軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

少しでも皆にお礼が出来たら良いなぁ

風の月2日目。リリアさんの誕生日まで一週間を切りつつも、目的の材料は全て集まった。

魔水晶はあまり純度の高いものでなくても大丈夫という事だったので、ミッドナイトクリスタルの色と合わせて青系の色をした物を購入した。

そして全ての材料が揃った俺は、作業の場となるアリスの雑貨屋に来ていた。

「ようこそ、カイトさん!」

「……」

雑貨屋の扉を開けてすぐ出迎えてくれた猫の着ぐるみを見て、殆ど条件反射的に扉を閉めた。

うん……久々に見たけど、インパクトあるなぁあの着ぐるみ。

「なんで閉めるんすか!?」

「いや、なんとなく……というか、久々に見たよその着ぐるみ」

「あ~まぁ、私は『分体』っすからね~店主の格好してる訳ですよ」

「……その着ぐるみが店主の格好っていう件に関しては突っ込みたいけど……その前に、分体って、前に聞いた分身の事?」

「そうですよ~本体のアリスちゃんはこっちです!」

「うぉっ!?」

分体という言葉を聞いて尋ねてみると、直後に後方から声が聞こえ、オペラマスクを付けたアリスが現れる。

マジで驚いた……事前に聞いてはいたけど、こうして本当に二人アリスが居るのを見ると、なんというか圧巻だ。

「着ぐるみの私! アリスちゃんが、店番をして!」

「本物の私! アリスちゃんが、護衛をしてます!」

「「二人合わさると、パーフェクトアリスちゃんです!! まぁ、別に客なんて来ないんすけどねぇ~」」

「凄いな……二人に増えて、ウザさが二倍……なんのお得感もない。馬鹿が二人に増えても大馬鹿になるだけってのを実感した……」

「「……カイトさん、それ、せめて、心の声で言ってくれないっすか?」」

ある意味安定のアリスに突っ込みを入れた後、普段は立ち入らないカウンターの奥……工房に案内してもらった。

着ぐるみアリスは店番で残り、オペラマスクアリス……本体が案内してくれる。

「お、おぉ……」

「どうですか? ここが、私の自慢の工房です!」

「す、凄いけど……明らかに部屋の広さと外観が合ってなくないか?」

「空間魔法で拡張してますからね~」

「成程」

アリスが案内してくれた工房には、鍛冶屋にあるような窯などを初め、布を作る道具、細かな細工をする台や拡大用のレンズといった具合に……ここで作れないものなんてないんじゃないかと思う程の設備が揃っていた。

「それじゃあ、さっそくですけど始めましょう……まずは、木材から作っちゃいますかね」

「う、うん。よろしく」

世界樹の枝を木材に変える作業に関しては、素人の俺では難しいという事でアリスがしてくれる事になっている。

アリスが凄いというのは分かっているつもりだが……やはり一日かけ、オリハルコンのノコギリを10本使って切り落とした枝を簡単に加工できるイメージが湧かない。

やや戸惑いながら俺がマジックボックスから世界樹の枝を取り出すと。アリスはそれを受け取り、腰のホルダーからナイフを一本抜き、それを一閃……直後に世界樹の枝は見事な木材へと変わった。えぇぇぇぇ!?

ちょ、い、今一体何を!? アリスがナイフ振ったと思ったら、大きな枝が細かい木材に……しかもまるでヤスリで磨いたかのようにツルツルの状態で目の前に現れた。

「ほい、完成ですよ~一応デザインに合わせて切り込みも入れてあるので、組み合わせるだけでおっけ~です」

「……あ、ありがとう……」

絶技とすら言えるアリスの技に圧倒されながら呟くと、アリスは特に気にした様子もなく作業台の方に移動する。

そしていくつかのレンズを取り出してセットし、細かな作業を行えるように調整してから振り向く。

「では、カイトさんには一番時間のかかる宝石の細工をしてもらいましょうか……下書きは私がしますので、カイトさんはそれを……このナイフで削ってください」

「わ、分かった」

そう言ってアリスが手渡してきたのは、彫刻刀よりやや細いぐらいの細長いナイフであり、宝石の表面に模様を掘る作業の為に用意してくれた物らしい。

なんでも、マグナウェルさんの牙の欠片で出来ているらしく、固い宝石でも簡単に加工が出来るらしい。

なんか既にこのナイフの方がよっぽど高価な気がするんだけど……まぁ、それは置いておいて、ある意味一番の山場とも言える作業に手をつける。

これがまた思った以上に難しい……ミッドナイトクリスタルの大きさは精々半径数センチで、そこに複雑な模様を描こうと思うと、いくらアリスが下書きをしてくれていてなぞるだけとはいえ、思うように進んでくれない。

