軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リスティア・アスモデウス⑤

アリスに対して軽く文句を言ったあと、リスティさんはチラリと俺の方に視線を向けて告げる。

「……それでも、最近のクリスちゃんはずいぶん良くなったけどね。貴方のおかげで」

「え? 俺の?」

リスティさんの言葉に首を傾げる。たしかに普段クリスさんとは定期的に手紙のやり取りはしているが、それ以外で会ったことはそれほど多くは無い。

そして手紙に関しても、クリスさんが送ってくる内容はほぼアルクレシア帝国の紹介やペットの話題であり、これといってなにかの役に立てた覚えもない。

「クリスちゃんは最初、カイトと親しくすることに対していろいろ打算があった」

「ええ、それに関しては否定しません。いろいろアルクレシア帝国にとって有益に事が運ぶように考えてもいましたが……それに関しては、幻王様がミヤマ様に付いたという話を聞いてすべて破棄しました」

「それに関しては本当に素晴らしい判断だと思うわ。そのまま続けてたら、絶対にシャルティア様の掌で転がされてたでしょうね。あの方にその手の駆け引きを挑むのは、無謀通り越してただの自殺よ」

まぁ、確かにそういう謀略的なのは完全にアリスの土俵だろうし、その分野においてはクロやシロさんでも果たして相手にならないんじゃないかと思うほどアイツは強い。

リスティさんの言う通り、その分野でアリスに挑むのは無謀なんてレベルじゃない。

「そんなわけでクリスちゃんは途中でカイトを利用しようとすることはやめて、普通に友人として手紙のやり取りをするようになったわけ。謀略蠢く世界で神経を研ぎ澄ませながらの日々の中では、結構な癒しになってたんじゃないかしら? おかげで、クリスちゃんは前より落ち着いて視野も広くなったように思えるしね」

「……それも、否定はしませんよ。実際アレコレ思考を巡らせなくていい分、気楽ではあります。皇帝になってから進めてきた政策が実を結び始めて、財政などが楽になってきたというのも要因のひとつではありますが、以前と比べて肩の力が抜けた自覚はありますよ」

思い返してみれば、クリスさんに対する苦手意識も手紙を交わすうちに薄れてきたように感じる。少なくとも、六王祭であった時にはペット自慢できるぐらいに友好的に話せる関係だったと思う。

言われてみれば、そのころにはもうクリスさんから打算的な意思はあまり感じなくなっていて、普通の友人って感じだったような気がする。

いまになって思えば、クリスさんに対して苦手意識を持っていたのは、無意識のうちに打算ありきの感情を感応魔法で読み取っていたからなのかもしれない。

「これであとは、恋愛のひとつでも経験してくれれば、母親としては一安心なんだけどね。実際どう? 別に必ずしもカイトが相手である必要はないけど、クリスちゃんとは相性がいいと思うわよ。特に、いまとなっては打算で動かすことが不可能な相手なわけだし、純粋に恋愛を楽しめると思うわよ」

「やけに今日は恋愛について推してきますね。ですが、生憎と私は打算ありきのものはともかくとして、純粋な恋愛とやらをするつもりはありません。私は皇帝で、私が一番大切にするべきなのはアルクレシア帝国……だからこそ私は、皇位についた時から決めてました。私に『国より大切なもの』ができてしまったら、私は皇帝を辞すると……だからこそ、場合によってはそうなる可能性のある恋愛をするつもりはありません」

それはとても強い覚悟、信念を感じる言葉だった。クリスさんの目は真剣そのものでアルクレシア帝国を背負うという意思がありありと籠っている。

しかし、そんな気迫すら感じるクリスさんの言葉に対し、リスティさんはなにやら呆れたような表情を浮かべていた。

「頭固いわね~。ねぇ、クリスちゃん……『一番好きな食べ物』と『一番好きな衣服』なら、貴女にとってはどっちの方が価値が上なの?」

「……母上? いったいなにを……食材と衣類を比較してどうするんですか」

「そうね、つまりは『そういうこと』よ」

「ッ!?」

静かに告げられたリスティさんの言葉は、クリスさんの内面をすべて見透かしているかのような反論しがたい雰囲気があり、クリスさんもハッとしたような表情で固まっていた。

「国と人って比較すべきものなのかしら? それに一番ってひとつじゃないと駄目なの? 『同率一位』とかが存在する可能性は?」

「……それは」

「即答できずに悩むようなら、まだ考える余地が残ってるってことよ。貴女の考え自体を否定するつもりはないし、皇帝のありかたなんて小難しい議論をするつもりもないわ」

そこまで言ったあとで、リスティさんは紅茶を一口飲み、クリスさんの目を真っ直ぐに見つめながら告げる。

「私に言わせれば、たかだか数十年しか経験を積んでない子供が、悟ったような顔してるのは滑稽でしかないわよ。貴女がひとつだと思い込んでる道は、本当にそれひとつしか存在しえないのか……ちゃんと考えてみることね」

「……母上」

それは明確に答えを示す言葉でもなく、言ってみれば課題を与えるような、本人に答えを探させる言葉ではあった。

ただ、そこに厳しさは無く、母親としての優しさに溢れているように感じた。実際にその言葉はクリスさんに響いたみたいで、戸惑いながらもなにやら考えるような表情を浮かべていた。

リスティさんの言葉を受け、これからクリスさんに変化が訪れるのではないかと、そんな考えが頭をよぎった。

そして同時にそれは、クリスさんにとってきっといい変化になるだろうと……根拠のない漠然とした予感も覚えた。