軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隠し続けてきた秘密であると……

二人の反応に妙な引っ掛かりを覚えつつも、言及したりすることはせず、ノインさんも含めた三人で軽く雑談を交わす。

しばらく他愛の無い会話をしたところで、フィーア先生が思い出したように最初の話題に話を戻してきた。

「そういえば、ミヤマくん? 結局私に用事って、なにかな?」

「ええ、ノインさんが居るので、必要ない話なのかもしれませんが……」

「うん?」

ノインさんはクロの家族だから招待状を持っているのは間違いないし、フィーア先生と親友同士というならすでに六王祭に誘っていたとしても不思議ではない。

まぁしかし、提案して損するわけでもないので、誘うだけ誘ってみることにする。

不思議そうに首をかしげつつ、ハーブティーのおかわりを用意するために、ポットを持って立ち上がりかけたフィーア先生に本題を告げる。

「光の月24日目からある六王祭なんですが、フィーア先生もよかったら行きませんか?」

「……え?」

直後に、フィーア先生の手からポットが滑り落ち、床に当って大きな音と共に砕け散る。

え? なんだこの反応……なんなんだ? この嵐みたいな感情は……。

俺が声をかけた瞬間、フィーア先生から噴き出すように様々感情が現れたのを、俺の感応魔法が読みとっていた。

フィーア先生の表情は変わっていない。少しだけ驚いてるだけに見える……しかし、感応魔法で感じる感情は、濁流のように凄まじかった。

後悔、恐怖、怒り、嘆き、不安、逃避……思わずのけぞりそうになるほど、暗い感情が吹き荒れていて、俺は言葉を失ってしまった。

するとそこで、ノインさんが不意に椅子から立ち上がり、フィーア先生に近付く。

「……あぁ、駄目じゃないですか、フィーア。いつものことですが、相変わらずの『ドジ』ですね」

「あ、あはは、うん。ごめん、手が滑っちゃって……」

いつも通りのドジ? 本当にそうなのか? だって、いまのフィーア先生は、うっかり手が滑ったというよりは……動揺してポットを落としたように見えた。

しかも、ノインさんからも……なにか誤魔化すような、慌てている感情が伝わってくる。表情は穏やかなはずんのに、なにか触れてはいけないものに触れた感じがした。

「……ミヤマくん」

「え? あ、はい!」

「……ごめんね。せっかく誘ってもらったんだけど、訪問診療しなくちゃいけない患者さんが多いから、ちょっと時間が無いよ」

……嘘だ。それは、感応魔法を使わなくったって分かる。だけど、なにも言えない。

フィーア先生だって、いまの状態で嘘をついてもバレることぐらい分かっているはずだ。その上で、あえて嘘をついた……それはつまり、この話題にはこれ以上踏み込まないでくれと、そういうことだろう。

「そうですか……無理言って、すみません」

「ううん。ミヤマくんの気持ちは嬉しかったよ。誘ってくれてありがとう」

分からない。どうしてこんなことになったんだろう? 俺はただ、フィーア先生を六王祭に誘おうとしただけだったのに……。

なんで、この人は……こんなにも悲しそうな感情を溢れさせながら、それでもいつも通りに笑っているんだろうか? 分からないし、尋ねることもできない。

だって、きっと……ソレを尋ねたら、フィーア先生は凄く傷つくんじゃないかって、そんな気がしたから。

結局その後も微妙な気まずさが残り、あまり会話も弾むことなく、頃合いを見て俺は屋敷に戻ることにした。

夜……自分の部屋のベットに寝転がる俺の脳裏には、考えないようにしようとしても、どうしても今日のフィーア先生たちの様子が思い浮かんでしまう。

あの時のフィーア先生の感情は、感じ取ったこちらが辛くなるようで、いつも穏やかに笑うフィーア先生からは想像もできないほど、暗く冷たいものだった。

その理由を知りたいと思う心もあれば、これ以上踏み込むべきではないと思う心もある。

おそらく、だけど……ソレは、以前フィーア先生が言っていた『罪』に関係してるんじゃないだろうか?

そもそも俺は、あの教会にあった十字架と同じ数の人をフィーア先生が殺したということ自体、ずっと半信半疑だった。

いや、仮に本当だとしても、それは医者として……救おうとした結果、救うことが出来なかった命なんじゃないかと、そんな解釈をしていた。

でも、今日のフィーア先生を見て、ほとんど直感みたいなものだけど……そういう類のものじゃないって、そう思った。

しかしそうなるとますます分からない。あの優しいフィーア先生が、理由もなく他者の命を奪ったりするだろうか? いや、しないはず……しないと信じたい。

でも、その『理由』が分からない……いくら考えたところで、答えなんて出るわけもない。

もやもやとする頭を抱えつつ、なんの気無く上半身を起こすと、丁度そのタイミングで俺の目の前に光る魔力の鳥が現れる。

「……ハミングバード?」

魔力を用いたメールのような、この世界で重宝されている連絡手段。こんな時間に誰からだろう? そう考えつつ、ハミングバードに触れると、空中に光る文字が浮かび上がる。

『夜遅くにごめんね。いまから、教会に来れないかな? フィーア』

短く簡潔な文……だが、そこにはとても重いナニカが込められている気がした。

俺はその文字を見てすぐにベッドから起き上がり、服を着替え……転移魔法の魔法具を起動する。

フィーア先生の診療所には、ノアさんの治療で定期的に訪れることになっているから、診療所のすぐ手前を登録してある。

一瞬で俺の体は光に包まれ、目的の場所へと転送された。

薄暗い教会の中、ステンドグラス越しの月明かりに照らされながら、フィーア先生は祭壇の前に立っていた。

祈りを奉げている訳ではなく、ステンドグラスの先にある月を見つめるように、少しだけ顔を上げて佇んでいる姿は、幻想的な美しさがあった。

「……ごめんね。こんな時間に呼びだしちゃって」

「……いえ」

静かな空間にフィーア先生の声が響き、ゆっくりと振り返ったその表情は……まるで今にも泣き出しそうだった。

拝啓、母さん、父さん――フィーア先生は、優しくて明るくて、それでいてどこか抜けているところもある。そんな親しみやすい女性……だけど、ずっとなにか重いものを隠しているような雰囲気は、思い返してみれば確かにあった。そしていまは、確信している。これから語られる内容、それは――隠し続けてきた秘密であると……。