軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『交わる刃・勇者と戦姫』

戦闘開始の合図なんてものはなく、初めに動き出したのはリリアとノインだった。

高密度魔力体質……常人の数十倍の密度をほこるリリアの魔力は、同じ魔力量でも通常より遥かに強大な効果を得ることができる。

全力の身体強化魔法により人知を超越した膂力で、リリアは一歩目からトップスピードでノインへ迫る。

魔力が雷光となって迸り、体のバネを十分に使った大上段からの振り下ろし。ノインはそれに素早く反応して回避する。

虚空を切った大剣が地面に当ると、まるで砲弾でも着弾したかのような轟音があがり、地面にすら亀裂が入る。

しかしノインとて戦闘経験豊富な強者。回避するだけではなく瞬時にリリアの周囲に複数の剣や槍を魔力によって造り出し、それを一斉にリリアに向かわせた。

「……」

しかしそれはリリアが振るう大剣の一振りで弾き返され、その威力の前にいくつかの剣はへし折れた。

リリアは紛れもない天才である。それは彼女が高密度魔力体質と呼ばれる、特異体質だから……ではない。

高密度魔力体質など、リリアの強さの本の一端……こと戦闘において、リリアはあらゆる才能を生まれ持っていると言っていい。

常人を遥かに上回る魔力量、総数28本からなる剣の雨を見切る動体視力、見てから反応までのタイムラグが殆どない反射神経、瞬時の状況判断能力……彼女の才覚は底が知れない。

