軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幸せな気持ちばかりが大きくなった

風の月5日目……今日で3日完徹となったが、体は世界樹の果実のお陰で元気だし、眠気もあくまで精神的な疲労からのものなので……気合いでどうにかなった。

気を抜いたら寝てしまいそうになるのは問題だが……うん、気を抜かなければいい。集中力を維持し続ければ問題無い! うん? 流石にちょっとハイになってるかもしれない。

とまぁ、そんな感じで作業を進めていた訳だが……世の中はそんなに甘くない。

気合いと根性でこの難局を乗り切ろうとしていた俺は、ここに来てかつてないほどの恐怖を感じて、住み慣れた自室の床に正座していた。

「……カイトくん。ボクがなんで怒ってるか分かる?」

「……ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないよね? ボクは、なんで怒ってるか分かるかって聞いてるんだよ?」

「ひぃ……」

俺の前には現在修羅……もとい、かつてない程怒っているクロが居る。

腕を組み、穏やかな声で諭すように語りかけてくるクロだが……目が完全に座っている。ハッキリ言って、滅茶苦茶怖い。

事の発端は、今日も術式の監修に来たクロが、現在の俺の状況を知ったところから始まる。

俺としては上手く誤魔化しているつもりだったが、クロの目は欺けなかったみたいで、問い詰められ徹夜している事を白状した結果……こうなった。

うん、完全に自業自得だけど……こ、この状況は本当に恐ろしすぎる。なんかクロの体から黒色の霧が溢れてるし、本気で怒っているのがひしひしと伝わってくる。

「……そ、それは、俺が徹夜してたから……です」

「うん。そうだね。『ボクに黙って、三日も』徹夜してたんだよね?」

「……は、はは、はい!」

あまりの恐怖に敬語になりながら言葉を返す俺に、クロは全く笑っていない目を向けながら口元だけに微笑みを浮かべる……超怖い。

「ボク、言ったよね? 無理しちゃ駄目だって……ちゃんと、言ったよね?」

「は、はい。言いました……」

「カイトくんも分かったって言ったよね? ちゃんと寝るって返事……したよね?」

「……しました」

「……強制的に眠らせた方がいいのかな?」

「ひっ!?」

カタカタと体が震え、滝のように汗を流しながら俯く俺を見て、クロはしばらく沈黙する。

針のむしろのような緊張感に包まれながら、死刑宣告を待つ囚人のようにクロの言葉を待っていると……クロは、大きく溜息を吐いた。

「……はぁ、もぅ、本当にカイトくんは……」

「く、クロ?」

「ちゃんと今のペースでも間に合うって言ったよね? なのに何でこんな無茶しちゃうかなぁ……」

「そ、それはその……」

先程までの背筋が凍りつくような声では無く、呆れた声色で告げてくるクロ。

どうやら少しは怒りが収まったみたいで、恐る恐る顔をあげると……完全に座っていた目も、いくらか穏やかに変わっていた。

「……世界樹の果実で体力は回復しても、心の疲れまではとれないんだよ?」

「……はい」

「ちゃんと説明してくれるんだよね? なんでこんな無茶したか……」

「う、うん」

出来ればサプライズ的な感じにしたかったが、流石にここまで来ると言わない訳にもいかない。

現にクロが本気で怒る程心配をかけてしまった訳だし、久々ながら集中すると周りが見えなくなる悪い癖が出たみたいだ。

それに関しては反省して今後に生かすとして、まずはクロにちゃんと事情を説明しよう。

「……実は、リリアさんへのプレゼント以外に、クロやアイシスさん、この作業を手伝ってくれた人達にもプレゼントしたいなぁって、数を増やして……」

「……へ?」

「全部曲とかデザインも変えてたから、時間が足りなくなっちゃって……後回しにしちゃうのも嫌で、それなら睡眠時間を削れば良いかなって……本当にごめん」