少し削っては確かめ、また少し削っては確かめ……失敗したら表面をアリスに削ってもらって、再度一からやり直し……コレはキツイ。

集中して手を動かすのもそうだが、レンズ越しにジッと見つめている目の疲労もかなりのもの……コレは、完成まで結構時間がかかりそうだ。

「カイトさん、カイトさ~ん」

「……え? なに?」

「もう20時っすけど、帰らなくて大丈夫ですか?」

「えぇ!? もう、そんな時間!?」

アリスに声を掛けられて慌てて懐中時計を取り出すと……確かにいつの間にか、すっかり夜と言っていい時間になってしまっていた。

しかも途中三度ほど失敗して一からやり直したので、まだ半分も進んでないという体たらく。

「私としては全然お泊まりOKですし、バッチコイですけど……リリア公爵が心配するでしょうし、帰った方がいいのでは? 続きは明日またやればいいっすよ」

「うん。そうだな……ありがとうアリス。それじゃあ、また明日来るよ」

「了解ですよ」

アリスの助言に従い、作業はここで切り上げる事にして、アリスにもう一度お礼を言ってから、俺は転移魔法の魔法具を起動させて屋敷に戻った。

まぁ、尤も……雑貨屋での作業はここで切り上げたけど、今日の作業はまだ終わってない訳なんだけど……

「……えっと、ここがドだから、術式は……」

「あっ、カイトくん。そこは曲の速さが変わる場所だから、先に調整用の術式を……」

「そうか……えぇっと、早くする術式は……」

クロに作ってもらった術式早見表を参考にしながら、魔水晶に一つずつ術式を書き込んでいく。

確かにクロの言っていた通り、オルゴールを作る為の術式は非常に単純で、俺でも十分書き込みはできる……が、音符単位での書き込みになる為、一音、一音順番に書き込まなければならない。

なんというか……やった事はないけど、感覚としては編み物に近いかもしれない。

術式をいくつも重ねて最終的にまとめ上げる感じで、単純作業ではあるが非常に時間がかかる。

「……むぅ、ふぁ……」

「カイトくん? 大丈夫?」

「う、うん……流石にちょっと、目が疲れてきたかな……」

「無理しちゃ駄目だよ。今のペースなら十分間に合うから、今日はこの辺にしておこうよ」

心配するように優しい声で話しかけてくるクロの言葉を聞き、俺は一度頷いて作業を中断する事にした。

そのまま少しクロとベビーカステラをつまみつつ雑談を交わし、俺がベッドに横になるのを確認するとクロは俺の頬に軽くキスをして帰っていった。

頬に残る幸せな感触に顔が緩むのを自覚しつつ、俺は目を閉じ……30分ほどしてから、目を開いて体を起こす。

そしてテーブルの上に置いてある簡易照明の魔法具に手をかざして灯りをつけ、再び魔水晶に術式を書き込み始めた。

このままのペースなら間に合う……確かにクロの言葉通り、今のペースでもリリアさんの誕生日には十分間に合うだろう。

ただし、それはあくまでリリアさんにプレゼントする分だけ……

実は俺は今回の件で協力してくれたクロとアイシスさん、ジークさんにアリス、そしてリリウッドさん……その5人の分も『曲とデザインを変えた』オルゴールを作ろうとしていた。

ちなみにこの事を知っているのは、曲とデザインを相談したアリスだけ……

勿論こちらは誕生日プレゼントという訳では無いので、時間に制限がある訳ではないが……後回しにしてしまうと、どうせずるずる引き延ばしてしまうだけだと思う。だから同時進行で作っていく事にした。

ただし、人間である俺にとって一日に使える時間は限られている……特に睡眠をとらなければ、作業自体に大きな影響が出てしまうだろう。

だが、しかし、今の俺にはそれを解決する術があった。

作業を進めつつ、俺はマジックボックスから『世界樹の果実』を取り出してかぶりつく。

コレはリリウッドさんが、流通を制限している為余っているからと大量にくれたもので、貰った時にはどうしようかと悩んでしまい、今の今まで勿体なさもあって使えなかった。

しかし、普通に寝て起きて作業では時間が足りない現状……勿体ないとか言ってられないので、ありがたく使わせてもらう事にした。

世界樹の果実を食べ終わるとほぼ同時に、体に活力がみなぎり、重かった体が羽のように軽くなる。

流石はどんな傷でも癒すと言われる伝説の果実……魔力まで完全に回復したのは嬉しい誤算だ。

「……ふぁっ……」

ただし、残念ながら眠気までは消えてくれないみたいだ。体は元気なのに眠い……奇妙な感覚だが、疲労だけ一気に消えるという状況の方がおかしいので、俺の体の反応はある意味正常と言えるかもしれない。

ともかく、ここからは睡魔との戦い……根性の勝負だ。

体力は尽きない……でも眠い……しかし頑張るしかない。

拝啓、母さん、父さん――この世界に来てから、本当に多くの人にお世話になっていて、日々を過ごす度に感謝の気持ちはどんどん大きくなっていく。折角の機会な訳だし、ここでしっかり頑張って――少しでも皆にお礼が出来たら良いなぁ。