軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

重大な秘密を隠しているような……

光の月18日目。いつも通りの時間に起床し、いつもと同じように食堂に向かっていると、その道中でルナマリアさんが待ち構えていた。

いや、偶然会ったとかではない。廊下の真ん中でこちらをジッと見ている。

「おや? これは、ミヤマ様、おはようございます。こんなところで会うなんて『偶然』ですね」

「いや、明らかに故意ですよね? 待ち構えてたじゃないですか……」

「ははは、また御冗談を……」

なんだ? 今度はいったいどんな悪だくみをしてるんだ? 笑顔が胡散臭い。

「……それで、なにか俺に用事でもあるんですか?」

「流石はミヤマ様、話が早い。彗眼にこのルナマリア、感服いたしました」

いけしゃあしゃあと……ああ、なんか不安になってきた。いったいどんな無茶振りをするつもりなんだろうか?

ロクなことになりそうにないと、ルナマリアさんへの厚い信頼からか、心が叫んでいる。

「……実は、ミヤマ様に折り入ってお願いがあるのですが……」

ほらきた。また面倒なことを……。

「私の母を、六王祭での同行者に選んでいただきたいのですが……」

「……うん?」

あれ? 思ってたのと違う。俺はまたてっきり、リリアさんの機嫌をとって欲しいとか、リリアさんに謝りに行くのに付いて来て欲しいとか、そんなお願いだと思っていた。

しかし、ルナマリアさんの口からでたのは、ノアさんに関するものだった。

「……同行者って言うと、アレですよね? 事前に申請して連れていく」

「はい。ミヤマ様も覚えているとは思いますが、招待状のランクによって同行者の行動範囲にも制限がかかるんです」

「……ええ、そう言ってましたね」

たしかルナマリアさんの持っているアイアンランクの招待状は、同行者は一名までで、行動範囲についてもかなり制限がかかるみたいなことを、説明に来た猫耳の魔族……キャラウェイさんが言ってたっけ?

なるほど、それだとノアさんが自由に行動しにくくなるので、俺の同行者として申請して欲しいってことか。

俺の持つブラックランクの招待状は、同行者は何人でも連れて行けるし、行動範囲の制限もない。

ルナマリアさんにしてみれば、自分が同行者として申請するより俺に頼んだ方がノアさんのためになるってことだろう。

「……ええ、勿論構いませんよ」

「ありがとうございます!」

「丁度俺も、そろそろ同行者の申請を行おうと思ってましたから……」

綺麗な角度で頭を下げるルナマリアさんに、気にしなくても大丈夫と伝える。決して、先程までまた悪さしたんだろうと疑ってたことが、後ろめたいとかそういうわけではない。

ルナマリアさんは俺の返答に何度もお礼を言ってから去って行き、残された俺はふと顎に手を当てて考える。

しかし、うん。同行者か……確かにそろそろある程度決めてしまった方がいい気がする。

アニマ、イータ、シータはもちろんとして、リリアさんの屋敷で仲の良い使用人さんを何人か誘うとして、問題はリリアさんの屋敷以外の人だ。

リリアさんの屋敷以外での俺の知り合いだと、ほとんど招待を受けていそうではある。

オーキッドもライズさんも間違いなく招待されてるだろうし、ノアさんはルナマリアさん経由で誘う。レイさんとフィアさんは……ジークさんが誘うのかな? それなら俺の招待状の方で同行者申請しようかと、提案してみることにしよう。

後は……あっ、そうだ! フィーア先生がいるじゃないか!?

なんだかんだで結構あってるし、お茶をいただいたりお世話にもなってる。

もしかしたら医者の仕事が忙しいと断られるかもしれないが、その時はその時……まずは誘ってみることにしよう。

まだ時間は少し早いく、お昼ぐらいになってから一度診療所の方に行ってみることに決め、俺は食堂に向けて歩きだした。

……エデンさんはどうしよう? 招待されていそうな気もするし、されてなさそうな気もする……一応誘ってみようかな? でも、エデンさんと一対一で会うのは、なんか怖い。よし、今度クロに頼んで遠回しに連絡してもらおう。

お昼時から少し時間をずらして診療所を訪れると、フィーア先生がいつもの優しい笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃい、ミヤマくん。どうしたの? 今日はノアさんの治療の日じゃ無かったと思うけど?」

