軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幸せだ

一難去ってまた一難とはよく言ったもの……何というか、前後の幸せサンドイッチを体感したと思ったら、次は左右のサンドイッチだった。

うん、自分でもなに考えているのかよく分からないが、今がまずい状態だというのは分かる。

現在俺は大きめのベッドの中心に寝転がっている。風呂場で気絶したので裸かと心配したが、バスローブのような服を着ている感じでホッとした。

それは良いんだけど、現在俺の右手側にはクロが、左手側にはアイシスさんが……俺を挟むように寝ていて、二人共俺の腕を抱きしめている。

暗い部屋し少し目が慣れてから視線を動かすと、クロは大きめのシャツ一枚、アイシスさんはベビードールと……物凄く無防備かつ、扇情的な格好をしている。

うん……ヤバい、なんか意識し出すと、腕に感じる柔らかな感触もハッキリと感じてしまい、心臓がバクバクと大きな音を鳴らし始める。

クロの胸は大きさこそ控えめだが、心地良い弾力があり腕に胸の感触がハッキリと伝わってくる。

アイシスさんの方はクロより大きく、そして非常に柔らかく腕が餅に挟まれているような感覚……もう、本気でやばい。また鼻血でそう……

「……んゅ」

「っ!?」

現状でもとてつもなく緊張しているのに、追い打ちをかけるようにクロが寝がえりをして……片手を俺の体に伸ばしてきた。

そしてその手はバスローブの隙間から狙い澄ましたように入り込み、俺の腰付近……もといデンジャラスゾーンの付近に触れる。

やばい! やばいやばい!? ここ、これはちょっと……手をどかさないと……って、動かない!? なにこの力!? 寝てる筈なのに、ピクリとも動かせないんだけど!?

も、もうこれは起こすのは悪いなんて言ってられない。このままでは大変不健全な事になってしまう……クロを起こさないと……

「く、クロ……頼む、起きて……」

「んんっ……ふゅ……んにゃ? カイトくん~?」

「よ、良かった……ごめん、起しちゃ――ッ!?」

呼びかけながらクロに掴まれている手を動かすと、クロはゆっくり頭を振って目を開く。

それにホッとしたのも束の間……背筋に物凄い寒気が走り、とろんとしたクロの目を見て冷や汗が流れ始める。

それは言うならば危険予知とでも言うのだろうか……過去の経験から、俺の体は次に起こる事を察してしまった。

しかし逃げようにも、もう片方の腕にはアイシスさん抱きついており、動けない!?

そしてクロの手がおもむろに俺の首の後ろに伸ばされ……

「ちゅぅ……」

「んんっ!?」

「んちゅ……ちぅ……んぁっ……」

「~~!?」

押し当てられる唇、差し込まれ、俺の口内全てを味わうようにねっとりと縦横無尽に動く舌。

脳髄がとろけそうなほどに濃厚なディープキスから必死に逃れようとするが、俺の体は勿論ピクリとも動かない。

クロは普段眠らない……眠る必要が無い。しかし恋人同士になってから、俺と一緒には寝る事がある。

それは俺になら無防備と言える寝顔を見せても構わないという愛情表現でもあり、それはとてつもなく嬉しいのだが……クロは寝起きが物凄く悪い気がする。

具体的にこれは二度目だが、寝ぼけた状態で俺を発見すると、即座にキスに移行するらしく、一度目も今回も、俺は抵抗すら出来ずに熱烈な口付けを受ける事になった。

そもそも平均より非力と言っていい俺には、いくら寝ぼけているとはいえ世界最強と言っても過言ではないクロに抗える訳もなく、現に今だって首の後ろに回された手により完全に動きは封殺されている。

