軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かつて魔王だったってことだ

夜の教会、不気味なほどの静けさの中で、俺とフィーア先生は向い合う。

そしてしばらく沈黙してから、フィーア先生はゆっくりと口を開く。

「……ミヤマくん。今日のお昼に私とヒカリを見てから、ずっと疑問に思ってたんでしょ? なんでこの人達は、こんなに動揺してるんだって……」

「……気付いていたんですか?」

「うん。というか、ミヤマくんって、嘘付けないタイプだよね。顔にすぐ出るから、もの凄く分かりやすいよ」

「……」

なぜだろう? 以前似たようなことを言われたからかもしれない……優しげな苦笑を浮かべるフィーア先生の顔に、一瞬クロの笑顔が重なった気がした。

以前からどことなくそんな感覚は感じていた。不思議と話しやすい気がしていたが、それはたぶん……フィーア先生がクロと似ているから。

姿形ではなく、まとう雰囲気とでも言うのだろうか? だからこそ、俺にはどうしてもフィーア先生が語っていた罪という言葉に納得できなかったのかもしれない。

「あん時のミヤマくんの反応を見て、隠し通すのは難しいって思った……ううん。ミヤマくんを騙し続けるのが、辛いって思った」

「……え?」

「ずっと言えなかったんだけど……ありがとう、ミヤマくん。『クロム様を救ってくれて』……私が、出来なかったことを叶えてくれて……」

「じゃあ、やっぱり……フィーア先生は、クロの家族……なんですか?」

告げられたお礼の言葉。ノインさんが現れた時から、もしかしたらとは思っていたが……やっぱりフィーア先生はクロの家族みたいだ。

けど、なら、どうしてそれを隠していたんだろう? 俺が聞かなかったから答えなかっただけなのかな?

「……『元』家族だよ」

「元?」

「……クロム様とは1000年以上会ってない。それに、私には、クロム様の家族だなんて名乗る資格はないよ」

「……どういう……ことですか?」

辛そうに顔を歪めながら、自分はクロの元家族だと告げるフィーア先生。

その言葉を聞いた時、俺の頭にはクロが自分の過去を語った時に告げた言葉を思い出した。

クロは自分が正直に願いを口にしなかったせいで、大切な家族を傷つけてしまったと……そう言っていた。その家族の名前に関しては、ハッキリとは告げていなかったが……それがフィーア先生なんだろうか?

「……うん。そうだね……改めて、自己紹介をしようか」

「……うん?」

「私の名前は、フィーア……冥王・クロムエイナ様に育てられた魔族で……かつて『魔王』と名乗って人界に戦争を仕掛けた。この世界で一番の……愚か者だよ」

「……ま……おう?」

フィーア先生がなにを言っているのか分からなかった。いや、言葉の意味は分かる。しかしそれが、全く頭に入ってこない。

魔王って、あの魔王のことか? 1000年前に大軍を率いて人界に侵略し、初代勇者であるノインさんが打倒した……その魔王の正体が、フィーア先生?

混乱して言葉が出ない俺だが、フィーア先生は俺が落ち着くまで待ってくれるつもりはないみたいで、話を続けていく。

「私は、種族名の無い単一種の魔族でね。生まれたばかりでなにも知らず、一人ぼっちだった私をクロム様が拾って育ててくれた。フィーアって名前も、クロム様に貰った大切な宝物なんだ」

「……」

「私は、クロム様が大好きだった……本当の母親のように思ってた。いつか強くなって、この方を助けてあげられる存在になるんだって……そう、思っていたはずだった」

そういえば、アリスが言っていた。魔王は六王達にとって妹分みたいな存在だって……。

ますます分からない。アリスから話を聞いた時は、魔王がどんな風に考えて人界を侵略したかなんて、それほど深く考えたりはしなかった。

でも、その魔王の正体がフィーア先生だとしたら……なぜ、こんな優しい……優しいはずの人が、そんなことをしたんだ? と、そんな疑問が強く湧きあがってくる。

「……クロム様に拾われて、8000年ぐらい経ったあたりだったかな? 私は、クロム様の笑顔に時々影がさしてることに気付いた」

「……それって……」

「うん。ミヤマくんがクロム様を救ってくれたいまだからこそ、その理由は分かってるけど……当時の私には、なんでクロム様がそんな顔をしているか分からなかった」

「……」

「でも、一つだけはっきりしていたのは、クロム様に悲しい顔なんてさせたくないってことだった。それで、私はいっぱい考えた。考えて、考えて……どうしようもないほど、大きく『間違えた』」

深い後悔と共に発せられる言葉は、一つ一つがまるで胸を刺すようで、俺は自分でも上手く言い表せれない感情に包まれていた。

同情? 怒り? 憐れみ? 心配? どれも正解のようで、どれも間違っている気がする。

「かつて、クロム様達は神界に戦いを挑んだって、詳細は分からなかったけど、その伝説だけは魔界に広く知れ渡っていて……私は、クロム様の憂いは、神界を打倒出来なかったからなんじゃないかって、そう考えた」

「……それは……」

「うん。いまにして思えば、優しいクロム様がそんなことを考えるわけないって分かる。でも、当時の私は、全然余裕が無かった……クロム様のために、クロム様のために、そんなことばかり考えて、まともな思考なんて出来て無かったんだと思う」

「……じゃあ、フィーア先生が人界を侵略したのは……」

「……私は、クロム様を世界の王にしてあげたかった。誰もクロム様を傷つけたりしない、悲しませたりしない……そんな、クロム様が絶対の頂点である世界を作りたかった。それを成すことこそが、私を育ててくれたクロム様への恩返しだって……本気で思いこんでたんだ」

「……」

なにかをいうべきかのかもしれない。でも、やはりなにも言葉が出てこない。

だってこの人は、もう既に自分の間違いを理解している。そしてどうしようもなく後悔して、いまも決して終わることの無い贖罪を続けている。

だから、当時を知る訳ではない俺には、フィーア先生を責めることも……慰めることも出来ない。

「本当に……馬鹿だった。私は、沢山の人を傷つけて……苦しかった。辛かった……自分の手で誰かを傷つける度に、泣き出しそうなほど苦しかった。でも、これはクロム様の為なんだって、そんな言い訳をして自分を騙して……ヒカリに負けるまで、ずっと愚かなことを続けていたんだ」

「……」

当時を思い出したのか、フィーア先生の目からは大粒の涙が零れ落ちる。

あぁ、やっぱりこの人は……どうしようもないほど、優しく愛の深い人なんだ。だからこそ、自分でそれを歪めてしまって、苦しみ続けている。

「ヒカリに負けても、私はまだ諦めて無かった……クロム様を世界の王にするために、ボロボロの体で立ち上がろうとした……そのタイミングで、私達の前にクロム様が現れたんだ……」

「……」

「クロム様は……『泣いてた』……ボロボロの私を見て、悲しそうに泣いてた……そんな顔、絶対させたくなかったのに……クロム様を守りたかったのに……一番、クロム様を傷つけたのは、私だった」

「……フィーア先生」

とめどなく涙を流しながら、フィーア先生は懺悔するように当時のことを語り始めた。

己を曲げてまで守りたかった大切な存在……でも、大きく間違え、そして誰よりも深くその大切な存在を傷つけてしまった一人の魔族の話を……。

拝啓、母さん、父さん――フィーア先生の語ったことは、俺が予想していなかった内容で、結局俺はロクに言葉を発することも出来ず、ロクに理解もできてないと思う。ただ、一つ確かな事実は、フィーア先生は――かつて魔王だったってことだ。