軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アリス誘って焼肉に行くんだ……

「……じゃあ、この物語に出てくる国は、魔界の都市がモデルなんですね」

「……うん……東部にある大きめの都市……魔力で発光する素材が多いから……夜の無い街って……呼ばれてる」

土の月8日目。はれてアイシスさんとも恋人同士になった俺は、さっそくアイシスさんの居城に遊びに来て、一緒に本を読んでいた。

やはり友人から恋人同士へと関係が発展した事もあり、俺の方にも気持ちに余裕が出てきたおかげで、以前より気軽にアイシスさんの所へ遊びに来れるようになった。

この感じなら、急な事にビックリしたり緊張したりという事も減り、落ち着いた対応を出来るようになってきそうだ……俺も、大人の色気ある男性へと変わり始めているという事……

「……カ~イト」

「うひゃぁっ!?」

「……だ、大丈夫?」

「はは、はい! だだ、大丈夫です」

……前言を撤回しよう。耳元で囁かれた甘い声色で一発で頭に血が上った……俺には大人の余裕というのは得られそうにない。

アイシスさんは恋人となった事で、より積極的にスキンシップを図ってくるようになっていて……つまるところ、より密着する機会が増えたというか、無防備に近い状態で接触してくるので、やたらと緊張する。

というか現在も……えっと、なんて言うべきか……二人で一つの毛布にくるまっているという、大変緊張する体勢だ。

「……カイト……寒くない?」

「はい。むしろ暖かいです……アイシスさんは?」

「……カイトが傍にいてくれるから……体だけじゃなくて……心も……暖かい」

事の発端は、アイシスさんが人間である俺を気遣って毛布を用意してくれたところからだ。

シロさんの祝福があるので、氷の城であっても凍てつくような寒さは感じず、せいぜい少し涼しいぐらいではあったが……折角の厚意を無下にする訳にもいかず、毛布を受け取った……までは良かったのだが……アイシスさんも当り前のように俺にピッタリと密着して同じ毛布にくるまった。

アイシスさんの体の温もりと、毛布自体の暖かさもあり、その上すぐ横にアイシスさんの顔があり、時折吐息が耳にかかっている状況……もうどれが原因で顔が熱くなっているかも分からない。

ただ、恥ずかしさは勿論あるが……それ以上に幸せも感じる。

なんて言えば良いのか、ハッキリと言葉にするのは難しいんだけど、心が深く通じ合っているような、特別な何かをする訳ではなく、ただ一緒にいるだけで溢れるほどの幸せに包まれている気がする。

アイシスさんの居城には、今回は一泊だけさせていただく事になった。

勿論健全な男の子としては、そういう……なんて言うか、アイシスさんの体を余すことなく味わえる……みたいな想像もしたが、それは必死に押し込めた。

いや、正直な話……たぶんアイシスさんは、そうなったとしても喜んで俺を受け入れてくれるとは思うんだけど……なんて言うか、俺の方のささやかな見栄というかそんな感じだ。

清く正しい付き合いこそ至上なんて言うつもりはないが、まだ付き合い始めて数日でそんな事になるのは早すぎる気がした。

アイシスさんに寿命は存在せず、既に彼女は何万年という時を生きているのもあってか……クロもそうだったが、彼女達の愛情は物凄く純粋で真っ直ぐと言える。

俺の事を心から肯定してくれて、共に時間を過ごす事を幸せに感じてくれる……だからだろうか、そういう方面に関しては、俺が望めば応えてくれるというスタンスであり、タイミングは俺次第といっても良い。

……なので正直な所、大変手が出しにくい。物凄く純粋な愛情なので、童貞の俺には事に及ぶタイミングが全く分からない。

早すぎてそれが目的のように思われるのも嫌だし、かといって延々と生殺し状態なのもきっと耐えられない……ままならないものである。

と、とりあえずはタイミング待ちといったところだろうか……たぶんそんな感じの雰囲気になれば、俺も自然と行動出来る筈……出来ると思う……出来ると、いいな……

「……カイト……はい」

「ありがとうございます」

「……美味しい?」

「はい。以前食べた時よりも、美味しいです」

若干悶々としていた思考を振り払い、手を添えて優しく差し出された料理を食べる。

例によって例の如く、今回もアイシスさんは料理を俺に食べさせてくれていて、恥ずかしく感じつつも幸せだ。

しかも料理の味も明らかに以前より洗練されており、基本的に食事を必要としないアイシスさんが、頑張って練習してくれたのだと思うと、涙が出てきそうな程嬉しい。

「……カイトが……喜んでくれるのが……一番……嬉しい」

「……アイシスさん」

「……カイトの好きな食べ物……好きなもの……もっと……教えて」

「はい」

クロのようにぐいぐいと引っ張ってくれるのとはまた違った、優しく尽くしてくれるアイシスさんの愛情。

なんというか、本当に俺は幸せものだと……実感した。

慣れない恋人という存在に戸惑いはあるが、それでもこうした幸せを感じながら……ゆっくりと学んでいければ……

「……カイト……お風呂……一緒にはいろ?」

「ぶっ!?」

しかし現実は非情であり、待ってなどくれなかった。

お風呂にはいる? アイシスさんと一緒に? 前回ですらいっぱいいっぱいで、理性がすり切れそうだったのに……恋人になった現在の状況で? ちょっとそれ、耐えられる自信ないんですが……

しかしここで断れば、アイシスさんに悲しい顔をさせてしまう。もうアイシスさんと恋人になった時点で……もとい、アイシスさんを好きになった時点でこの誘いを断るという選択肢は消失している。

「ボクも一緒にはいる!!」

「なぁっ!?」

「……クロムエイナ……いらっしゃい」

黒いコートを翻し、忽然と登場するクロ……い、いつの間に!?

重要な事なのでもう一度繰り返すが、現実は非情である。

アイシスさんだけでも、耐えられる自信など米粒ほども無い……なのにここでクロが加わる? なにそれ、死ねって事なの?

「アイシス、こんばんは……はいこれ、お土産」

「……ありがとう……クロムエイナも……一緒にお風呂……はいるの?」

「うん。そうしたいんだけど、駄目かな?」

「……ううん……クロムエイナも一緒……嬉しい……三人で……はいろ」

混乱している俺を置き去りにして、クロとアイシスさんは明るい表情で言葉を交わす。

「ねね、アイシス。一緒にカイトくんを洗ってあげようよ」

「……うん……一緒に……カイトの疲れ……癒す」

二人共凄い嬉しそうなんだけど!? もうこれ、断るとかできなくないか!?

生きていく以上、人生において艱難辛苦はつきものである……むしろ俺の悩みは贅沢と言えるだろう。

もういっそ開き直って手を出しちゃった方が楽なんじゃないかとすら思えてくるが……駄目だ。俺だけじゃなくクロとアイシスさんにとっても重要な行為、流されて行う訳になんていかない。

体が、震える……武者ぶるいというやつだろうか? 楽しげに話すクロとアイシスさんの前、浴室へと繋がる扉が、やけに重々しく見える……じょ、上等だ。の、乗り越えて見せようじゃないか、その試練を……

拝啓、母さん、父さん――アイシスさんの家に再び遊びに来て、またも理性を極限状態に追い込まれるであろう混浴が発生した。頑張ろう、頑張ってみせる。俺、このお泊まりが終わったら――アリス誘って焼肉に行くんだ……