軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『いつかといま』

戦いが始まってから、まだほんの十数分しか経っていないはずだが……いったいこの短時間にどれほどの応酬が交わされたのだろうか?

俺の動体視力ではほとんど分からなかったが……現在の状況はなんとなく理解できた。

……一手足りない。それは、こちらにとっても、ゼクスさん達にとってもだろう。

リリアさんはノインさんと凄まじい戦闘を繰り広げ、伝説と言われた初代勇者と互角の戦いを繰り広げているが、決定打が入った感じではない。

シアさんは多くの爵位級高位魔族を相手取り、すでにその半数近くを気絶させているが……他とは明らかに纏う魔力の桁が違う五体の伯爵級魔族に関しては、優勢に戦ってはいるが数を減らすまでには至っていない。

ラズさん、アハト、エヴァの三人は爵位級でない魔族達と優勢に戦っているように見えるが、それでも相手の数が多く押しては引いての繰り返しだった。

戦い自体はこちら側が優勢に見えるが、結界の要であるゼクスさんに攻撃は届いていない。

ただ、ゼクスさん達も気を抜けば瓦解しそうな瀬戸際で踏ん張っている感じで、当初のような余裕はない。

こちらは攻めきるには一歩足りず、むこうはしのぎ切るには一歩足りない……そんなある意味で硬直状態と言っていい状況だった。

そんな考えを巡らせていると、シアさん達が一度戦っている相手から距離を取り、俺の近くに戻ってきた。

「……ちっ、なまじ実力のある連中が逃げに徹すると、想像以上に面倒だな」

押してはいてもゼクスさんに届かない状況に、シアさんは苛立ったように舌打ちをする。

そして俺が声をかけようとすると、別の方向から荒い息が聞こえてきた。

「……はぁ……はぁ……」

「リリアさん!? すごい汗ですよ……大丈夫ですか!?」

「……いくらお前の魔力が大きいと言っても、時空神様の力の一端を行使しているんだ。もう魔力も体力も、ロクに残っていないだろう?」

「……はぁ……えぇ……本当に……すごい方です……」

リリアさんは大剣を杖のようにして必死に体を支えているが、疲労困憊なのは俺の目からも明らかだった。

対してノインさんは、あちこちにダメージこそあるものの……それでもしっかりと両の足で立っており、改めてその強さを実感した。

ともかく今は疲労しているリリアさんの回復をと考え、俺はマジックボックスからストローの付いたドリンクを取り出す。

「リリアさん、とにかくこれを飲んでください!」

「……あ、はい。ありがとうございます……美味しいですね。って、え? これは……魔力と体力が回復して……もしかして、かなり高価な回復薬なんじゃ……」

「あ、えっと……『世界樹の果実ドリンク』です」

「ぶぅっ!?」

ちなみに果汁100%である。アリスに作ってもらったので、味も美味しいはずだ……自分用じゃないから飲んだことないけど……。

「な、なな、なんてもの飲ませてるんですか!? というか、なんで世界樹の果実をドリンクに、噂では下手に加工すると治癒効果が弱まって……はっ!? まさか、またリンにあげるために、幻王様辺りに頼んで作ったんじゃないでしょうね?」

