軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『要塞』

戦王五将と称される五体の伯爵級高位魔族は、戦王メギドがそうであるように、それぞれ戦いに対する美学……拘りというものを持ち合わせている。

例えば戦王五将の一人バッカスは、戦いの前に名乗りを上げること、いかな強者が相手でも背を向けず正面から挑むことを誇りとしている。

戦王五将筆頭、アグニは戦いにおいての礼節を重んじる。ともすれば無法者が多いと思われがちな戦王配下において、彼女は彼女なりのルールを厳重する。

彼女は戦いにおいて、相手が格下であれば先手を譲り、己が格下であれば先に仕掛ける。『先手は挑戦者が得るべき』とは彼女の弁である。

そして今回の戦い、対峙するイリスに向けて、戦闘開始と共にアグニは地を蹴った。

それは即ち、アグニがイリスを己より格上であると認識している証拠であり、己が胸を借りる側であると認識しているから……。

アグニの戦い方は非常にシンプルである。極限まで強化した己の肉体を用いた肉弾戦。

一瞬で距離を詰めたアグニは、燃え盛る炎を纏った拳をイリスに向けて振り下ろす。

イリスが大きく横に跳躍したことでその拳は空を切り、地面に当たって巨大なクレーターを作り出した。

(……速い。が……なぜ? そこまで大きく回避する? なにか狙いがあるのか?)

回避されることは予想していたが、思っていた回避とは少し違ったのか、アグニは少しだけ思考する。なにか狙いがあるのかと……が、イリスはなにかを仕掛けてくる様子はなく、むしろ驚いたような表情を浮かべていた。

一瞬の思考の後、アグニは再び接近して拳を振るい、イリスはそれを全て回避する。

その攻防が数度繰り返された後、アグニはある違和感を覚える。

(身体能力と動きが噛み合っていない? これだけのスピード、数度反撃を受けていてもおかしくないはずだが……なんだこれは?)

ここまでの攻防で、イリスは完全にアグニをスピードにおいて上回っていたが……回避ばかりで反撃をするそぶりが無い。

まるで己の体に振り回されているような、そんな印象を受けるイリスの動きに、アグニは怪訝そうな表情を浮かべて一度足を止める。

(まるで、己の身体能力を把握しきれてないようだが……これだけの実力者に限って、そんなことがあるのか? いや、ありえん……なら、あの妙な動きはなにしかしら特殊な魔法の発動条件か?)

イリスのやけに大袈裟な回避にはなにか狙いがあるのだろうと考え、警戒を強めるアグニだが……実際は、ありえないと切り捨てた方の予想が正解だった。

そう、イリスは現在己の体に振り回されていた。というのも……。

(なんだこの馬鹿げた身体能力は!? あの大馬鹿め、どれだけ出鱈目なスペックの器を用意した!?)

アリスが用意したアリス本体とほぼ同等の力を持つ分体……その身体能力があまりにも高すぎて、コントロールしきれていなかった。

いかに肉体が世界最強クラスのスペックを持っていても、それを操縦しているイリスは戦闘において数万年のブランクがある。動きがぎこちないのは、ある意味必然とも言えた。

「……というより、そもそも、我は肉弾戦は苦手だ」

「むっ?」

「向かぬ戦い方をするものではないな、ということ……少々加減が心配だが、得意な戦い方をさせてもらおう」

「ッ!?」

一度アグニから大きく距離を取った後、イリスは静かに告げ……上空に膨大な数の魔法陣を出現させた。

「王命を下す。我が軍勢、我が剣兵、集い、居並び、我が眼前に立つ愚か者を滅ぼせ! カラミティ・ドゥームブリンガー!」

「ちぃっ!?」

詠唱と共に魔法陣が強く光を放ち、そこから漆黒の魔力で形成された剣がアグニに向かって一斉に放たれる。

一つ一つが膨大な魔力で形成された剣は、まるで絨毯爆撃のように闘技場に降り注ぎ、視界を埋め尽くすほどの爆発が周囲を包む。

しかし、アグニとて歴戦の強者。魔法陣から剣が放たれると即座に駆け出し、降り注ぐ攻撃を回避していく。

その魔法に対象をある程度追尾する性質があることも即座に見抜き、闘技場を駆け回るように回避する。

むろん、それだけではなく、剣の雨を縫ってイリスに攻撃を仕掛けるために接近しようとするが、イリスはその場を動かないまま、アグニの居る方向へ掌をむける。

「愚者の丘、漆黒の大地、影に潜む刃が血肉を求める……」

「させるかっ!」

再び開始された詠唱を止めようと、アグニは地を強く蹴ってイリスに向かう……が……。

「なっ……に……」

アグニの拳はイリスに向かう途中、大股一歩分以上離れた場所で強固な壁に阻まれる。

(球体状の魔力障壁!? なんだこの馬鹿げた強度は!?)

イリス・イルミナス……彼女の得意とする戦闘方法は、アグニと同じように非常にシンプルと言える。強大な魔力を用いた魔力障壁で相手の攻撃を阻み、高火力広範囲の魔法で粉砕する。

かつて彼女が人間だったころ、親友である少女はイリスを……『要塞』と、そう呼んだ。

「……我が指は贄を指し示す。貪り喰らえ、グラトニー・シャドゥエッジ!」

「ぐぅぅっ!?」

詠唱の完成と共に地面から幾千幾万もの漆黒の刃が突き出し、闘技場を埋め尽くす刃がアグニの魔力障壁を貫き、その体に軽くはないダメージを刻み、アグニは片膝をつく。

戦王五将筆頭であるアグニの拳すら防ぐ球体状の全方位防壁。逃げ場のないほど広範囲で防御の上から粉砕する超火力。

シンプルではある……シンプルだからこそ、彼女を格下の存在が打ち破るのは難しい。

「……少しずつ、慣れてきた。さらに火力を上げていくぞ……心して受けよ!」

「……くっ……」

フワリと魔力障壁を展開したまま浮かび上がり、強大な魔力を練り上げていくイリスの姿は……まさに、移動要塞と言えた。