作品タイトル不明
『それぞれの心の刃』
快人の心具、メモリーズによって蘇ったかつてのアリスの仲間たち……いや、もはや軍勢とすら呼べるその数に、神族たちも緊張を強くする。
「……さて、折角なので少しだけ説明しましょうか。カイトさんのメモリーズによって蘇った人たちは、術者である私の心の強さに応じた力を持っていますが……生前の特殊な能力は使用することができません」
「……」
その言葉を聞きクロノアとライフの表情に微かに安堵の色が浮かぶ。彼女たちが最も警戒しているのは、アリスが行使している心具という未知の能力であり、蘇った他の者たちがそれを使えないのは朗報といえる。
しかし、同時になぜわざわざそれをアリスが自分たちに教えるのか? そんな疑問が浮かぶと同時に、アリスは深い笑みを浮かべた。
「ですが……私とカイトさんの心具は、相性が抜群なんですよ。本当に……こうして組み合わせるためにあるんじゃないかって、思うぐらいですよ!」
そうアリスが宣言した瞬間、アリスの体の周囲を回っていたヘカトンケイルの光が別れ、居並ぶ者たちそれぞれの前に移動する。
そしてその光がそれぞれの体に取り込まれると同時に、戦場にいくつもの声が響いた。
「煌めけ! 我が心の刃! 閃光は集い――居並び――万象を貫く極光の翼へと至る! 我が心の剣はここに! 羽ばたけ! 勝利の翼――ニルヴァーナ!」
アリスによく似た顔立ちの美女……アリスの実の妹であるノエルが叫ぶと、その両手に美しく光り輝く双剣が現れる。
「我が魂に宿るのは忠義の炎! 決して消えることなき気高き焔よ――地を焼き――天を焼き――星を焦がせ! 我が心の刃はここに! 燃え上がれ! 炎槍――フレムベル!」
赤い髪の少女騎士――アデルの声に呼応するように、その手には紅蓮の炎を放つ大槍が出現する。
「修羅と化せ我が心! 祈るだけでは救われず――願うだけでは守れない。儚き者のため――その拳を血で染めろ! 我が心の証はここに! 開け! 鏖殺の経典――キルメデス!」
黒い逆さ十字の法衣を着た神父――リオンの手に、禍々しい装飾の施された本が握られる。
「ふははは、なんとも懐かしい顔ぶれだ。では、我も参加するとするか……目覚めよ、我が心に眠る暴虐の獣! 黒き爪は地を裂き――黒き牙は天を喰らう! 汝は捕食者、天地滅ぼす終焉の獣! 我が心の牙はここに! 顕現せよ(でよ) ! 魔杖――アポカリプス!」
イリスもかつての顔なじみたちと共に、心具を出現させて戦場へと参加する。メモリーズによる強化状態での蘇生、ヘカトンケイルによる生前の特殊能力の獲得……なるほど、たしかにこのふたつの心具の相性は最高であると言えた。
再び巻き起こる戦いの中、最高神クロノアと対峙するのはアリスの親友と妹……イリスとノエルだった。
「……イリスだけ、ズルいです。心具に魂を保存する方法があるなら、教えてくれればよかったのに」
「いや、アレは死ぬ寸前に完成したものゆえな、どうにもならなんだ。それより、貴様も一度死んでずいぶんと丸くなったな? いいのか? 救おうとしている相手は奴の『恋人』だぞ?」
「いいんです! そりゃ、たしかに悔しいですよ。『お姉ちゃんのお嫁さん』には、私がなりたかったのに……でも、私たちが死んでからずっと苦しんでたお姉ちゃんを救ってくれた人なんです。あの人になら、お姉ちゃんを任せられます……悔しいですけどね!!」
「う、うむ……前言を撤回する。相変わらずであったな……」
アリスの妹であるノエルは重度のシスコンである。生前はとにかく姉こそが世界で一番素晴らしく、世界で一番愛らしいのだと言ってはばからず、実の姉と結婚したいと大真面目に口にしていた。
一度死んで蘇ったとしても、そのシスコンぶりは変わっていない。しかし、それでもメモリーズの効果によって、アリスの記憶の一部を受け取っている彼女は……快人に感謝しており、悔しいと叫びながらもアリスとの関係を認めていた。
