軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだ終わりでは無いみたいだ

突然だが人間は極度の緊張状態に陥ると、思考が超速回転する事があるらしい……これは防衛本能から来る行為であり、頭に血が上る感覚という表現通り、思考に膨大なエネルギーが使われ現状を打破する手段を模索する。

ただし思考速度が加速する事が、すなわち良い手段を思い付く事とイコールではない為、考えた結果なんの成果も得られない事だってある。

現状の俺が、正にそんな感じだった。

今俺は広い湯船に浸かっていて、緊張のあまり湯の中で正座なんて格好になっている。

しかし本来心地良い温度の筈の湯も、俺の体温が上がりまくっているからなのか少しぬるく感じる……いや、もう本当にいっぱいいっぱいとかそんなレベルじゃない。

「ふあぁ~気持ちいいねぇ~」

「……うん……あったかい」

無心だ。無心になれ……俺は岩だ。無機物だ。心を無にするんだ……

「むぅ……」

「……クロムエイナ?」

「やっぱり、アイシスの方が胸おっきい……」

「……そう? ……あまり……変わらないと……思う」

ッ!? やめて、やめて……なにお約束の胸の大きさ比べしてるの!?

しかも普通創作物だと、男湯と女湯が分かれてて壁を隔てて聞こえてきた声にドギマギする感じなのに、現在は二人共俺の目の前にいる。

「……でも……クロムエイナは……大きさ……好きに変えられる」

「う~ん、それはそうなんだけど、この姿が基本だからね。ほら、アイシスより少し小さいでしょ?」

「……うん……だけど……クロムエイナの胸……すべすべで柔らかい」

「あはは、アイシスのだってもちもちしてて、触ると気持ちいいよ」

前回も思ったが、この温泉が濁り湯で本当に良かったと思う……いや、本心を言うとちょっと惜しい気もするけど……

湯に浸かるクロとアイシスさんの姿は、本当に生唾ものと言うか、凄まじいが……特に危険なのがクロだ。

アイシスさんより動きが多く、ちょっと油断すると立ち上がったりしそうな気がする。

「……あれ? カイトくん?」

「……カイト……大丈夫?」

「へっ!? ああ、はい。えと、だだ、大丈夫です。気持ちいいですね! お、おお、温泉」

ずっと黙ったままだった俺を心配したのか二人が声をかけてきて、自分でも分かりやすいほどに緊張しながら言葉を返す。

「うん。広いお風呂って良いね……あっ! そうだ!」

クロはニコニコと笑顔で答えた後、なにか思い付いた様子で俺の方に近付いてくる。

なんだろう、物凄く嫌な予感がする……逃げないと大変な事になりそうだけど……下手に動くのもまずい気がする。

「よっと」

「ッ!? な、なな、なにを、くく、クロ!?」

「カイトくんにくっつくの、幸せ」

「~~!?」

クロは俺の近くまで来ると、自然な動きで俺の膝の上に座ってきた。

なんて事するんだコイツ!? ヤバいって、それは本当に不味いって!? あわわ、膝の上に、天国のような感触が……

今ほど、姿勢が正座で良かったと思った事はない……てか、正座を緩めると、完全に反応してる体の一部がクロに当たってしまうので、絶対に緩めるわけにはいかない。

「……クロムエイナ……ずるい」

「ッ!?」

ずるくない!? ずるくないですよ、アイシスさん!? やめて、やめて、無理だから……これ以上は本当に……

不穏な言葉と共に俺の方に近付いてくるアイシスさんに戦慄するが、膝の上にクロが乗っているので動けない。

心の中で叫ぶ思いもむなしく、アイシスさんはクロとは逆……俺の後方に回った後、手を俺の前に回して、背中にくっついてきた。

「!?!?」

「……本当だ……こうすると……凄く……幸せ」

「ね~」

なにこの物凄く幸せなサンドイッチ!? 殺しにきてる!? 完全に俺の理性を跡形もなく抹殺しにきてる!?

後ろからは俺の背中で潰れる双丘の感触、前からは膝の上で柔らかく形を変えるお尻の感触……精神をヤスリでガリガリ削られているどころか、巨大なハサミで真っ二つにされたような衝撃と共に、俺の頭は真っ白になった。