人界最強と呼ばれるハイドラ王国現国王ラグナは、10代の頃のリリアをこう評価した。

『時代が違えば、人界を統べていたかもしれない』と……。

ゼクスがノインに語った通り、リリアを人間という枠で考えるのは愚かとすら言える。

魔族や神族、エルフ族やマーメイド族、それらに戦闘能力という点で劣る人間族に突如生まれた……完全な突然変異。それがリリア・アルベルトという怪物だった。

そんな強大な力を持ちながら彼女が心優しく穏やかに育ったのは、家族の惜しみない愛情と支えてくれる友のお陰だろう。

ともすれば武を持って人界を支配していたかもしれない才覚が、いま容赦なくノインへと襲いかかる。

剣や槍を撃ち落とした勢いそのままに、リリアはノインに急速に接近して大剣を振るった。

リリアの強さは言葉にしてみれば実に単純と言える……そう、速くて重い。

「ぐっ、うぅ……」

それを手に持つ刀で受け止めたノインだが、あまりの重さに地面がへこみ、受け切れないと判断した彼女は即座にその一撃を受け流す。

リリアの武器は大剣、己の武器は刀、小回りは自分の方がきく。そう判断したノインは、大剣を受け流した動きを利用し、滑るように刀をリリアに向かわせた。

しかし……。

「がっ!? ぁっ!」

胸付近の甲冑が砕かれ、吹き飛ばされるノイン。

そう、リリアの反射神経は尋常ではない。ノインが反撃に転じた瞬間には、リリアは既に片手を大剣から離し拳を撃ち出していた。

圧倒的なパワーで殴り飛ばされたノインは、そのまま地面を二度ほど跳ねたが、その途中で体勢を立て直し両足で地面に着地する。

砕かれた甲冑も即座に彼女の魔法によって修復され、一見すれば傷一つ負ってない姿で再び刀を構える。

「……これは、想像以上ですね」

「……」

リリアは、騎士ではない。いや、騎士団に所属していたころの経験もあり、彼女はちゃんと騎士道と呼べる精神は持ち合わせている。

しかし、彼女は『ソレを捨てた方が強い』……騎士ではなく戦士として、必要であれば剣を捨てて拳を打ち込む。その戦い方にこそ、彼女の才能はいかんなく発揮される。

今回の相手は手を抜けるような存在ではない。リリアはそう認識しており、初めから持ちうる全力で攻めていた。

息つく暇さえ許さずノインに接近しようとする。

しかしノインも先程の攻防でリリアの強さは十分に理解しており、そうそう接近を許す気も無かった。

空中に数多の剣や槍を出現させ、リリアの速度を鈍らせながら、刀を一度鞘に納めて腰を落とし、居合いの構えをとる。

間合いに入れば即座に切り裂く神速の斬撃……普通なら、踏み込むことを躊躇うであろう死線を、リリアは一切の逡巡なく踏み越えてノインに接近しようとした。

無論、ノインがそれを見過ごすわけもなく……洗練された動きで居合いを放ち……驚愕に目を見開いた。

「なっ!?」

リリアは横薙ぎに振るわれる刃を、『柄の先』に当てることで防御し、スピードを落とすことなく肉薄してきた。

まさに神技と言える捌き、あまりにもリスクの高い行動だが……リリアにそれは当てはまらない。

本来、差異はあれど反復練習をして体に覚え込ませるというプロセスを経て、会得するものであるはずの技……その過程を飛ばし、思い描いたイメージそのままに体が動いてくれること……。

ソレを才能と呼ぶならば、それが行える者を天才と称するならば……リリア・アルベルトはまさにそれである。

針の穴を通すような精密な動きであっても、リリアの体は頭に思い描いたイメージから少しもずれることなく実行する。

そう、リリア・アルベルトは……紛れもなく、才という才に愛された天才である。

「はあぁぁぁ!」

「っ……」

放たれたリリアの一撃を再び防御したノインだが、その威力に弾き飛ばされながら体勢を立て直す。

リリアは逃がすまいとノインに接近し、幾度となく大剣を振るう。

その打ち合いが10を越えた辺りになり……リリアは、違和感に気が付いた。

身体能力はリリアが上回っている。ここまでも数度押し切って攻撃を当てることができた。戦局はリリアが押していると言ってもいいはず……だが、ノインは崩れない。

リリアの猛攻に晒されながら、それでもなお、彼女は『片膝すらついてはいない』……。

振り下ろされた大剣の衝撃を、受け止めた刀から手に移し体を伝わらせて受け流す。

確かにリリアは天才である。しかし、それでもまだ彼女は23歳……戦闘経験はノインに比べれば圧倒的に劣る。それはリリアも十分理解しているつもりだった。

しかし、それでもまるで手応えが無いというのは……予想外と言う他ない。

ノイン……いや、九条光は、かつて勇者と呼ばれ魔王を打倒した存在である。

彼女は決して誰よりも強かったから『勇者』と呼ばれたわけではない。彼女と共に旅をした者でも、武力で言えばラグナの方が上だった。

しかし、彼女は……ただの一度も『倒れなかった』……どんな強敵を前にしても、どんな苦境に立たされても、揺るぎない強さを持って立ち続け、最後には勝利を掴み取ってきた。

そう、彼女を勇者たらしめている最大の力は……不屈という言葉が生ぬるいほどの『戦闘継続能力』……。

攻撃を防御する際の力の込め方、衝撃を伝わらせ受け流す技術、そこから反撃の手を探る洞察力……彼女の戦闘能力は、非常にバランスがよく隙が無い。

少なくとも『少々身体能力で上回る程度』では、彼女を崩すことはできない。

「ふっ!」

「くぅっ……」

リリアの攻撃を縫って放たれた一撃がせまり、リリアは即座にバックステップで離脱する。

しかし彼女の反射神経をもってしても完全には回避できず、頬を微かにかすめていた。リリアは自らの頬に手を当てて傷を確かめた後、感嘆したように息を吐く。

「……流石、初代勇者様です。ここしかないというほどの、絶妙なタイミングでの反撃」

「いえ、リリア公爵も本当に素晴らしい。純粋な戦闘能力で言えば、貴女は私より上でしょう……ですが、ええ、まぁ……ソレだけでは、私には勝てませんよ?」

「ご忠告痛み入ります。出来れば、その言葉は『戦いが終わった後』……もう一度聞いてみたいものです」

「そうですね……失礼。戦いの最中にどちらが上かなど、無礼でしかありませんでした。貴女に勝ってから、改めて発言することとしましょう」

「では、私は貴女様に勝利した後……『貴女様の忠告のお陰で、より強くなれました』……と、お礼を申し上げることにしましょう」

それ以上の言葉は必要なく、二人は再びぶつかり合う。

かたや、かつて人間の身で伯爵級高位魔族を打ち破った勇者。かたや、人間という種に生まれ落ちた突然変異の天才。

戦いはまだいっそう激化していく……。