軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『集う奇跡の欠片』

アリスが発動したヘカトンケイルの究極戦型。神族側にとって全くの未知であるその力に対して、先陣を切って挑んだのは……クロノアだった。

クロノアは即座に時間を停止させ、持ちうる限りの速度でアリスに迫る。

彼女が行使する時の権能は、一般的な魔法とは違う。極端な話、時間を止める魔法と言うだけなら伯爵級クラスになれば行使できるものも複数存在する。

だがクロノアの力はそれらとは一線を隔す。世界の神たるシャローヴァナルに与えられた権能は、圧倒的に上位の力であり、クロノアが操作した時に干渉できるのは『同様にシャローヴァナルから時を操る力を与えられた』アインのみだ。

事実序盤の攻防においてもクロノアの時の権能に対して、アリスは事前に分体とすり替わって解除した隙を突くという反撃を行った。

だからこそ、クロノアは分体とすり替わる暇を与えず速攻を仕掛けた。

停止した時間の中で圧倒的な速度でアリスに迫るクロノア……刹那の時間の中で、彼女が見たのは『停止したはずの時の中でこちらを振り向くアリス』だった。

「馬鹿なッ――ぐぁっ!?」

驚愕と共にクロノアの体がアリスの軽い反撃で吹き飛ばされ、地面を数度転がり時間停止が解除される。

「時空神!?」

「……ば、馬鹿な……我が停止させた時間の中を……」

「あぁ、『いま動けるようになりました』」

呆然と呟くクロノアに淡々と返答するアリス。そんなアリスに向かって、素早くクロノアの傷を癒し終えたライフが迫る。

「時空神は全体の指揮を! ここは私が!」

ライフが振り下ろした拳をアリスは受け止めるが、圧倒的な膂力を持つライフの腕力が純粋な力では上回り、少しずつアリスを押し始める。

(……これなら、いけます。純粋なパワーは私の方が上……時空神たちのフォローを受けながら立ち回れば……)

微かに見えた勝機……しかし、その直後……ライフは力任せに地面に叩きつけられた。

「……え?」

ダメージ自体は殆どない。だが、なにが起きたのかすぐには理解できなかった。

(……『力負けした』? 私が? なぜ? だって先ほどは……)

たしかに押していたはずだった。生命の神たる彼女が、相手の身体能力を測り違えるなどありえない。そう思いながら静かに己を見下ろすアリスに視線を向け、ライフは驚愕した。

そして、即座にその場から離れながら同様に驚愕の表情を浮かべているクロノアに叫ぶ。

「時空神! まずいです! 早く倒さないと……」

「ど、どういうことだ?」

「上昇してるんです! 秒単位……いえ、もっと早く! 幻王は『身体能力も魔力も爆発的な速度で上昇し続けています』! このままでは、本当に手に負えなくなります!」

「なにっ!?」

その攻防を少し離れたところで見ていたフェイトも、クロノアとライフと同じように大きく目を見開いて驚愕していた。

「えぇぇぇ……ど、どうなってるの? シャルたん、明らかにどんどん強くなってるんだけど……」

「……我が説明しよう」

「え? あっ、えっと、たしかシャルたんの親友の……」

「うむ、あやつから説明役を頼まれている。我の名はイリ――」

「『リスたん』だね! うん、なにがどうなってるか分からないから、説明よろしく」

「……待て、その呼称は……」

「早く説明!」

「う、うむ……」

フェイトへの説明役として、実体化したイリスは、フェイトが即座に付けた愛称に文句を言いたそうな表情を浮かべたが、その気迫に押される形で説明を始めた。

「……アレが、奴の心具ヘカトンケイルの究極戦型の力。いや、奴の『特性』というべきかもしれんな」

「えっと、シャルたんのヘカトンケイルは絆を紡いだ相手の力を使えるようになるんだよね?」

「うむ、それが通常時の能力で相違ない。そしてあの究極戦型は、かつて奴が邪神と対峙するために『世界中の希望を紡いだ形態』でもあり、奴自身の体を『希望の化身』へと変貌させた力でもある」

「……う、うん?」

「あの究極戦型の本来の力は、紡いだ絆をすべて己の力に上乗せするというもの……それだけでも十分すぎるほど強力だが、もうひとつアリスが希望の化身となったことで得た能力がある」

