軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『世界を欺く道化』

時間にしてほんの数分、メモリーズによって蘇ったアリスの仲間たちは神族を圧倒していた。

イリスとノエルの連携により追い詰められているクロノア。リオンのフォローにより、桁外れの火力へと届いたアデルの攻撃を受けながら、自身の体を何度も再生させるライフ。

それでもまだ、彼女たちの目には力が宿っていた。そして短いようであまりにも長い五分という時間が経過すると、アリスの仲間たちは何かに気付いたような表情を浮かべ一斉に退いて、アリスの後方に並ぶ。

「……準備……完了です」

「準備? 今度はいったいなにをするつもりだ……」

怪訝そうな表情を浮かべるクロノアに対し、アリスは深い笑みを作ったあと、メモリーズで一時的に蘇っていた者たちに微笑みを浮かべる。

「皆、本当にありがとう。また会えて、嬉しかったよ」

「うん、お姉ちゃんの力になれてよかった。頑張ってね、お姉ちゃん」

「えぇ、お師匠様。我らの力が必要であれば、またいつでも呼んでください。我が忠義の炎は、いつまでも貴女の心と共にあります」

「いまになって思えば、ヘカトンケイルで俺たちの遺体を取り込んだのは妙手だったね。俺たちの魂の残滓がヘカトンケイルの中に残っていたからこそ、こうして生前の記憶を持って力になれたわけだ……まぁ、それはそれとして、次回は戦闘じゃなくゆっくりできる状態で呼んでほしいものだね」

心の底から嬉しそうに告げたアリスの言葉に、ノエル、アデル、リオン……かつての仲間たちが答えたあとに、その姿を消す。

それを見届けたあとでイリスもアリスの体の中に戻り、アリスは改めて神族たちに向かい合った。

「……分かってますよ。神族を倒しても『この空間は解除されない』……でしょ?」

「「ッ!?」」

そう、この空間はシャローヴァナルが創り出した戦場であると同時に、監獄でもある。たとえ神族を打ち破ったとしても、この空間は解除されない。

人魔連合軍にこの空間から脱出する術はないと……そう思っていたからこそ、神族側はいくら追い込まれようともその瞳から力が消えなかった。

言ってみればそれは、神族側の最後のジョーカー……だが、アリスはそれを見破っていた。

「……そ、それが分かったとて、どうにもならん! この空間はシャローヴァナル様が創り上げたもの、言ってみればこの空間自体がひとつの世界だ! 貴様らに破壊することなど……」

「できないと、そう思ってるんすか? 出来るんですよ」

「ど、どういうことだ……」

「言ったでしょ? チェックメイトですって……私のヘカトンケイルにはある制限がありましてね。いくら絆を紡いでいても『自分より強すぎる相手』の力は使えないっていう制限が……さて、さっき私はなんて言いましたっけ? 『条件は満たした』って……そういったんすよ!」

「ッ!? ぁ……あぁ……そんな……馬鹿な……この魔力は……」

アリスが輝く球体に手をかざすと同時に……空間が闇に包まれ、金色の瞳が漆黒の中に浮かび上がった。その魔力を、クロノアもライフも、神族たちも知っていた。

かつてあった魔界と神界の戦いにおいて……シャローヴァナルと引き分けた怪物の魔力。

『クロさんの力なら……破れるでしょう?』

そう、すべてはこのための布石。ヘカトンケイルの究極戦型を使ったのは、クロムエイナの力を行使できる状態に成長するため……その後の時間稼ぎは、絶大なクロムエイナの力をコントロールできるようにするための調整期間。

そしていま、すべての準備は整った。闇が拳を形作り……空間を粉砕した。

空間を破って脱出したことで神界へと移動した人魔連合軍の前で、神族たちはガックリと肩を落としていた。

「……どうします? まだ続けますか?」

「……いや、シャローヴァナル様からは、貴様らがあの空間から神界へたどり着いた時点で、我らの敗北としてそれ以上の手出しはするなと言われている。我らの……負けだ」

「そうですか……じゃあ、せっかくですし、神族の皆さんも一緒に見届けに行きませんか? この戦いの決着ってやつを……」

「与えられた役割を遂行できなかった我らに、シャローヴァナル様に合わせる顔はないが……勝者である貴様らがそういうのであれば、いまはそれに従おう。ただ、ひとつ聞いても構わんか? 幻王」

「なんすか?」

クロノアが敗北を受け入れると同時に、ライフも敗北を受け入れ……運命の臨界点の反動で動けない人魔連合軍の面々を治療する。

勝者である人魔連合軍には、この先へと足を進める権利があると、そう認識していたからだ。

そしてその治療が終わるまでの短い間に、クロノアはアリスに問いかける。

「……貴様は、どこまで読んでいたのだ?」

「読んでいた? う~ん、ちょっと違いますね……『私がこの展開に持っていくように、シャローヴァナル様の思考を誘導した』んですよ?」

「……なんだと?」

「シャローヴァナル様はすさまじい方ですが、なにもかも無敵ってわけじゃないです。特にこと、精神的な面に関してはね……実際、もっと際限なく神族側を強化されていれば厳しい戦いになりました。だから、そうさせないようにしました。私は、シャローヴァナル様に覗き見されている前提で、神族側の強化幅を想定し会議しました。『私はその力を想定して対策してる』って思わせるのと同時に、神族側の『強化率の基準案』を示したわけです。このぐらいの力の相手だと、私たちは厳しい戦いになりますよ~ってね」

そう区切ったあと、アリスはゆっくりと全容を語り始めた。

「シャローヴァナル様は精神的な面を戦術に組み込みません。100の力を持つ相手に、200の力を見せつけて切望させようとか、圧倒しようとかそういう精神面に作用する策を用意しません。ついでに戦いの中での成長とか、そういう不確定要素も考慮しない。そして、シャローヴァナル様にとって、私たちの戦いは言ってみれば盤外のもの……可能な限り、労力は裂きたくなかったはずです」

「……」

「だからシャローヴァナル様に、こちらは100の力を想定しているって基準を見せてしまえば……101の力しかぶつけてこない。今回の戦いに当てはめるなら。その+1は最高神にのみ与えられた審判の力であり、脱出不可能な空間だったんでしょうね。だから、私はその+1の想定と対策だけ考えておけばよかった。そういう意味では、割と楽な戦いでしたよ」

「……シャローヴァナル様の思考を……上回ったというのか……」

呆然と呟くクロノアの前で、アリスはどこからともなく取り出した仮面をつける。

「……シャローヴァナル様は凄い神ですよ。まさに世界の神でしょう。けど、私は世界を欺く道化です。まぁ、感情ってものを理解し始めたばかりの神様が、騙し合いって土俵で私に勝つには……ざっと10万年は、早いってことですよ」

そう告げてから、アリスは神界の中心……神域へと視線を向ける。

(もっとも、それはあくまで盤外のこの戦いに限った話ですけどね。こっちはシャローヴァナル様にとって、たぶん『勝っても負けても良かった戦い』……問題は、なりふり構わず全力で当たっているであろう快人さんとの戦いに、横やりを入れれるだけの隙があるかどうか……はぁ、厳しいですね。こっちは不確定要素が多すぎます……ある程度は、出たとこ勝負も覚悟しないといけませんか……)

ひとつの戦いは決着した。しかし、本当にそれは盤外のもの……本当の決戦の場は、ここではないのだから……。