「こんにちは……いえ、今日はフィーア先生に用事がありまして」

「私に?」

「ええ、いまお時間大丈夫ですか?」

フィーア先生が六王祭について知らない可能性もあるので、少し長めに時間が取れるかどうかを尋ねる。

するとフィーア先生は、テーブルの上に置いていた手帳をパラパラとめくる。

「……うん。大丈夫だよ。今日の午後は訪問診療もないからね」

「そうですか、じゃあ……」

「折角だしお茶でも飲みながら話そうよ。以前治療した患者さんから、美味しいクッキーを貰ったんだ」

そう言って微笑みながら、フィーア先生は俺を診療所に隣接した居住スペースへ案内してくれる。

うん、少なくともこうしてキッチンに通してもらえるぐらいは仲良くしてもらってるし、誘うのは可笑しなことじゃないだろう。

そんなことを考えつつ、フィーア先生に促されて椅子に座る。

「……それで? 話って、なにかな?」

「ええ、実は……」

ハーブティーを淹れる準備をしながら告げられた言葉を聞き、丁度いいパスだったので俺は本題を伝えようとしたが……そのタイミングで、なにやら慌ただしい足音が聞こえてきたので、話しかけた口を閉ざして音の聞こえる方を振り返る。

すると、キッチンの扉が勢いよく開かれ、見覚えのある人が現れた。

「フィーア! 遊びに来ましたよ! 見てください、すごく美味しい羊羹が手に……入っ……て……え?」

「……え、えっと、こんにちは……ノインさん」

「……カイトさん?」

「え、ええ」

満面の笑顔で現れたノインさんは、直後に俺の姿を見て硬直し、徐々に顔を青くしていった。

そして、壊れたブリキ人形みたいな動きで体を動かし、部屋の隅に移動して……膝を抱えて座り込んでしまった。

「……もう、お嫁にいけない……」

「……」

テンションの下がり幅が凄過ぎて、咄嗟に反応出来なかった!? な、なんか滅茶苦茶落ち込んでる。

すると、そんなノインさんの元にフィーア先生が近付き、苦笑を浮かべて声をかける。

「ヒカ……ノイン。なに来るなり、唐突にへこんでるの?」

「……カイトさんに、お淑やかじゃないところを見られました……もう……お嫁にいけません」

「……」

いや、ノインさんには悪いけど……それいまさらですからね? ファーストコンタクトの時点で、ドラゴン担いで現れてますからね貴女……。

「……あれ? というか、ノインさんとフィーア先生って、知り合いなんですか?」

「あ、あぁ、うん。結構長い付き合いだよ。ヒカリとは」

「え? いま、ヒカリって?」

「あっ……いや、その……」

フィーア先生の口から出たノインさんの本名……それはつまり、フィーア先生はノインさんが初代勇者だって知ってるってことだろう。でも、なんで慌ててるんだ?

「……あっ、そうか! 大丈夫ですよ。俺もノインさんの正体については知っています」

「へ? あ、あぁ、そうなんだ……よかった。安心したよ」

なるほど、初代勇者が生きてたってことを俺に知られたと思って慌ててたのか。

「それにしても、ノインさんの正体を知ってるってことは……フィーア先生って、もしかして……」

「ッ!?」

「か、カイトさん!?」

「……勇者時代のノインさんを手助けしたりしたんですか?」

「……」

「……」

「え? どうしました?」

「いや、なんでもないよ」

「ええ、カイトさんの予想通り、勇者時代にフィーアにはとてもお世話になりまして、その縁でいまも友人同士です」

あれ? なんだろうこれ? ノインさんもフィーア先生も、表情や声の感じはごく普通だ。

だけど、感応魔法で伝わってくる感情には、強い焦りが感じられた。それも、二人共から……。

妙な引っ掛かりを覚えつつも、特に追及する理由もなかったので、俺は納得したという風に頷いた。

拝啓、母さん、父さん――フィーア先生を勇者祭に誘いに訪れたんだけど、そこでノインさんとも遭遇した。二人は友人同士みたいだけど、変な感じだ。そう、なにか――重大な秘密を隠しているような……。