イリスの言わんとすることがまだ理解できていないのか、フェイトは不思議そうに首をかしげる。

「先ほど奴から聞いたはずだ。アリスは普段『身体能力も魔力も成長しない』と……」

「えっと、たしか特定の条件下でだけ成長するって……それってつまり、あの究極戦型がその成長の条件なの?」

「うむ。『いまの私で勝てないなら、勝てる私になればいい』とは、以前のやつの口癖でもあり……いまのやつはそれを体現した存在だ。人の想いに……希望に……果てなどない。『爆発的な速度で無限に成長し続ける』……それが、ヘカトンケイル究極戦型の真の能力だ。そしてその成長した能力は『ヘカトンケイルを解除しても消えない』」

「えぇぇぇ!? め、滅茶苦茶だよ……じゃあ、シャルたんが二万年前より超強くなってたのは……」

「あぁ、奴は以前あの状態で異界の神と一戦交えておる。その際に成長したというわけだ」

それは本当に途方もない能力だった。いまのアリスの力に果てはない。クロノアの時の権能に対応できないなら、対応できるように成長する。

ライフの膂力に押し負けるなら、それに打ち勝てるだけの身体能力に進化する。神の領域にさえ容易く踏み込み、そこですらも無限に進化を続ける究極の力……。

イリスの言葉が聞こえていたクロノアとライフも、絶望したような表情を浮かべていた。

(……まぁ、全部の能力で敵を上回っちゃうと成長速度が遅くなったりとか、発動条件が厳しいとか、いろいろ制限もあるんすけどねぇ~わざわざ言う必要はないですね)

もはやいまのアリスの能力は、全神族が束になっても傷ひとつ負わせられないほどに成長している。神族側に勝ち目はないはずだ……しかし、まだ神族たちの瞳には光が宿っている。

それを見たアリスは、『己の予想が当たりだった』と確信を持ちながら……『ヘカトンケイルの究極戦型をあっさりと解除した』。

アリスの体の周囲に流星のような光が舞いはじめ、アリスはその光のうちのひとつに触れながら口を開いた。

「……さて、これで『条件』は満たしましたね。けど、少し馴染むのに時間がかかりそうですね」

「……なにを言っている?」

クロノアにも、ライフにも、アリスの意図が理解できなかった。なぜなら、ここから先は一方的な蹂躙が始まるだろうと、そう思った直後にその究極の力を解除してしまったのだ。

解除しても成長した能力がそのままとはいえ、解除することに利点など無いような気がした。

「いや、もうひとつ『切り札』を切っちゃおうと思いましてね。ヘカトンケイルの究極戦型は確かに強力なんですが……これを使うには、通常形態の方が都合がいいんですよ。これ? なんだと思います? まぁ、もうさっさと終わらせるつもりなんで答え言っちゃいますね……『快人さんの心具』です」

「「ッ!?」」

クロノアとライフにも、心具というのがアリスが行使している不思議な能力だというのは理解できていた。だからこそ、快人の心具と聞いて身構え、警戒を強くした。

その判断はおそらく正解だろう……もっとも、だからと言って対応できるかどうかは別ではあるが……。

「その心は、踏みしめた確かな軌跡――共に笑い――共に泣き――共に積み重ねた思い出の足跡――紡いだ絆は奇跡の欠片――我が心はここに! 共に在れ! 『メモリーズ』!」

その言葉を告げた瞬間、空間を覆いつくすほどの眩い光が放たれた。そしてそれが晴れると……アリスはどこか、いまにも泣き出しそうな表情で呟く。

「……ちょっと時間が必要なんですよ。だから、力を貸して欲しいんです」

戦場には不釣り合いなほど優しく震えるその声に、足音と共に言葉が返ってくる。

「……うん。助けよう、『アリシアお姉ちゃん』を救ってくれた……お姉ちゃんの大切な人を」

「無論です。お師匠様……我が忠義の炎は、『一度死んだ』程度で消えてしまうほど、軟弱ではありません」

「やれやれ、主の下へ召されたと思ったらまさかの追加労働か。まぁ、いいさ。君には借りがある……生前には返して切れなかったほど大きな借りがね」

アリスによく似た顔立ちの、背の高い金髪の美女が、騎士の鎧に身を包み赤く燃えるような髪を結った少女が、黒い逆さ十字の描かれた法衣を着た気だるげな表情の神父が……アリスの隣に並び立つ。

それだけではない。アリスの背後には数えるのも馬鹿らしいほどの者たちが、いつの間にか出現していた。

それは、かつて英雄と呼ばれた少女が紡いできた絆。共に戦い、共に生きた、かけがえのない仲間たち。

いま、その者たちは再び集う。死という大いなる壁と超えて英雄の下へ――。