軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『それは選ばれし者への祝福』

轟音と共に幾重にも剣をぶつけ合うリリアとノインの戦いとは対照的に、他の者達は制止したままいまだ睨み合いを続けていた。

ゼクスの用意した兵力には、広い魔界にも少数しか存在しない伯爵級を始め選りすぐりの実力者が揃っている。

その実力を魔力の質や構えのから推測すると、シアは表情にこそ出さないものの、状況があまり良くないことを理解していた。

リリアは予想通り……いや、予想以上にノインと接戦を繰り広げている。ラズリア、アハト、エヴァルの三体も爵位級でなければ十分に対応できる実力を持っており、頭数に数えることができる。

後はシアが伯爵級5体、子爵級15体、男爵級40体を退ければ、結界の術者であるゼクスに刃が届く。

単純な実力でいえば、万に一つもシアが敗北することはあり得ない……しかし、シアは理解していた。自分達には時間が無いのだと……。

ゼクスはシアに勝てないことは十分承知しており、その上でこうして姿を見せて時間稼ぎをしている。それは、フィーアが去るまでのタイムリミットまで、そう時間が無いことを示していた。

快人がフィーアの話を聞いてから、すでに一日半が経っており、おそらく粗方の準備は終えているのだろう。

しかし、だからと言ってやみくもに突っ込めば、それこそゼクスの思うつぼ……回避と防御に専念し、一定の距離を保ちながら逃げ回られると、本当に間に合わなくなる。

シアはゼクスが語った通り、対峙した相手を殺さず五体満足で倒す戦い方に誇りを持っており、それを歪める気はない。それを歪めてしまうことは、すなわち敗北に等しい。

だからこそシアは動かないままで探っていた。最短で己の誇りを失わないまま障害を排除するルートを……しかし、それは容易には見つからない。時間をかければかけるほど相手が有利になる……せめて隙でも生まれてくれればと、そんな思いを抱きながらゼクス達を睨み続けていた。

ただ、歯痒い展開なのはシアだけでは無かった。ゼクスと爵位級高位魔族達も、迂闊に動くわけにはいかない……いや、『動けなかった』。

一瞬でも気を緩めれば、その瞬間に粉砕される。コンマ数秒視線をそらせば、意識を刈り取られる。それほどまでにシアは強い。

目的が時間稼ぎである以上、自分達から動く必要はないが……それでも圧倒的強者と対峙し続けるという行為は、彼等の神経を容赦なく削っていく。

ゼクス達にとって敗北条件は二つ、一つは時間内に結界の術者であるゼクスが倒されること……そしてもう一つは『快人に掠り傷一つでも負わせてしまうこと』……。

ゼクスは気付いている。六王の中には暗黙の了解だから手を出してこないのではなく……『六王の力を借りないと決めた快人の意思を尊重して』手を出さない者達が居ることを……。

そう、快人が掠り傷でも負えば、その瞬間に彼等は敗北する。

目を凝らしてみなければわからない『宙に浮かぶ小さな氷の結晶』と、『快人の背後で姿を消している存在』……その二体は、快人が手傷を負えば確実に動く。

そうなればもうパワーバランスなど無い。特に幻王は一切容赦しないだろう。

対峙するのは神界の№5、状況を見守っているのは六王二体……それは恐ろしいほどのプレッシャーとなってゼクスを襲っていた。

状況は緊迫している……それこそ、一つの切っ掛けがさえあれば、一気にどちらかに戦局が傾くほどに……。

そしてその切っ掛けは、轟音を響かせるもう一方の戦闘の中から現れた。

「くっ、うぅ……」

「リリアさん!?」

何度目かのカウンターを受け、後方に弾き飛ばされるリリアを、快人が心配した表情で呼ぶ。

リリアのノインの総合力を比べると……僅かだが、ノインが上回っており、戦いが長引けば長引くほど、ノインが優勢になるのは必然と言えた。

リリアの方にも目立ったダメージはないが、それでも肩で大きく息をする仕草からは強い疲労が感じられ、対するノインは呼吸一つ乱れていない。

「……悔しいですが、やはり、いまの私では初代勇者様には敵わないみたいですね」

「……負けを認めるのですか?」

微かに顔を伏せながら、リリアは自分ではノインに勝てないと口にし、それを聞いたノインは少し怪訝そうに尋ねる。

するとリリアは……小さく首を横に振った。

「……いいえ……ただ、出来れば『コレ』は使いたくありませんでした。『コレ』は私の力ではありませんし、気安く行使していいものでもない……」

「……なにを……」

「でも、どうやら……使わなければ、貴女様には勝てないみたいですね」

「ッ!? い、いかん! ノイン殿!!」

静かに語るリリアの言葉、その意味をいち早く理解したゼクスは、先程までとは違い慌てた様子で呼びかける。

しかし、ゼクスが詳細を口にするよりも……リリアが『ソレ』を発動させる方が早かった。

「……『時の祝福』よ。いま、私に『刹那の奇跡』を!」

「なっ、がっ!?」

「ノイン殿!?」

瞬間、閃光が走り、ノインの体が大きく吹き飛ばされる。

もちろんそれを行ったのはリリアだが……ノインにはソレが見えなかった。いや、ギリギリ見えることは見えた……しかし、反応出来なかった。

何故ならリリアは先程までの倍、いや、それ以上の速度で迫り剣を振るってきたから……。

最高神の本祝福……それを受けた者には、最高神の名を持って発言することが許される……が、無論それだけではない。

最高神の本祝福を受けた者には、『最高神の持つ権能の一部を習得する権限』が与えられる。

そう、リリアはクロノアの祝福を受けたことで、クロノアから『己の時を加速させる魔法』を習得することが許された。

無論、許可を得たからと言って必ずしもその魔法を行使できるわけではない。極一端とは言え、最高神の権能である魔法……普通の人間族なら、許可を得ても習得は不可能だろう。

しかし、リリアは持ち前の才能でクロノアから教わった魔法を短時間ではあるが行使することができるようになっていた。

ただ、強大な魔力を持つリリアとはいえ、最高神の魔法を行使できるのは『三倍の速度で数十秒』が限界であり、それでほとんどの魔力を使い果たしてしまう。

つまりこれはリリアにとっては切り札であり、同時に諸刃の剣でもあった。

しかし、それがもたらした効果は大きい……伯爵級はともかく、子爵級と男爵級の高位魔族は、リリアの時の魔法を目にして、一瞬ではあるが意識をシアから外してしまった。

「……いま一瞬抜けたな? 減点だ」

「しまっ!?」

そしてそれをシアが見逃すはずもなく、一瞬で十数体の高位魔族の意識を刈り取り、ゼクスの居る場所に一直線に迫る。

睨み合いの時間は終わった……まだ厄介な伯爵級は全て残っているが、この好機を逃す手はない。

黒い暴風の如く大鎌を振るい、神界の№5がいま、牙をむいた。

ただし……まだ、完全にシア達が優勢に立ったとは言えない。子爵級、男爵級を次々薙ぎ払いながら、シアはチラリとリリアとノインの戦いへ目を向ける。

「……だが、それでも……あの勇者を倒すには足りそうにないか……」

時の魔法を使いノインを圧倒しているように見えるリリアだが……シアの目には確かに映っていた。

ノインがその閃光のような剣撃の中、紙一重で大ダメージを避け続けている姿が……。

「……『後一手』あれば……いや、無いもの強請りに意味はないな」

誰にも聞こえない声でそう呟いた後、シアは視線をリリア達から外し、己の敵へ向かっていった。