り替わっていく。

「―――――!!!!」

そしてアリスは、あらん限りの声で俺には聞き取れない誰かの名前を叫び、その絶叫により雑貨屋全体が揺れたような感覚がした。