作品タイトル不明
薔薇姫の来訪⑤
ロズミエルさんからお礼の品を受け取ってそのまま紅茶を飲みながらの雑談に移行してもよかったのだが、その前に確認しておくことがあったのでネピュラを呼ぶことにした。
精霊であるネピュラは庭の世界樹が本体であるため、情報を共有しているのか精霊としての体が別のところにいたとしても世界樹に向かって手招きをすればそれで俺が呼んでいるということが分かるらしい。
……あっ、でも部屋の中で世界樹に向かって手招きしても来てくれるので、世界樹の方を向いて特定の動作さえすれば気付くのかも?
ともかく、手招きをすると家の中からネピュラが飛んできてくれた……例によってロズミエルさんは硬直したが。
「主様、お呼びですか?」
「うん。急にごめんね……この花の砂糖って、ネピュラが作ったんだよね?」
「はい! 妾が作りました。いかがでしたか?」
「凄かったよ。花びらが広がっていくみたいな感じも本当に綺麗だった……こんなのどうやったらできるの?」
明るい笑顔を浮かべるネピュラに、先ほどの花の砂糖について尋ねてみる。
「原理は実はとても簡単ですよ。通常の砂糖の他に魔界で作られている魔力糖という、特殊な製法で作られた砂糖を使って作りました」
「その魔力糖ってのは、普通の砂糖と違うの?」
「ほとんど違いはありませんね。少し甘みが上品ですが普通の砂糖よりやや値があるので若干高級志向といった感じですかね。ただ、普通の砂糖と魔力糖では液体に溶ける速度に少し違いがあるんです。なので、その差を利用してその砂糖を作りました」
「ふむふむ」
「花の中央部分を魔力糖にすることで、先に中央が溶けて花びらが分かれます。そして、花びら部分にも少量ですが魔力糖を使っていて、そこが溶けることで『重心がやや外側』になることで、カップに広がる……っていう単純なしかけです」
いや、サラッと言ってるけど、花びら部分の重心や溶け方まで計算して作ってることだよね? 滅茶苦茶凄いんだけど、ネピュラ的には本当にお遊びで作った感じなのか自慢するような雰囲気はまったく無い。
「……なるほど、ところでネピュラ? この砂糖ってまだ量があったりするかな? もし可能ならロズミエルさんにお土産として渡したいんだけど……」
「大丈夫ですよ。さすがに一般販売したりする程の量はありませんが、数に余裕はあります。ああ、でも『他の種類』もあるんですが……」
「え? 他にもあるの?」
「はい。妾が最初に作ったのはその花の砂糖ですが、そのあとでイルネスさんと一緒にアイディアを出し合って、他にも四種類ほど作りました。なので、いまは計五種類ありますね」
一種類ですら滅茶苦茶凄いのに、もうすでに五種類も作ってるって……すげぇな。
そんなことを考えていると、ネピュラはなにやら1~3の数字が書かれた紙を取り出し、それをロズミエルさんの方に向けた。
「ロズミエルさん、先ほどと同じで……砂糖ですが、アソートで用意する形で大丈夫ですか?」
「……」
「ああ、遠慮しなくても大丈夫ですよ。イルネスさんと張り切ってたくさん作ってしまったので、消費にはそれなりに時間がかかるなぁと思っていたところなので……はい。それでは、アソートでお帰りの際に用意して持ってきますね」
会話はしていないが、ネピュラとロズミエルさんの間では意思疎通ができているみたいだ。たぶん最初の案内の際にもそれで意思疎通をしたんだろうが、どういう仕組みだろう?
「ネピュラ、その紙は?」
「これはロズミエルさんの応対をする際に使ったもので、肯定なら1を否定なら2をそのどちらでもないなら3を見てもらって、目線の動きで意思を確認しています。ちなみに先ほどは、1と2の間を視線が行き来していたので、欲しくはあるけど遠慮しているという感じだと判断しました」
「あぁ、なるほど、その手があったか……」
正確に視線の動きを把握する必要があるとはいえ、固まっている状態のロズミエルさんと意思疎通できる方法があったとは……。
「そんな方法を咄嗟に思いつくなんて、やっぱりネピュラは凄いね」
「任せてください! 妾は、絶対者ですからね!!」
「ふふふ、そっか……それじゃあ、悪いけどロズミエルさんへのお土産の準備、頼んでいいかな?」
「はい! 妾にお任せください」
えっへんといった感じで小さな体で胸を張るネピュラを微笑ましく感じながら頭を撫でると、ネピュラは嬉しそうな笑みを浮かべたあとで手を振って家の中に戻っていった。
「……ということで、砂糖お土産にお渡しできるみたいです」
「あ、ありがとう、気を使わせちゃってごめんね。それにしても、ネピュラちゃんだっけ……あの子は、す、すごい子だね。こっちの様子を察するのが凄く上手いっていうか、私が怖いって思う距離には絶対に近づいてこないし……」
「ええ、ネピュラは本当に気遣い上手ないい子ですよ……あの分なら、ロズミエルさんと会話できるようになるのも早いのでは?」
「そそ、そうだね。あ、あの子なら……『2日ぐらい』あれば、い、いけそうかな……」
「……まぁ、焦らずゆっくりいきましょう」
そっか、それでも2日はかかるのか……いや、たぶん2日でもかなり早い方なんだと思う。