作品タイトル不明
宮間快人の長い一日⑤
マキナの要望を渋々承諾し、協力を約束したアリスは快人を誘いに行こうとするマキナに告げた。
「……いいですか、マキナ。何度かは止められると思いますが、正直この手は不意を打つからこそ有効なので、回数に限りがあることは理解してくださいね」
「うん! 大丈夫、私の方でもいろいろ対策してるから!」
「へぇ、その対策の効果の期待は?」
「……そのね、そもそもね……その対策でどうにかなるようなら、最初からアリスに助けを求めてなんて……ないんだよ」
「……ですよね」
マキナの方でも出来るだけ暴走しないように対策を講じてはいるが、正直それは焼け石に水といったレベルであり、そもそも自制ができるなら普段からやっている。
あくまで、今回はどうしても暴走せずに快人と一日過ごしたいという、並々ならぬ決意の元講じた対策だった。
アリスはそこはかとない不安を感じつつも、意気込む親友をやや呆れた表情で見送った。
果たして不安は現実となり、いくつかの自己対策もそう長く持つことはなく、マキナは暴走を迎えようとしていた。
(……あぁ、駄目これ、愛しい我が子が可愛すぎて、もう我慢できないよぉぉぉぉぉ!)
まさに理性が吹き飛ぶ数秒前という、そんな状況でふとマキナの視界にアリスの姿が映った。しかし、頼んでは見たものの、正直マキナ自身どんな方法を使ったとしても、いまのこの昂ぶりを抑えられる気がしない。
いったいアリスはどんな手をと、僅かに残った理性で考えるマキナの目に映ったのは……アリスが掲げた看板……そこに大きく張り付けられた『バニースーツを着たマキナの写真』だった。
「ッ!?!?」
まさかそんなものが出てくるとは思わなかったマキナは、その看板を見て一瞬頭が真っ白になった。そして先ほどまでの暴走寸前の昂ぶりが嘘のように、別の思考が次々と頭に浮かんでくる。
あの写真には覚えがあった。アレはかつて、マキナがアリスと出会った世界でのこと……船上カジノでの勝負において、アリスに負けたマキナは罰ゲームということで様々なコスプレをして写真を撮られた。
(あ、あれから、何億年経ってると思ってるの!? よくもまぁ、そんな写真をまだ持ってたよね!! あぁ、でも、本当にビックリしたおかげで冷静になれたよ……その、黒歴史でしかない写真に関しては、いろいろ言いたいこともあるんだけど、とりあえずは助かった)
思考が落ち着いたことを実感しつつ、マキナはアリスの言っていた言葉の意味を察することができた。確かにこの手段は何度も使えるものではない。
今回冷静になれたのも、まさかそんなものが出てくるとは思わなかったからこそ……逆に言えば、そういう写真をアリスが持っていると分かった現状では、同じように出されても思考が空白になったりはしないだろう。
ひとまず助かったことに胸を撫で降ろしつつも、次の機会は果たして大丈夫だろうかと、そう考えながら……マキナは快人との散策に戻っていった。
フェイズ0まで戻ったことによって、自己対策と合わせてその後1時間程度は理性を維持していたマキナだったが、しかしてそれ以上は持たず、再び暴走の危機を迎えていた。
(あぁ、もう駄目だよこれ……愛しい我が子への愛が溢れちゃう!? これもう、止めれないよ、さっきのコスプレ写真じゃもう無理だよ!!)
またも薄れゆく意識の中で、アリスが快人の背後で看板を抱えるのが見えた。あの時撮影したコスプレ写真は数多くあるが、それがあることが分かっている現状では、もはや通用……。
「~~~~!?!?!?!?」
しかしアリスが掲げた看板に貼り付いていたのは、マキナが予想していたコスプレ写真ではなく……たこ焼きを口に放り込まれて地面を転がる姿と、温泉で日本酒を飲んで渋い顔をしている姿の写真だった。
(そんな写真いつ撮ったのぉぉぉぉぉぉ!? カメラなんて持ってなかったじゃん! 盗撮だよ、完全にこれ、盗撮だからね!!)
コスプレ写真があることは予想していたが、まさかそんなシーンも写真を撮っていたとは知らなかったこともあり、マキナの思考は再び混乱した。
おかげで理性を取り戻すことはできたが、どうにも釈然としない気持ちを抱えつつ、三度快人との散策を再開する。
なお、マキナ……エデンの反応を見て快人も再び振り返ったのだが、それより早くアリスが姿を消していたため、なにがあったか気づくことは無かった。
幸い快人とふたりでいる場面に関しては、シャローヴァナルにも覗けないように対策はしてあるので、マキナの恥ともいえる写真が他の者の目に触れることは無かった。
その後も、マキナは頑張った。必死に頑張って耐えようとはしたが……また1時間ほど経つと、どうにも溢れる思いを抑えることができなくなっていた。
(無理、もう完全に無理……さすがに、もうどうにもならないよ……愛しい我が子への愛がビックバンしちゃう……)
アリスがまたも快人の背後に姿を現したのは見えた。看板を掲げようとしているのも……だが、もうすでにどんな写真を見せられたとしても、マキナが止まることはないだろう。
アレはあくまで不意打ちで虚を付くからこそ効果があったのだ。そういうものが存在すると分かっている以上、どんな写真が現れたとしても、暴走を止めるには足りない。
これまでかと、そんなことを考えつつマキナがアリスが持つ看板に目を向けると……。
『 物語の終わり(エピローグ) 』
「ひぃっ!?!?」
「エ、エデンさん!?」
不意打ちだった。これでもかというほど不意打ちだった。なんらかの写真が来るであろうと予想していた場面で、この文字……思わず悲鳴と共に飛び跳ねてしまうほど驚いた。
その様子に快人も驚愕するが、例によって振り返った時にはアリスは姿を消しており、なにがあったかを知る術はない。
(……なんて心臓に悪い止め方してくれるの!? ビックリした……本当にビックリした。無いはずの寿命が縮むような気分だったよ。で、でも、おかげで落ち着けた……こ、これなら、目的の場所まで持ちそうだよ。いろいろ複雑だけど……ありがとう、アリス)