軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シックスセンスを獲得した……気がする

月が変わり風の月1日目。アルベルト公爵家の執務室では、当主であるリリアがなにやらソワソワと落ち着かない様子で書類を処理していた。

リリアは紛れもない才女であり、書類仕事も並の文官より遥かに早く処理してしまう……が、今日の彼女は普段とは違い、心ここにあらずといった感じで、あまり書類が進んではいなかった。

「……お嬢様? 先程から、なにをソワソワとしていらっしゃるのですか?」

「体調が悪い……という訳ではなさそうですね」

リリア付きのメイドであるルナマリアと、偶々別件で部屋を訪れていたジークリンデは様子のおかしいリリアを心配するように声をかける。

リリアは以前快人と出かけたパーティーの一件から、多少様子がおかしかったが、それでも普段の仕事に差し障りはなかった……しかし今日は明らかに、動揺している感じがした。

二人の言葉を聞いたリリアは一端書類仕事を止め、大きく溜息を吐きながら心配いそうな表情で呟く。

「……今朝、カイトさんを見かけたんですが……なにやら、凄く疲れてるみたいに見えて……も、もしかしたら、どこか体調が悪いんじゃないでしょうか!?」

「「……」」

「お、思えばこの世界はカイトさんの居た世界と環境が違う訳ですし……知らず知らずの内に疲労を貯め込んでいたんじゃ……」

「「……はぁ」」

「……え?」

落ち着かない様子で話すリリアを見て、ルナマリアとジークリンデは大きく溜息を吐く。

そして呆れた表情を浮かべながら、ジークリンデがリリアに声をかける。

「そんなに心配なら、直接聞けばいいのでは?」

「うっ!? そ、それはその……」

「……あぁ、もしかしたらお嬢様が冷たい態度を取るから、ミヤマ様は落ち込んで体調を崩してしまっているのやもしれませんね。お可哀そうに」

「そ、そんな! 私は別に冷たい態度なんて……ただ、その……えっと……わ、私のせい……なんでしょうか?」

続けてルナマリアが告げた言葉を聞き、リリアは慌てた様子で否定しようとするが……否定しきれなかったのか、だんだんと声が小さくなり、最後には不安そうな表情を浮かべる。

「リリのせいかどうかまでは知りませんが……最近カイトさんを避けているのは事実ですよね?」

「ち、違うんです……あ、あれば、別に……さ、避けてるとかじゃ……」

「全く、キスの一つや二つ、いつまで引きずってるのやら……気まずいのは分かりますが、そんなの適当に取り繕ってしまえば良いでしょうに……」

「そ、それはその通りなんですが……って、ルナ!? なんでそれを!?」

淡々と告げる二人の言葉を聞き、リリアはバツが悪そうに小さくなっていたが……キスをした事をルナマリアの口から聞いて真っ赤な顔に変わる。

「なんでもなにも、今さらですよ……婚約者でもないのに、同じ男性と続けて三曲踊った癖に……」

「ち、ちがうんです……ああ、あれは、出口に行く為に……」

「ともかく、取り繕うにせよ素直になるにせよ。子供のように逃げていないで、ミヤマ様と会話の一つでもして下さい」

「……うっ……が、頑張ります」

ルナマリアの言葉を聞いてしゅんと肩を落とすリリアを見て、二人は苦笑を浮かべた。

そしてジークリンデは仕事に戻り、ルナマリアはリリアに紅茶を淹れる為に退室し、部屋に一人残されたリリアは、頬を微かに赤く染めながら窓に視線を移す。

「……い、言えない……本当の事なんて……」

実はリリアは、あの件の翌日ルナマリアが告げた内容に近い行動を取ろうとした。

というのも、普段通りに快人と接する事でその一件を無かった事にしようとした……自分が普段通りに振舞っていれば、快人の方も変に蒸し返したりはしないだろうと……しかし、それは実行出来なかった。

なぜなら、翌日普段通りに快人と言葉を交わそうとしたリリアに、予想外の事態が訪れてしまったから……

「……あの日以降、カイトさんが以前にもまして素敵に見えて……まともに顔が見れないなんて……」

そう、実はリリアはあの件が気まずくて快人を避けていた訳では無く、単純にあの日以降自覚した快人への恋心に戸惑っていただけだった。

あの日以降無意識に快人を目で追ってしまう、快人の仕草一つ一つに胸が高鳴ってしまう、以前にもまして快人の姿を探すようになってしまった。

「……実はカイトさんの事避けるどころか、頻繁に様子を見に行ってるとか……避けたんじゃなくて、見つめてたのがバレたと思って逃げたなんて……今さら言えない……」

全身筋肉痛で重い体を引きずるように動かしながら、俺はクロと一緒にある場所を目指していた。

リリアさんに贈るオルゴールの材料は、殆ど集まり、今日は魔法具にとって一番重要な魔水晶を求めてここ……魔界のとある街へやってきていた。

最初は魔水晶も自分で採ってこようとしたんだけど、魔水晶の採掘はそれなりに技術が必要らしく、素人では難しいらしいので、素直に買う事にした。

「……けど、凄い街だなぁ。特にあのでっかい城とか……」

「この街は、一応魔界でも最大級の大きさだからね~」

クロが連れてきてくれたのは、セーディッチ魔法具商会の本部がある街。世界最大の商会の本部がある街だから、大きな街だとは予想出来ていたが……まさかシンフォニア王国の王城の数倍はあろうかという巨大な城が建っているとは思わなかった。