いや、ここはむしろ力加減が完璧なおかげで、俺の首が焼き菓子のようにへし折られないだけマシと思うべきだろうか……

「ちゅぅ……んっ……カイトくん……しゅきぃ……」

「!?!?!?」

「……うん? ……あれ? カイトくん?」

「……」

熱烈なキスと共に、甘くとろける声で好きだと囁かれ、もはや俺の思考は熱暴走寸前にまで押し上げられてしまった。

もうあと一押しで理性が粉々に崩壊し、クロに飛びついていたかと思えるタイミングで……クロは目を完全に開けて首を傾げる。

どうやら今回も、キスに関しては覚えていない様子だが、ともあれ俺の体は解放された……嬉しいような、残念なような……

「……クロムエイナだけ……ずるい」

「へ?」

「ふえ?」

な、なんだと……い、いい、今の声は、まさか……

理性を根こそぎ破壊しつくすようなクロのキスから解放されたかと思ったら、聞き覚えのある声がして……俺は壊れたブリキ人形のような動きで振り返る。

すると、いつの間に起きたのか……頬を微かに染め、期待するような視線を向けているアイシスさんがいた。

「……あ、ああ、アイシスさん!? ず、ずるいとは一体……」

「……私も……カイトと……キス……したい」

「~~!?」

あぁぁぁ!? やっぱ見てたあぁぁ!? いやいや、もう流石に無理ですよ!? 俺物凄く頑張ったよ、必死に耐えたよ!? ここで追加攻撃とか死んじゃうから!!

「……あ、いや、その、それは……」

「……カイトは……私とキスするの……嫌?」

「嫌じゃないです! むしろ嬉しいです!」

「……よかった」

駄目だこれ、拒否権ないやつだ!?

俺の告げた言葉を聞いたアイシスさんは、嬉しそうに目を細め、俺に顔を寄せてくる。

「……んっ……ちゅっ……」

「んッ!?」

「……ちゅぷっ……ちゅ……ぷぁ」

「~~!?!?」

甘い……口の中がひたすらに甘く暖かい……これもう、思考溶ける……馬鹿になる……

「いいなぁ……カイトくん、次ボクね!!」

「んんんっ!?!?」

次!? いやいや、クロは覚えてないかもしれないけど、さっきたっぷりしたからね!? まだ続けるの!? 無理、もう本当に無理だからぁぁぁ!?

