作品タイトル不明
ドラゴンカーニバル⑤
フレアさんの紅蓮の牙の面々への激励を見届けたあと、不意に影が差して、反射的に空を見て驚愕した。
「うわっ!?」
「こ、これは……」
「どうやら、到着したようだな」
リリアさんも俺と同じく上空を見て驚愕する。そこには長い胴体の藍色の鱗を持つ超巨大な海竜が浮遊していた。
ドラゴンというよりは龍といった印象で、勝手なイメージだがシーサーペントとかリヴァイアサンとかというゲームなどで見た海の竜が思い浮かんだ。
間違いなく四大魔竜の一角、エインガナさんであろうその竜は……さすが1kmというだけあって、とてつもない巨体だった。
下手な山より巨大なその姿は、まさに巨大怪獣という言葉がふさわしい……うん、マグナウェルさんが規格外すぎるだけで、桁外れに巨大なのは間違いない。
「……どうやら我と同じように部隊の者に声をかけるらしい。では、そちらに向かうとしよう」
フレアさんのその言葉に頷いて、エインガナさんの元へ移動する。すぐ上空に姿が見えるということは、蒼海の鱗の面々が集まっている場所もそう遠くはないみたいで、少し歩くとそれらしいドラゴンたちが見えてきた。
なんとなく水生っぽい見た目のドラゴンが多い気がした。リリアさんは、見たいと言っていたエインガナさんの全身を見れたことに喜んでおり、ずっと空を見上げながら目を輝かせている。
『……いいですか、戦いとは冷静さを失ったものから敗北していくものです。たとえ海面がどれだけ荒れ狂おうとも、心の奥底は深海の如く静かでいなければなりません。すべての力を出し切ろうとすれば、無理が生じます。己の限界を求めるような力を出す必要などありません。90%の力をすべての戦いで等しく発揮できるように己をコントロールしなさい。そうすればおのずと結果は付いてくるでしょう』
空から響くような声、エインガナさんが部隊の面々に話しているのだろう。その内容や声から、知的で冷静な女性という印象を受けた。
それを聞くドラゴンたちも、なんとなく紅蓮の牙の面々より静かな印象を受ける……この辺りは、部隊ごとの特色があるのだろう。
そのまま少しエインガナさんが話を続け、その話を聞き終わるとドラゴンたちは静かに一礼して各々ウォーミングアップのために散開していった。
それを見届けてから、フレアさんは上空のエインガナさんに声をかける。
「エインガナ、少し構わぬか?」
『ニーズベルト? ええ、問題ありません』
「貴公に紹介したい者たちが居る……と、もったいぶっても仕方ないな。我が 戦友(とも) ミヤマカイトと、リリア・アルベルト公爵だ」
『……なるほど』
俺たちを紹介するフレアさんの言葉と共に、エインガナさんに一礼すると、エインガナさんはなにかに納得したような様子で呟いた。
すると、その体が光に包まれ、少しして俺たちの前に背の高い女性が立っていた。
足元まで届くような長い藍色の髪に赤い瞳、白く美しい肌にスラリとしなやかで美しいプロポーション、純白のワンピースに身を包んだその姿は絶世の美女といって間違いなかったが……背が滅茶苦茶高かった。
身長2mのイプシロンさんよりも高い身長……目算だが2m40cmぐらいじゃないかと思う。
「こうして顔を会わせるのは初めてですね。マグナウェル様が配下、四大魔竜の一角……『アクアリナ・エインガナ』と申します。以後、お見知りおきを」
「宮間快人です。よろしくお願いします」
「リリア・アルベルトと申します。よろしくお願いします」
人化したエインガナさんに俺とリリアさんは頭を下げて挨拶をする。うん、やはり知的で冷静な女性といった印象だ。
「 戦友(とも) は以前の神界での戦いの礼をしたいとのことだ」
「礼、ですか? いえ、あの戦いへの参加はマグナウェル様の配下として当然のことですので、礼などは不要です」
「違うな、そうではない。たしかに貴公にとってはそうだろうが、 戦友(とも) の心境としては世話になったと礼のひとつも言いたくなるのは必然だろう。なればここは、素直に受け取っておくのが戦場を共にした者への礼儀ではないか?」
「……なるほど、一理ありますね」
礼など不要と告げたエインガナさんだが、フレアさんがフォローを入れてくれたので、俺としてはとてもありがたい。
心の中でフレアさんへ感謝しつつ、お礼の品を取り出してエインガナさんに声をかける。
「エインガナさん、以前の神界の戦いでは力を貸してくださってありがとうございました」
「ええ、貴方の感謝、たしかに受け取りました。礼儀正しき行動に、こちらからも感謝を」
穏やかに微笑む姿は、本当に大人の女性といった感じだ。ここまでの言動から考えて、フレアさんとは結構仲が良いように見えた。
「エインガナ、少し以前より魔力が洗練されているのではないか?」
「洗練されたというよりは、以前の神界での戦いで少し鈍りを感じましたので調整しただけですよ」
「ふむ、なるほどたしかに平和な世で実戦不足は課題と言ってもいい……どうだろう? 我と――」
「お断りします」
「……いや、まだなにも」
「貴女と一緒に鍛錬なんて絶対に嫌です。まずは、常識的な鍛錬の量というのもを学んでからにしてください」
「そ、そうか、残念だ……なら――」
「模擬戦もお断りします!!」
「……むぅ、最近の貴公は、本当につれない……」
なんだろう? 先ほどまでの冷静な様子とは打って変わって、フレアさんの提案は言葉を遮るような勢いで拒否してる。顔もなんか必至だし……なにか嫌な思い出でもあるんだろうか?