「……さて、始めるとしようか時空の神よ。我らふたりが相手になろう」
「たったふたりで、我に挑む? 心具とやらの力がどれほどかは知らぬが……舐められたもの――ぬっ!?」
「あぁ、気を付けろ……ソヤツは、速いぞ」
ほんの瞬きほどの間……それなりにあったはずの距離を詰め、ノエルは輝く双剣をクロノアに向かって振り下ろしていた。
まさに閃光とすら言える速度ではあるが、それでも 速度(ソレ) に関してクロノアが後れを取るはずもない。クロノアは即座に時間を停止させ、回り込んでからノエルに向かって拳を放った。
そしてその一撃は、ノエルの体を――『すり抜けた』。
「なっ――己の体を光に変える? 閃光神の権能に似た力か!?」
「はぁぁぁぁぁ!」
「くっ、だが、その程度で!」
「……忘れてくれるなよ、我もいるぞ? 呑め! 暴獣! アポカリプス!」
「ッ!?」
体をすべてを光の粒子に変え、閃光の速度で攻撃を仕掛けてくるノエルに対し、クロノアも時を操る権能で対抗しようとする。
しかし、そこにイリスが横槍を入れる。アポカリプスによって爆発的に威力を高められた魔力砲撃は、クロノアとてまともに受けるわけにはいかず、慌てて回避する。
そしてそこをノエルがさらに追撃と、隙の無い連携でクロノアを追い立てていった。
対して別の地点では、アデルとリオンが生命神ライフの前に立っていた。
「やれやれ、七星魔獣が子猫に思えるほどの化け物が相手とは……一度死んでも、俺の運の無さは変わってないらしい。まぁ、間違いなく、俺では火力不足だろうね……『どのぐらい必要だ?』」
「……そうだな、これだけの相手だ。最低でも『100万以上』は必要だろう。なに、いまの身体能力ならばすぐに終わる。それまで時間稼ぎは任せた」
「了解。ほどほどに頑張るとするか……」
言葉を交わしながら迫るアデルとリオンに対し、ライフは小手調べと言いたげに大量の騎兵を生み出して対応しようとした。
しかし、ライフが生み出した万を超える騎兵は、『まったく同時にすべて粉砕された』。
「ッ!? い、いったいなにが……」
「別に気の利いた手品じゃないさ。俺のキルメデスは『視界に映る全ての敵に同時に攻撃できる』って、そういう能力を持ってるだけさ」
「……なるほど、厄介な能力ですね」
「いやいや、違う違う。俺はあくまで時間稼ぎ役さ……というか、本気で早いねアデル嬢。もう、そこまでいったのかい?」
「なにを――なっ!?」
リオンの心具の能力が、騎兵を生み出す能力の天敵ともいえるものであることにライフは警戒を強めたが……直後に、リオンの背後にいるアデルを見て驚愕に目を見開いた。
アデルは頭上で心具の槍を高速で何度も回転させており、そのたびに心具が纏う炎が、魔力が……どんどん大きくなっていたからだ。
「……アデル嬢の心具は、発動させてから『振るたびに火力が増す』……そう遠くないうちに、貴女を一撃で消し炭にできる火力に届くだろうさ」
「くっ!?」
「おっと……時間稼ぎ役だって言っただろ? アデル嬢の準備が整うまで……邪魔はさせないよ」
一対多に絶対の能力を持つリオンに、底なしに火力を上げていくアデル。状況がよくないことを感じ取り、ライフの額には一筋の汗が流れた。
かつての仲間たちが神族を押さえている傍ら、アリスは目を閉じなにかに集中していた。
(……あぁ、もう! 予想はしてましたけど、とんだじゃじゃ馬ですね! 制御を誤ると、空間ごと全員消し飛ばしちゃいますし……もうちょっと時間がいりますね)
アリスの手にはひとつの光り輝く球体があり、彼女はそこに宿る力の制御に苦戦しているようだった。
だが、その力こそが……この戦局を完全に決定付けさせる。
あと数分……アリスがその力を制御し終えた時が――決着の時となる。