「……はぁ……はぁ……」

「カイトくん? 大丈夫? 息苦しかった?」

「……い、いや……」

「……お水……飲む?」

「……だ、大丈夫……です」

……耐えた。俺は耐えきったぞ……あまりにも長く苦しい理性との戦いに打ち勝った。もう、俺が勇者で良いんじゃないかな? 俺、かつてないほど頑張ったよ……

まさかしっかり時間をかけて、関係を深めていくという誓いを守るのがこれほどまでに険しい道だとは思わなかった……もう、途中で何度諦めようと思ったか……

ともあれ人生最大とも言える試練を乗り越えた俺は、荒い息を整えながらベッドに横になる。

するとクロとアイシスさんも俺にならって寝転がり、少し穏やかな沈黙がおとずれた。

「……なんだろう……凄く……幸せ」

「……え?」

「アイシス?」

静寂の中でアイシスさんが小さな声で呟き、俺とクロはアイシスさんの方を向く。

するとアイシスさんは本当に心から幸せそうな笑顔を浮かべて、俺とクロを見つめる。

「……カイトがいて……クロムエイナも居て……一人ぼっちじゃなくて……心が……凄く……暖かい」

「そう言えば、友好条約が決まってから……ボクも忙しくて、アイシスの所にあまり遊びに来れて無かったね」

「……うん……カイトのお陰で……寂しくない……だから……嬉しい」

「うん……ボクも、同じ気持ちだよ。本当に、カイトくんにはいくら感謝しても足りないね」

とても穏やかな声で言葉を交わすクロとアイシスさん……それは形は違えど、孤独という感情に苦しみ合った二人だからこそ、今この時の幸せを実感してるみたいだった。

そんな二人の言葉を聞き、火照っていた俺の頭も少しだけ冷静さを取り戻し……俺はゆっくりと、クロとアイシスさんの肩に手を回し……二人を強く抱きしめた。

「っ!? カイトくん?」

「……カイト?」

「……約束する。俺はちっぽけな人間だけど……それでも、クロにもアイシスさんにも、一人ぼっちだなんて二度と思わせないって……今、この場で誓うよ」

「……カイトくん」

「……カイト」

決意を込めるように告げた俺の言葉を聞き、二人の体から力が抜け……俺に体重を預けてくる。

「……やっぱり、カイトくんはカッコいいね」

「……うん……カイト……素敵」

「ね、アイシス」

「……うん」

両サイドから俺に抱きつきながら、クロとアイシスさんは短く言葉を交わした後、スッと俺に身を寄せ……俺の両頬にキスをした。

「「愛してる」」

言葉を重ね、心からの想いだと感じられる声で伝えられた愛の言葉……それがじんわりと心に染みていく幸せを味わいながら、もう一度強く二人を大切にしようと誓った。

そしてクロとアイシスさんは目を閉じ、俺にしがみ付くような体勢のままで眠りにつく。

本当に俺は幸せ者だと思う……緊張とかも一杯したけど、今、この瞬間、二人と一緒で良かったと心から思う。

……よし、後は……このまま朝まで、俺が耐えるだけだ……

……結局一睡も出来なかった俺は、眠い目を擦りながらリリアさんの屋敷の前に転移魔法で戻ってきた。

幸せ疲れとはなんともぜいたくな響きだが……体の疲労が軽減される訳ではない。

「……あの? カイトさん? なにがあったんすか? 物凄く疲れた顔してますけど……」

「なにがあったって……アリス、見てなかったの?」

「いや、流石に私もそこまで無粋な事はしませんよ。クロさんとかアイシスさんといる時は、ちゃんと離れて魔力探知だけしてますから……」

「そっか……えっとまぁ、簡潔に話すと……」

珍しく心から心配そうな様子で話しかけてきたアリスに、なんだか心が休まる感覚を覚えつつ、かいつまんで事情を説明していく。

アリスは黙って俺の話を聞いていたが、しばらく経って納得した様子で頷いた。

「……成程、まぁクロさんもアイシスさんも、人間と違って種の保存に起因した本能みたいなのは無いっすからね。ある意味愛情は凄く純粋で真っ直ぐでしょうね」

「……うん、だから変に手を出せないというか……」

「いや、まぁ、それは別にいいんじゃないっすか? クロさんもアイシスさんも長く生きてますし、人間がそういう欲求を持ってるのだって知ってます。だから、カイトさんが望めば喜んで応じてくれますよ?」

「……いや、だからこそ、タイミングに迷うというか……」

「う~ん、カイトさんは優しいっすからね。まぁ、カイトさんの納得するタイミングが一番って事ですか……」

丸一日緊張しっぱなしだったせいか、アリスと話していると気楽で助かる。

ああ、そうだ……眠いのもあるけど、お腹もすいたし……折角だからアリスを誘って……

「……そうだアリス、話変わるけど……」

「はい?」

「今からちょっと、付き合ってくれない?」

「ふぁっ!? つ、つつ、付き合う!? かか、か、カイトさん!? いきなり何を……」

何故か俺の言葉を聞いて、慌て始めるアリス……気のせいか、頬がほんのり赤くなってる気がする。

「いや、アリスと話してると気が休まるから……」

「ふぇっ!? ま、まま、まさか……クロさん達に手を出せないから……代わりに私で!?」

「……うん?」

「い、いや、まぁ、確かに私は、えっと、その……『元人間』ですし、そ、そそ、そういうのに理解はあるほうですけど……」

……何言ってるんだコイツ? 話が訳の分からない方に脱線してる気が……

「ま、まぁ、わ、私、分身とか出来ますし……サイズとかも割と自在に変えられるので、た、多種多様なプレイにもお応え出来るとは思いますけど……わ、私にも心の準備ってものが……」

「……えっと……アリス?」

「ひゃいっ!? えっと、その、あっと、えっと……や、優しくしてください!!」

「……いや、ご飯食べにいかないかって誘ったつもりだったんだけど……」

「どうせそんなオチだろうと思いましたよっ! チクショウ!! してませんよ! 期待なんてしてねぇっすからね!!」

「……うん?」

「なんでもないです! こうなったら、やけ食いしますよ!!」

相変わらず良く分からないというか、何と言うか……まぁ、とりあえず食事の誘いは了承って事で良いのかな?

……ともかく、ある程度腹を膨らませたら、ゆっくり休む事にしよう。

拝啓、母さん、父さん――終始緊張しっぱなしで、何度も理性の限界を迎えかけたアイシスさんの家での宿泊も、何とか耐えきり帰ってきた。まぁ、色々疲れはしたけど、やっぱりなんだかんだで、凄く――幸せだ。