軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

引き分けに終わった

……火種というのは、本当にどこにでも転がっている。些細なことから対立するというのも、友人間であればそれなりに起りうる出来事といえるだろう。

そう、それが起ったのは昼食を食べ終えたタイミングだった。

ガイドブックを片手に三人で相談し、ワイバーン肉を使った料理を出す店にやってきた。ワイバーン肉は超が付くほどではないが、それなりに高級肉であり値段もそこそこだ。

しかし、庶民でも少し頑張れば手が届くレベルなので、かなり人気はあるらしい。以前食べたレッドドラゴンの肉を最高級A5ランクの牛肉だとするなら、ワイバーン肉はブランド牛ではない国産牛といった感じだろう。

ベルとリンもいる……特にベルがいっぱい食べるので、質より量の選択って感じだ。

例によって例の如く用意されていたVIP席で食事を終え、やはり無料にしてもらうのは気が引けるのでちゃんと支払おうと席を立ちかけたタイミングでそれは起った。

「あっ、ミヤマくん。ここは私が出すよ」

「え? いえ、大丈夫です。ここは俺が奢りますよ」

「……」

「……」

その瞬間、俺の頭の中では戦闘開始のゴングが聞こえていた。おそらく、俺と同じタイプであるフィーア先生もそうだろう。

こうして、俺とフィーア先生の熾烈な戦いが幕を上げた。

「……俺も仮にも男ですから、こういった席ではカッコつけたいんですよ。男の矜持ってやつですね」

まずは俺の先制……男としてのプライドを軸としたジャブで攻める。非常に使い古された典型的な文言ではあるが、だからこそ積み上げられた確かな実績がある。

そんな俺の言葉に対して、フィーア先生は慌てることなく微笑みを浮かべながら口を開いた。

「……いやいや、ほら、こういうときは年長者が出すものだよ」

フィーア先生も俺と同じく、非常に定番の文言でジャブを返してくる。流石、フィーア先生というべきか……自分の持ちうるカードを把握して、俺の攻撃に合わせたものを切ってくる。やはり、手強い……。

「いや、ほら、一番沢山食べたのはベルですし……それをフィーア先生に払っていただくのは申し訳ないです。ここは、飼い主の俺が払いますよ」

ここで俺は切り口を変える。この昼食においてもっとも大量の食材を食べたのはベル。つまりベルの分の食費が一番大きいことになる。故に、飼い主という立場を使うことで、断りにくい効果的な攻めが完成する。

いわば、ジャブで牽制してからのストレート……さあ、どうする? フィーア先生。

「……この前の件でさ、ミヤマくんにはいっぱい助けてもらったからね。こういう形でしかお礼出来ないのは情けないけど、ちょっとでも恩を返したいんだ」

「ぐっ……」

こ、ここで、それを出してきたか……恩を返すというのは、非常にパワーのある言葉だ。おそらく、フィーア先生が持ちうる中でも最強格の一撃だろう。

これには生半可な反撃では通用しない。仮に俺が「見返りを求めていたわけじゃない」と返したとしても「それでも、私が救われたのは事実だよ」と切り返される。

金銭面での優位さを訴えたところで、大体の言葉は「それでもお礼がしたいんだ」という一言で切り返され、俺は防戦を強いられることになるだろう。

くそぅ……手強い!?

「……それを言うなら、俺の方こそいつもフィーア先生には助けられています。いろいろなことを教えてもらったりもしましたし、リリアさんとふたりで旅行するきっかけを作っていただいたのも感謝しています」

ここは、同じように恩があるという形で切り返すしかないが……フィーア先生の言葉ほどはパワーが無い。カウンター狙いの防御といった感じだ。

これで、この戦いの方向性は決まったと行ってもいいだろう。フィーア先生の攻めをしのぎ切れば、俺にも勝機はある。しかし、押し切られれば負け……。

「ミヤマくんがそう思ってくれてるのは、すごく嬉しいよ。けど、やっぱりそれ以上に……クロム様と和解させてもらえたってのは、私にとって大きなことなんだ」

「俺はきっかけを作っただけですよ。クロと和解できたのはフィーア先生自身の力です。俺に出来たことなんて、本当に小さなことですよ」

「そうかもしれない。でも、私はその小さなきっかけ作りをずっと出来なかった……だからこそ、それをしてくれたミヤマくんには、言葉では表せないほどの感謝の気持ちがあるんだ」

「俺は自分のしたいことをしただけです。俺のワガママみたいなものですし、見返りを求めていたわけじゃないんですよ」

「……でも、そのワガママで私が救われた事実は変わらないよ」

「くっ……」

薄氷の上を歩くようなギリギリの戦い……しかし、やはり、俺の不利は明らかだ。完全に押されており、先程厳しいと切り捨てた返答を使ってしまう事態にまで追い込まれた。

フィーア先生の口元に、ニヤリと笑みが浮かぶ……駄目だ。この状況を打破するカードがない!? 押し切られる……。

「はい、丁度いただきます。 ありがとうございました!」

「「……へ?」」

「……ふたりとも、いつまでやってるんですか? もう支払いは終えましたから、出ましょう」

「「え?」」

……伏兵。ここで、まさかの第三勢力による伏兵である。

俺とフィーア先生が戦いを繰り広げている間に、さっさと会計を済ませたノインさんが呆れた表情で声をかけてきた。

「ここは、私の奢りです」

「「……あ、はい。ご、ご馳走様でした」」

すでに支払いを済ませている以上、俺とフィーア先生の敗北である。コレはどうあがいても覆せない……俺とフィーア先生はガックリと肩を落としながら、ノインさんへお礼の言葉を告げた。

ノインさんが店の外に向かって歩いていく後姿を見詰めたあと、視線を動かすと……フィーア先生と目が合った。

「……引き分け……だね」

「ええ……次は、負けませんよ」

「私だって……」

「……ふふ」

「……あはは」

気付けは、俺とフィーア先生は固い握手を交わしていた。互いに互いを好敵手と認めたからこそ、尊重し称え合うように笑みを浮かべる。

そこには、刃を交えたものにしか分からない……確かな絆があった。

拝啓、母さん、父さん――以前に思った通り、フィーア先生は俺と同じタイプ……それも、相当の実力者だった。戦局は俺に不利な形で進行していたが、最終的に俺とフィーア先生の初対決は――引き分けに終わった。