「……さ、さぁ! これからどうしましょうか!?」

「……ちょっと屋敷に戻った後、カイトさんには改めて話があります」

即座になんのために作ったかバレてしまった……後が怖い。

と、ともかく、これでリリアさんの体力は戻ったわけだが……それでもノインさんを突破できる気がしない。

そう考えているのはリリアさん達も同じみたいで、動かずジッとゼクスさん達を見つめている。

決め手に欠けるからこそ迂闊に再開できない。先程のようになれば、もっと時間がかかってしまう。

あとどれぐらい時間があるか分からないが……あまりいい状況ではないだろう。

チリチリと首の裏を焦がすような焦燥感を感じていると、ノインさんが俺の方に視線を向けて口を開く。

「……カイトさん、もう、いいでしょう?」

「……なにが、ですか?」

「お願いします。もう、引いてください」

「……」

それは、説得……いや、懇願だった。

いまにも泣き出しそうな表情で引いてくれと告げるノインさんに、俺は否定も肯定もしない。

俺もこの十数分間、遊んでいたわけではない。戦闘に参加できないからこそ考えていた。ノインさん達の気持ちを、願いを……なぜなら、きっとこの人は……。

「貴方の主張はきっと正しい。でも、それはフィーアだって分かっている筈なんです……だから、そっとしておいてあげてください」

「……」

「そうすれば、きっと『いつか』……フィーアとクロム様も仲直りを……」

「……いつかって……いつなんですか?」

「……え?」

「……1000年経ってるんですよね?」

「そ、それは……」

俺は声を荒げたりするわけでもなく、ゆっくり落ち着いた声でノインさんに問いかける。

「ノインさん、これはあくまで俺の予想なんですけど……貴女は……初めは、フィーア先生とクロの仲を取り持とうと思ってたんじゃないですか?」

「なっ……」

「でも、たぶん……俺に社会情勢的なことは分かりませんけど……称賛される自分と貶されるフィーア先生って構図に、後ろめたさを感じてなかなか動けず……結局、時間だけが過ぎてしまい。半ば諦めてしまった」

「……ちがっ……違います……私は……」

たぶんだけど、ノインさんにとってフィーア先生は悪の親玉という存在ではなく……『互いに大事なものを守ろうと戦った相手』として、敬意を抱く対象なんじゃないかと思う。

だからこそ、フィーア先生に対し後ろめたさがあった。それは決してノインさんが原因なんかじゃないが、彼女の性格ならありえるだろう。

実際、いまのノインさんはかなり動揺しているみたいに見える。

「……初めはこう思ったんじゃないですか? 焦る必要はない、時間をかけてフィーア先生を説得すればいいって……」

「……違います」

「……もっと時間が経ってから、心の傷が癒えてから、次の機会が巡ってくれば……そんなことを考えて、結局動けないまま時間が過ぎていったんじゃないでしょうか?」

「……そ……んな……そんな、ことは……」

俺は決してノインさんを攻めているわけじゃない。むしろ、ノインさんの気持ちは痛いほどよく分かる。

年月に差こそあれ、この人が抱いてるものは『かつての俺』と一緒のはずだから……。

「俺にも経験があります。いつか頑張ろう、次は自分から動こう、明日から努力しよう……そうやって自分にいいわけをしているうちに、一歩踏み出すために越えなくちゃいけない壁がどんどん大きくなって……いつの間にか動けなくなってしまう」

「っぅ……」

「だから、そんな俺が言えたことじゃないのは百も承知で、自分のことを棚に上げて言わせてもらいます……こないんですよ……」

「……」

「いま動かなくちゃ……『いつか』なんて永遠にこないんですよ!!」

「うっ、ぁ、ぁぁ……」

「だから、俺は止まりません。部外者が余計なことをと思ってくれて構わない。軽蔑してくれたっていい……でも、ノインさん……貴女は、本当に……いまのままでいいと思っているんですか!?」

「ッ!?」

強く告げた言葉……説教にもなっていないような我儘な主張。しかし、ノインさんは衝撃を受けたように一歩後ずさる。その目には小さくはない動揺が浮かんでいた。

そんなノインさんに近付こうとすると、ノインさんを庇うようにゼクスさん達が立ちはだかり……ゼクスさんの口からノインさんを庇う言葉が発せられる……より先に、空気を切り裂くような声が聞こえてきた。

「よくぞ、吠えた!!」

「……へ?」

「やはり、若者はそのぐらい無鉄砲でなければのぅ……よい、実にワシ好みじゃ!」

「この……声は……まさか!?」

突如聞こえてきた声に、ノインさんもなにやら驚愕したような表情に変わっていた。

「うむ、突き進め若人よ! その選択が正解か誤りかなぞ、進んだ先で決めれば良い! 障害なんぞ、叩き壊してしまえ! ……しかし、うむ……刃が足りぬか? ならば、貸してやろう!!」

直後に俺とゼクスさん達の間に、2メートルを優に超える巨大な剣の柄を長く伸ばした形状の槍が轟音と共に突き刺さる。

そして、その存在は槍に続くように姿を現した。

マリンブルーのショートボブ、魚のヒレに似た耳、水夫服を模した白と青の服……150cmに満たない小柄な身長ながら、堂々とした力強さで槍を引きぬき肩に担ぐ。

「なに、安心して戦力に数えてくれればよい。国王の名はさっさと捨てたいが……『人界最強』の名は、当分捨てる気はないのでな!」

「……ラグナ……ど、どうして、ここに!?」

「なぁに、戦友が道を誤っておるのなら、正してやるのも友の務めじゃ……まぁ、尤も、お前もよう知っておるじゃろうが……ワシは、少々荒っぽいがのぅ?」

硬直する戦局に足りなかったあと一手……過去にとらわれ動けずにいるもう一人……『ノインさんを救うための最後のピース』は、あまりにも唐突に……しかし、絶妙のタイミングで現れた。