「あれ? でも……確か、魔界には国はないんじゃなかったっけ?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、あの城は?」

「あ~え~と……」

確か俺の聞いた話では、魔界には国というものは存在せず、あちこちに大小様々な街や集落があるのみって話だったと思うけど……ここはどう見ても王都って感じだ。まぁ、城があるからそう感じるだけなんだろうけど……

そう思いつつも、確認の為にクロに尋ねてみると……クロはどこか歯切れの悪い感じで頭をかく。

「……あれ、ボクのうち……」

「えぇぇぇ!?」

なんと、あの巨大な城はクロの家らしい……な、成程、そう言われてみれば、クロは魔界の頂点である六王で、しかも世界一のお金持ち。大きな城に住んでいてもおかしくはない。

「……いや、ボクはあんなの必要ないって言ったんだよ……でも、アインとか皆が、勝手に建てちゃって……」

「成程……だから、俺がクロの家に行きたいって言うと微妙そうな顔してたのか……」

「うん。だってあんな大きなお城、恥ずかしいよ……」

困ったような表情で照れるクロを見て、新鮮な可愛らしさを感じつつ、他にも色々な雑談を交えながら楽しく歩いて行くと、これはまた大きくて目を引く建物が見えてきた。

どうやらここがセーディッチ魔法具商会の本部らしい。

するとそこでクロは一度立ち止まり、黒いメッセージカードを取り出して俺に渡す。

「これ、紹介状ね」

「ありがとう……確か、あまり純度は高くなくて良いんだっけ?」

「うん。オルゴールの魔法具は消費魔力も少ないから、あまり良いのを買っても意味無いからね」

「分かった」

今回は事前にクロに自分一人で買い物をしたいと伝えていて、クロもそれを了承してくれた。

というのも、正直……クロが一緒だと、事あるごとに意見を求めてしまいそうだから……俺もクロに教わったお陰で、ある程度は魔水晶の見分けも出来るようになったので、出来るなら自分で選んで買いたい。

後実はこっそり、クロ達他の恋人の分も用意しようとしてるので、ばれないようにする為でもある。

「じゃあ、カイトくんが買い物してる間に……ボクは新作のベビーカステラ作ってくるね!」

「ッ!?」

クロとはこの世界に来てから、殆ど毎晩会って話をしている。間違いなく俺がこの世界で一番多く言葉を交わしている存在で、最も多くの時間を共に過ごした相手だ。

そんなクロはベビーカステラが大好きで、毎晩のように違う味のベビーカステラを用意してきていて、俺が食べたベビーカステラの数もとんでもない事になっている。

そして、いつからだろうか……俺はこの世界での日々を経て、ある特殊能力に目覚めてしまった。

その能力とは……なんと限定的な未来予知! 超直感と言っても良いだろう……映画などでシックスセンスと呼ばれるであろう能力だ。

我ながら恐ろしい能力を得てしまったと戦慄する。

「……クロ、待った!」

「へ?」

「今回は何を使って作るつもりなんだ?」

「……え? カイトくんの世界にある『タバスコ』ってやつ」

「絶対止めて! 他のにして!」

「え? う、うん……カイトくんがそこまで言うなら……」

そう、俺の得た予知能力とは……『クロの作る新作ベビーカステラが、意外と美味しい系かゲテモノ系か察知できる』というものだ。

コレは数多の経験により培われた能力だ。何度も地獄を見た結果、危機的状況を避けるために直感が進化した。

本当にクロは、事前に止めないとてりやきソースをなみなみと注ぎこんだ物とか、マヨネーズ山ほど入れた物とか……そんなとんでもないものも平気で作ってくるから恐ろしい。

実際初めの数ヶ月は、毎日ロシアンルーレットをやらされている気分だったが……この能力を得たおかげで、三回に一回は回避できるようになった!

うん、だってしょうがないじゃないか……二種類作ってくる事とか、クロが内緒って教えてくれない事があるんだもん……全部は回避出来ねぇよ。

拝啓、母さん、父さん――人間とは危機に遭遇する事によってそれまでの殻を破り、進化する生き物だと思う。俺もこの世界に数々の修羅場……新味の実験に付き合った結果、俺は――シックスセンスを獲得した……気がする。