軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薔薇姫の来訪④

ロズミエルさんとテラス席に座ると、丁度いいタイミングで紅茶の乗ったカートを押したイルネスさんが来てくれた。

「紅茶を~お持ちしましたぁ」

「ありがとうございます」

「……」

そしてイルネスさんが登場した瞬間、まるで石像のように硬直するロズミエルさん……感応魔法で慌てている感情が伝わってくるため、初対面の人が現れてアタフタしているのだろう。

とりあえず、イルネスさんにはロズミエルさんの紅茶も俺が受け取ることを伝える。たぶん、近づくと怖がってしまいそうなので……。

イルネスさんは俺が頼んだ通り、俺の前にふたつのカップを置いてくれた。その際にお茶菓子はどうするかと聞かれたが、せっかくいただいたクッキーがあるのでそちらを食べると伝えた。

いちおうロズミエルさんにもどうするか聞いてみたのだが……うん、駄目っぽい。たぶんイルネスさんがいる限りは、対面に座っている状態で会話は不可能だろう。

まぁ、さっき基本的に食事はしないと言っていたので大丈夫だとは思う。もし必要ならマジックボックスの中にいろいろあるので、それを出せばいいだろう。

そう思っていると紅茶の用意を終えたイルネスさんが、少しお洒落な感じの蓋ができる陶器の容器をテーブルに置いた。

「こちらはぁ、最近ネピュラが作った砂糖ですぅ」

「ネピュラが?」

「はいぃ。とても綺麗で味もいいので~ぜひ使ってみてくださいぃ」

そう告げたあとで、おかわりの紅茶が入ったポットを乗せたカートを置いて、イルネスさんは一礼して下がっていった。

イルネスさんの姿が見えなくなると、硬直していたロズミエルさんがホッとした様子で動き出す。

「……ご、ごめんね、カイトくん」

「いえ、ロズミエルさんが人見知りなのは知っているので、大丈夫ですよ」

「しょ、初対面の相手はこ、怖い……みみ、皆はよく初対面の人と、簡単に話せるよね」

まぁ、初対面の相手と話すのが緊張するという気持ちは分かる。さすがにロズミエルさんほど極端に人見知りをするわけではないが、俺だって初めて会う相手との会話は緊張する。

そんなことを考えつつ、紅茶をロズミエルさんの前に置いて、合わせてネピュラが作ったという砂糖の容器もロズミエルさんが取りやすい位置に置く。

そう言えばこのカップの中々お洒落というか、カップを持ち上げるとソーサーの中央に描かれている花が見えるデザインだ。

「この砂糖、綺麗で味もいいって言ってましたけど、いったいどんな……おぉ」

「わぁ、綺麗だね。これ全部砂糖なんだね」

蓋を開けてみると、中にはカラフルな花のような形の砂糖が入っていた。角砂糖の形状を変えた感じだとは思うが、本当に綺麗でかなり作り込まれている感じで見ているだけでも楽しい。

「ふ、普通に入れればいいのかな……あっ」

「え? 紅茶の上に浮く――って、おぉぉぉ花びらが……」

ロズミエルさんが花の砂糖をひとつ取って紅茶に入れると、砂糖は紅茶の上に浮く。まるで水面に花が揺れているようで綺麗だが、もちろん砂糖なので溶ける……しかし、そこにも工夫があった。

どういう原理かは分からないが、まず始めに花の中心部が溶け、それに合わせて花びらがカップ全体に広がるように散ってから溶けるという見事な演出。

「すす、凄いね。見た目もすごく綺麗だけど……粒がキラキラ光るように溶けていくのも綺麗。ここ、これって、オリジナルの砂糖なんだよね?」

「みたいですね。ネピュラはかなり凄い子で、庭とかもそうですけど凝り性なところもあるので、かなり作り込んだんじゃないかと……」

「すごいなぁ、この砂糖、買い取りたいぐらいだよ」

「あとでネピュラに聞いてみて、本人がオッケーしてくれたらお譲りしますよ。あっ、もちろんお金とかはいいので……」

「そ、そんな、悪いよ。た、ただでさえ、今日はお礼に来たのに……あっ、そそ、そうだ、先にこれ、渡しとくね」

「……これは?」

ロズミエルさんが取り出したのは、お洒落な小包……大きさや形状的に瓶のようなものが入ってる気がする。

「えっとね、永久の花を譲ってくれたお礼……あっ、も、もも、もちろんこんなものじゃ、全然釣り合ってはないと思うんだけど」

「いえ、そんな、わざわざありがとうございます。えっと、開けてみていいですか?」

「う、うん、気に入ってもらえると、嬉しいかな」

包みを開けてみると、中からは細長い瓶の中に色鮮やかな薔薇が入り、棘を取った茨が芸術的に絡みつくようなデザインになっているインテリアフラワーが入っていた。

あっ、これ知ってる。たしか専用のオイルに付けることで水の中に花があるような綺麗な感じで長期間枯れずに観賞用として楽しめるっていう……えっと……。

「すごく綺麗ですね。な、名前はど忘れしちゃったんですが、インテリアフラワ―の一種ですよね?」

「う、うん。ハーバリウムだよ。だ、暖色系の色合いの薔薇と棘のない茨で……そそ、その、カイトくんをイメージして作ってみたんだ。薔薇の花なのは、私が薔薇の精霊だからだね」

そう、ハーバリウムだ。滅茶苦茶お洒落というか、ロズミエルさんのセンスがいいからだろうけど、すごく芸術的な感じで俺の貧相な語彙力では、凄いという感想しか出てこないレベルだ。

「そそ、そのぐらいのサイズなら、机の上とかに置けるかなぁって思って……」

「丁度、机の上に置くインテリアが欲しいと思ってたんですよ。本当に嬉しいです、ありがとうございます」

「よ、よかった。喜んでもらえて、私もすごく嬉しい」

実際書き物などをするテーブルの上に飾りが欲しいとは思っていた。永久の花もそこに飾ろうかと考えていたので、この贈り物はかなり嬉しい。

その気持ちを素直に伝えると、ロズミエルさんは頬を微かに赤く染め、はにかむような小さな笑顔を見せてくれた。