「……ボクに? プレゼント? オルゴールを?」

「う、うん……クロにもアイシスさん達にも、本当にお世話になってるし……折角の機会だから、ちゃんとお礼をしたくて……」

「……」

理由を正直に告げ、再び恐る恐るクロの顔をうかがうと……クロは、怒りと喜びが混ざったような複雑な表情を浮かべていた。

そのまま何度か口を開きかけて、上手く言葉にならなかったのか困った様子で沈黙し、再び口を開こうとして……それが何度か続いた後、クロは絞り出すように呟く。

「……ずるいよ……そんなの……もう、これ以上怒れなくなっちゃうじゃん……」

「……クロ?」

「あ~もうっ!」

「ッ!?」

どこかやけくそ気味に感じる声と共に、俺の手が引っ張られ、クロの膝に強制的に寝転がらされる。

「カイトくんの気持ちは嬉しいけど、それでカイトくんが無理して倒れちゃったりしたら元も子もないでしょ!」

「うぐっ……仰る通りです」

「……けど、まぁ……どうせなんだかんだで頑張っちゃうんだろうし……はぁ、もう、しょうがないなぁ……」

「え? こ、これは?」

クロは呆れた様子で、それでもどこかやさしい笑顔を浮かべ、膝枕をしている俺に手をかざす。

するとクロの手から淡い光が溢れ、それが俺の頭に触れると……次第に頭がすっきりしていき、眠気が薄まってくる。

「世界樹の果実じゃ精神的な疲労は癒せないけど、ボクはそういう精神干渉系の魔法も使えるからね」

「そ、そんな魔法が……」

「まぁ、カイトくんにはシロの祝福があって精神干渉系魔法は無効化しちゃうだろうし、かけられるのはボクだけだよ?」

精神的な疲労を癒す魔法……確かにクロなら使えてもおかしくは無い。

なんていうか、おでこに触れる手の感触と共に疲れが癒されていく感じで……凄く、心地良い。

「……とりあえず、今日からリリアちゃんの誕生日までは、ボクがこの魔法でサポートしてあげるよ」

「……え? い、いいの?」

「だって、どうせ放っておいても無茶するんだから……それならボクが見ておいた方が安心だしね」

「うぐっ」

反論の余地もない。まったくもってその通りである。

たぶんなんだかんだで、間に合わせようとしちゃうと思うし……うん、それも含めてクロにはお見通しみたいだ。

「だけど、こんなのは応急処置みたいなものだからね? 完全に全部癒し切れる訳じゃない……だから、約束して……リリアちゃんの誕生日が終わったら、最低でも三日はゆっくり休む事……分かった?」

「……うん。分かった」

「うん。よろしい」

俺が頷くと、クロは花が咲くような笑顔を浮かべてくれる。

その美しくも可愛らしい笑顔を見て、クロの優しさを感じ……心が温かな幸せに包まれていく。

そのままクロは優しく俺の頭を撫でながら、微笑みを浮かべて口を開く。

「……ねぇ、カイトくん。なにかほかにして欲しい事ある? なんでも言って……」

「えっと……」

その微笑みはまるで聖母のようで、見ているだけで幸せな気分になれたが……同時に、ある感情も渇き上がってきた。

クロを愛おしい、好きだって気持ちが溢れてきて……優しく促す言葉に背中を押され、それを静かに口にする。

「……キス、していい?」

「うん」

俺の要望を聞いたクロは、すぐに頷いてくれ、ゆっくり寝転がる俺に向かって顔を近づけてくる。

互いの吐息が顔にかかるほど近くになり、美しい金色の瞳に俺の目がハッキリと映る。

「……クロ」

「……カイトくん」

何かを確かめ合うように、一度お互いの名前を呼び合い……クロと俺の距離がゼロになった。

拝啓、母さん、父さん――集中してしまうと一直線になり過ぎるのは、昔からの悪い癖。結局クロに心配をかけちゃったし反省しなければいけないと思う。けど、情けない話だけど……こうやって心から俺を心配してくれるクロを見ていると、反省しなければいけないのに――幸せな気持ちばかりが大きくなった。