軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺の思い通りにはいきそうにない

衝撃のノーガード戦法により一気に追い込まれた俺だが、起死回生の一手によりリリウッドさんを説得することに成功した。

もちろん負ったダメージは甚大であり、厳しい戦いはまだ続きそうではある。

まぁ、それはそれとして……俺の気のせいでなければ、なんかリリウッドさんの髪……葉っぱが送料されているんだけど?

元々長めの髪型のリリウッドさんではあるが、いまはそれ以上に長い……というか、どんどん湯船の表面を侵食していってるように見えるんだけど!? 増えてる! 絶対増えてるよこれ!?

「……あの、リリウッドさん?」

『はい?』

「なんか、髪……というか葉っぱが増えてきてるんですが?」

『あっ、申し訳ありません。つい心地よくて……』

……リリウッドさんって、気持ち良くなると髪が増えるの? ああ、でもそういえば、前に疲れた時には髪が枯れてたし……どうやらリリウッドさんの髪は、コンディションによって変化するみたいだ。

俺がそれを指摘すると、リリウッドさんは謝罪の言葉と共に髪を元の長さに戻した……自在みたいだ。

『そういえば、オンセンでしたか? 私はあまり利用したことが無いのですが、人族の方はどのように楽しまれるのですか?』

「う~ん。そうですね。普通に景色を見たり体を洗ったりはもちろんですが、湯船に浸かりながらお酒を飲んだりしますよ」

『なるほど……『果実酒』でしたらすぐに用意できますが、よろしければどうですか?』

「え? あ、はい。いただけるのでしたら是非」

果実酒というのはあまり飲んだことが無い……というか元の世界ではビール以外ほぼ飲んだことが無いので興味はあるし、丁度気分を変えた買ったところなのでありがたい提案だ。

『では、少しだけお待ちを……』

そう告げたリリウッドさんの髪から一本の枝が伸び、見覚えのある世界樹の果実が現れる。

そしてその果実が、まるで見えない手で握りつぶされるように形を変え、溢れ出た果汁がいつの間にか用意されていた木のコップに注がれる。

数個の果実から果汁を搾った後、リリウッドさんが手をかざすと木のコップが淡い光に包まれ、数秒してから光が収まる。

『はい、どうぞ』

「……ありがとうございます」

当り前のように目の前でつくり上げられた果実酒……世界樹の果実が原料とは、なんとも贅沢な一品だが、その分物凄く美味しそうだ。

香りもすごく強いけど、刺々しい感じじゃなくて柔らかく自然の恵みみたいな感じだ。

それじゃあ、せっかくだし出来たてを……って、あれ? いまさらだけど……リリウッドさんは世界樹……世界樹の果実って、言ってみればリリウッドさんの体から作られたもので……。

え? あれ? それってつまり、このコップに入っているお酒もリリウッドさんから作られたって訳で……つまり『リリウッドさんの体の一部だったもの』と考えてもいいわけで……俺がそれを口に入れる?

や、ヤバい、変なこと考えちゃった!? ど、どど、どうしよう、ヤバい、さっきまでのこともあって完全に意識しちゃってる。

だ、だけど、自分からお願いしておいていまさら恥ずかしくて飲めませんとか言えないし……。

『……カイトさん?』

「ッ!? い、いただきます!」

声を掛けられ、慌てつつも俺はその果実酒を口に運んだ。

一口飲むと、口の中いっぱいに芳醇な香りが広がり、とてつもない美味しさとなって脳を刺激してくる。流石の一品だというべきではあるが、変な想像をしてしまったせいで、一口飲むたびにクラクラするような感覚が襲ってきた。

このままではまずいと思った俺は、一気にお酒を飲み干し、リリウッドさんに声をかけた。

兵法……何計か忘れたけど、いったん逃げて体勢を立て直そう。

「り、リリウッドさん、俺ちょっと……か、体でも洗ってきます!」

言ってから気が付いた。俺はなんと愚かな発言をしたのだろうと……逃げるつもりが、自ら退路を断ってしまった。

そして、やはり……。

『ああ、でしたら、私が背中を流しますよ』

……逃がしてくれない。ちょっと、六王は皆ディフェンス能力が高すぎると思う、あれか? ボス戦で逃げられないのと同じ理屈か?

「い、いえ、そんな、リリウッドさんのお手を煩わせるわけには……」

『いえ、是非お手伝いさせてください。カイトさんには日頃からとてもお世話になっていますので』

「……は、はぃ……」

純粋さ100%の笑顔に、俺は轟沈した。

正直俺はリリウッドさんにはお世話にはなっても、お世話した覚えはまったくないのだが……ここまで、純粋な好意を向けられると、なにも言えなくなってしまう。

ま、まぁ、落ち着け……もう大丈夫なはずだ。リリウッドさんはちゃんと体を隠すことを了承してくれたわけだし、真面目な性格上それを破る心配もない。

ならば普通に背中を流してもらうだけだ。もちろん緊張するだろうが、問題はない……はず。

しかし、そんな考えを浮かべながら湯船から出る俺を嘲笑うように、後ろからリリウッドさんの声が聞こえた。

『んっ……か、カイトさん』

「は、はい?」

リリウッドさんの声に振り返らないように気をつけつつ、返事をすると……。

『その、タオルが小さくて胸部に巻き切れないのですが……』

「……」

そっか、フェイスタオルほどではないが、あまり大きくないタオルは、リリウッドさんの体を隠すには戦力が足りないらしい。

『……髪を伸ばして隠す形でも大丈夫ですか?』

「……はい」

拝啓、母さん、父さん――大丈夫なのか大丈夫じゃないのか、いまの俺には分からない。しかし、一つだけ確かなことは、この背中を流すという件に関しても――俺の思い通りにはいきそうにない。