軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女性らしいように感じた

俺はもしかしたら前世で風呂の神様とかに無礼でも働いたのではないだろうか? そうでなければ、なぜこうも毎回毎回風呂場で窮地に立たされるのか……。

風呂とは、心の洗濯であり、本来はもっと癒される場であるべきだ。間違っても精神的チキンレースを行う場所でも、頭が沸騰しそうなほど理性を振り絞る場でもない。

現在木造りの椅子に座る俺の後ろには、リリウッドさんが『ほぼ全裸』の状態でいる。リリウッドさんの体を隠しているのは、葉の髪だけ……あれ? なんだろう? 直接見たわけじゃないが、髪で大事な部分を隠すって、なんか余計えっちな気も……。

というかそもそも、リリウッドさんのメロンのような胸が本当に髪だけで隠れるんだろうか? というか仮に胸が隠れたとしても、あのサイズの胸に髪がかかると下は丸見えになるんじゃ……。

『カイトさん』

「すみません!!」

『……え? なぜ急に謝罪を?』

「あ、い、いえ! なんでもありません!」

落ち着け、動揺するな。変な想像をすれば、それだけ自分の首を絞めつけることになる。心を空にして、ただ無心で……うん? あれ?

なんで、俺の隣に『木が生えてきてる』の?

「え、えと、リリウッドさん? 俺の目がおかしくなっていないのなら、なんか木が生えてきてるんですが?」

『ええ、この木の果実は柔らかく、体を洗うのに適しているんですよ』

「な、なるほど」

……ヘチマ? いや、アレはたわしか……。

リリウッドさんの説明を聞いて、生えてきた木に生っている果実に触ってみると、プニプニと柔らかい弾力を感じだ。

表面は少しザラっとしているが、だからこそスポンジみたいな感じで、使いやすそうではある。

『では、お背中を洗いますね』

「よ、よろしくお願いします」

『あまり経験はありませんので、至らないところがあれば教えてください』

リリウッドさんが穏やかにそう告げると、背中に先程触った果実が押し当てられ、ゆっくりと優しい手つきで擦られていく。

う~ん。ほどよい弾力で、結構気持ちがいい。泡立ってる感覚もするし、この植物は結構いいな……。

そんなことを考えながら、背中を擦られる心地良さに身を委ねていると……なぜか背中に当たる弾力が『増えた』。

あれ? もう一つスポンジを使ってるんだろうか? ちょっとスベスベした柔らかさを感じる。けど変だな? こっちは殆ど動いてないぞ? いや、一応上下に少しずつ動いてはいるが、もう一方のスポンジほどの動きはない。あとなんか、一つ目のスポンジより『やたら大きいような』……。

「……あの、リリウッドさん?」

『はい? どこか痒いところがありましたか?』

「あ、いえ、そうじゃなくて……俺の勘違いならすみません。けど、その……もしかして『胸が当って』ませんか?」

『ええ、申し訳ありません。私はクロムエイナやシャルティアのように体のサイズを変えることはできないので……』

「……」

アッサリと告げられたその言葉に、一気に頭に血が上る感覚を味わった。

え? つまり、えっと、その……こ、このスベスベした弾力は、葉っぱの髪の毛と……り、リリウッドさんの……。

『えっと、背中を流す容器は……ありました。っと、すみません』

「!?!?」

少し離れた場所に置かれていた木桶を取ろうと、リリウッドさんが手を伸ばし、ぐにゅっという感触が背中に押し当てられた。

あぁぁぁぁ!? 当たってる!? なんかすごく柔らかくて弾力のある塊が、俺の背中で押しつぶされてる!?

『それでは流しますね』

「……ハイ」

『……カイトさん?』

「ダイジョウブデス」

無だ! 無になれ! なにも考えるな!! 背中には当たったのは、たぶん『柔らかいバレーボール』とかそんなのだ! 断じて胸ではない!!

思い込みとは時に絶大な力を発揮する。ひたすら言い聞かせろ、己の思考を欺き続けろ! 明確に意識したら終わりだ。体の一部が大変なことになる。

こ、こういうときはアレだ、怖いものを想像するんだ。思い浮かべろ恐怖の対象を!

――愛しい我が子。

……よし、少し落ち着いてきた。いや、大変失礼ではあるが、真っ先に思い浮かんだ怖い相手は、スイッチの入ったエデンさんだった。

けど、お陰でサッと血の気が引いたような気がしたし、助か……。

『これで後ろは終わりました。次は『前を洗います』ね』

「ま、前はいいです!?」

『そう遠慮しないでください』

「いやいや、遠慮とかじゃなくて……あっ」

『……え?』

少し落ち着いたと思った矢先に聞こえてきた死刑宣告のような言葉。慌てて拒否したが、リリウッドさんはスッと流れるような動きで俺の前に移動した。

どうやら胸を髪で隠して、下半身にはタオルを巻いていてくれたようで、最初のような衝撃的光景が広がることはなかったが……自体はそれ以上に最悪だった。

俺だって男である。こんな状況になっていると、いくら冷静であろうと頑張ったところで、いやがおう無しに体の一部は反応してしまう。

もちろんタオルでは隠している。しかし、その一部が自己主張しているのはタオルの上からも明らかであり、リリウッドさんの視線はその大変危険な部分に集中していた。

「……あ、い、いや、その、こ、これは……」

『……』

「あ、あの、リリウッドさん?」

『……本当に、興奮して下さるんですね。社交辞令かと思っていました……』

「え?」

『いえ、なんでもないです。失礼しました。カイトさん、前は自分で洗われますか?』

「あ、は、はい! 自分で洗います!」

『分かりました。では、私は一足先に湯船に戻っています』

よくは分からないが、リリウッドさんはなぜか納得した表情で頷き、その後で軽く微笑みを浮かべてから俺の後方に移動した。

そして先程までの発言とは違い、前を洗うのは俺自身に任せると告げて、温泉に戻っていった。

リリウッドさんの意図がまったく分からず、俺は少し茫然としてから、リリウッドさんが置いていったスポンジになる果実を手に取り、ゆっくり自分の体を洗い始めた。

『……なるほど。これが、気恥ずかしいという感覚ですか……ふふふ、どうやら私も、女であることは間違いないみたいですね』

そんな小さな呟きが聞こえ、収まりかけた頭が再び沸騰しそうになったのは、仕方がないことだと思う。

拝啓、母さん、父さん――リリウッドさんは、本当にガードが緩くて、俺はドキドキしっぱなしだった。それは当人が自分を木だと思っているからであり、ある意味リリウッドさんの種族上仕方がないことなのかもしれない。ただ、最後にリリウッドさんが呟いた言葉は、すごく――女性らしいように感じた。