「あれ? カイトくん?」

「……カイト?」

「……………………」

意識が遠のいていくような感覚……先程までは嵐のように混乱していた思考が、静寂に包まれている。

成程……これが、悟りというやつ……いや、違うか……むしろ煩悩まみれである。

そんな事を考えながら、完全にオーバーヒートした俺は……気を失った。

「……うっ、うう……あれ? 俺……」

「あっ!? カイトくん! 良かった、気が付いたんだね」

少し肌寒い感じがして体を動かすと、心配した様子のクロの声が聞こえてきた。

ああ、そっか、俺気絶してたんだ……そんなに長い時間じゃない気がするけど……

「のぼせちゃったんだよね? ごめんね、気付かなくて」

「いや……俺どの位気絶してた?」

「え? いや、ほんの数分だよ。アイシスが飲み物取りに行ってくれてるよ」

「そっか、ごめ――ぶぅっ!?」

どうやら気絶は少しだけだったみたいだ。正確にはのぼせた訳では無く、あまりの緊張にオーバーヒートしただけだが、そこは黙っておこう俺の名誉のために……

クロとアイシスさんに介抱して貰った事を申し訳なく感じつつ、ゆっくりと目を開けて……思考が停止した。

どうやらほんの少しの間だった事もあって、浴場の外に出ている訳ではないみたいで……考えれば予想できたはずだった。

しかし気が付いたばかりでそこまで気が回らず、『現在の自分の体勢』をよく考えずに目を開いてしまった。

そして飛び込んできたのは、ホッとした様子のクロの顔と……何も隠されていない小さな双丘と、その頂点にある桜色の突起。

そう、現在俺は『全裸のクロ』に膝枕をされている状況だった。

混乱していた意識なんてのは一瞬で覚醒し、俺は大慌てで起き上がる。

「ごごご、ごめん!」

「大丈夫? もう少し横になってた方が……」

「だだ、大丈夫だから!!」

クロの膝から飛び起き、心臓があり得ない程大きくなるのを感じながら視線を逸らす。

脳裏には先程見たクロの姿が完全に焼きついていて、まともに思考が回らない。

「……あっ……カイト……良かった」

「ッ!?!?」

しかし、状況はどこまでも俺にとって好転してくれない。

視線を逸らした先、浴槽のドアがまるでタイミングを見計らったように開き、コップを持ったアイシスさんが現れた。

アイシスさんの性格上、俺が気絶して慌ててたのは間違いないだろう……それこそ体にタオルを巻く時間すら惜しんで、水を取りに行ってくれたんだろう。

そして、その結果が……『全裸のアイシスさん』を真正面から見てしまったという状況である。

「!?!? うっ!?」

「カイトくん!? 鼻血出てるよ!」

「……カイト!?」

あまりにも続けざまに発生した衝撃の展開に、ついに俺の頭は限界を迎えたらしく、通常ではありえない興奮と共に鮮血が鼻から落ちる。

興奮して鼻血出すって、俺は中学生か……女性の裸を初めて見た童貞の悲しさである。

「やっぱ、まだのぼせてるんだ……とりあえず治癒魔法で止めて、アイシス!」

「う、うん! ……ベッド……こっち」

「分かった!」

「ッ!?」

鼻血を出した俺を見て、クロとアイシスさんは慌てた様子で俺に駆け寄ってくる……あぁぁぁ!? 止めてえぇぇ!? もう限界とか色々超えちゃってるから!?

そしてクロが俺の顔に手をかざすと一瞬で血が止まり、アイシスさんが案内の為に身を翻したのと同時に、ひょいっと俺の体が片手で持ちあげられる。

というか、俺……60kg以上は余裕であるんだけど……さ、流石クロ……

な、なんか大事になってしまったが、幸いなのは……本当に幸いなのは……二人共俺がのぼせたと勘違いしてくれている事だろう。

二人の裸見て興奮して鼻血出しましたなんて知られたら、恥ずかしさで死ぬ所だった。

そんな事を考えながらも、極度に疲労した俺の頭は休息を求め……俺の意識は再び混濁と共に沈んでいった。

薄暗い部屋の中でゆっくりと目を開ける。どうやら今度は結構長い時間気絶していたみたいだ。

いや、まぁ、本当に情けない話ではあるが……ちょっと、女性経験ゼロの俺にはクロとアイシスさんという、とてつもない美少女二人は刺激が強すぎたみたいだ。

気絶した不甲斐なさを嘆くべきか、気絶した事で理性が崩壊して暴走したりしなくて良かったと安堵するべきか……ともあれ、何とか俺は人生最大の試練を乗り越えたみたいだ。

今俺が横になってるのはベッドだろうか? 少し喉が渇いた気もするし……起きて……あれ? なんか両手共に掴まれてる感じが……

「んゅぅ」

「……すぅ」

「……………………」

前言を撤回しよう。俺は試練を乗り越えてなどいなかった……まだ人生最大の試練は絶賛継続中だった。

拝啓、母さん、父さん――クロとアイシスさん、二人の恋人との混浴は、終始慌てっぱなしで大変だった。鼻血を流して気絶するという体たらくまであった訳だが、どうやら――まだ終わりでは無いみたいだ。