軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白神祭を終えて⑤

クロと一緒の入浴、ニコニコと楽しそうなクロは現在俺の左ふとももに腰かけ、俺の胸にもたれ掛かっている状態だ。

とりあえず左ふともも辺りの感触は意識しないように努めつつ、クロと会話を続ける。

「そうだ、せっかくだしこれも使おうかな」

「うん? なにこれ、アヒルのおもちゃがくっついた棒?」

クロが空中に黒い渦を作り出して取り出したのは、魔法具っぽい魔水晶の付いた棒にアヒルのおもちゃが三つくっ付いているものだった。

なんだろうこれ、用途が分からない。

「これは、お風呂で遊ぶおもちゃだよ。魔法具になっててね、ここを押すと……ほら、アヒルが出発して風呂の端に当たると戻ってくるんだよ」

「おぉ、面白いな。アヒルのレースみたいだ」

「でしょ、これはおもちゃを作ってる商会で作ったものなんだけど、広いお風呂じゃないと使えないし、そもそも魔法具だから高価だしで富裕層向けの商品かな」

「おもちゃ専門の商会も持ってるのか……そう言えば、俺も昔風呂場用のおもちゃで遊んだなぁ」

「え? そうなの? 異世界のおもちゃってどんなのか、興味あるなぁ」

若干おぼろげな記憶ではあるが、たしかお湯につけると色が変わるようなおもちゃや、お風呂でお絵描きのようなことができるおもちゃがあった気がする。

それを説明すると、クロは非常に興味深そうな表情を浮かべており、特にお湯に入れると色が変わるおもちゃに興味があるみたいだったので、そのうち似たものを作るかもしれない。

「……けどそっか、クロがお風呂にアヒルのおもちゃとかもって来てたのは、自分のところの商品を試してみてるからだったんだな」

「え? あっ………………そうだよ」

どうやら違ったらしい。単純に自分が遊ぶために持ってきてたみたいだ。変なところで子供っぽいところがあるクロに苦笑しつつ、なんだかんだでクロと一緒の入浴を楽しんだ。

神域で温泉にも入ったので、それほど長湯することはなく風呂から上がって部屋に戻ってきて、ふと違和感に気付く。

クロが一緒に戻ってくるのは問題ない。一緒にお風呂に入ってたんだから、当たり前のことだろう。問題はそこではなく……、

「……う~ん、気のせいかな?」

「どうしたの、カイトくん?」

「クロのその服……寝巻じゃない?」

「寝巻だね」

「クロって、普段は基本的に睡眠しないんだよね?」

「ほぼしないね。必要なわけじゃないしね」

「……右腋に抱えてるのは?」

「枕だね」

「そっかぁ……」

おかしいな? ここまでの会話の流れに、クロの格好……どう見てもこのままここに泊まっていく感じだ。あれ? そんな話になってたっけ?

「あっ、カイトくん! ちょっと寝る前に、ベランダで星でも見ようよ!」

「え? あ、あぁ、そうだな」

考えている時に声を掛けられ、反射的に頷いてしまったが……あれ? もう完全に止まっていくことが決定してるみたいな感じなんだけど……あれ?

なんか思いっきり勢いに流されているような気がしつつ、楽し気なクロに続いてベランダに出る。

するとクロは手をかざし、ベランダ畳が出現した。

「……これは、なんか懐かしいな」

「ね? カイトくんと会ったばかりの頃も、ここにタタミを敷いて一緒に星を見たよね」

「あぁ。よく覚えてる」

そのあとでクロに空に連れ出されて……クロの言葉通り、その時から俺の物語が始まったような、本当にそんな感じだった。

まだそれほど昔というわけでもないはずなのに、いろいろあったせいかどうしようもなく懐かしく感じる。

「カイトくん」

「うん?」

「ほら、ここっ」

畳の上に座り、ポンポンと自分の腿を叩くクロ……膝枕をしてくれるというそのサインに、一度微笑んでから頷いて横になってクロの腿に頭を乗せる。

柔らかく温かな感触に、ひどく安心して……それこそ油断をしたらすぐに寝てしまいそうな心地よさだ。

静かな夜の空気の中、寝ころんで空を眺める俺と、俺の頭を撫でるクロ……しばらく言葉はなく穏やかな時間を過ごしていると、不意にクロが呟いた。

「……覚えてる? リグフォレシアでさ、精霊の祠で話したの」

「覚えてるよ。そう言えばその時も、畳に膝枕だったな」

「そうだね……あの時はさ、本当に淡い期待だったんだけどさ……」

そこでクロは空に向けていた視線を俺に向け、どうしようもなく優しく幸せそうな笑顔を浮かべて呟いた。

「……『君が見つけてくれたね』」

「ッ!?」

あぁ、覚えている。ハッキリと……あの時クロは寂しそうな顔で言っていた。欲しくても手に入れられないものがあると……それをもし俺が見つけてくれたなら、嬉しいと……ほんの少しの期待を諦めて覆うような、そんな表現の難しい表情で……。

クロの言葉を聞いて、なんというか変にむず痒いような気持が湧き上がってきた。あの時とは違う幸せそうな笑顔を浮かべるクロを見て、その笑顔を『見つけてあげることができた』のが、ものすごく誇らしく思えた。

「あの時はカイトくんが起きてるうちには、言えなかったけど……大好きだよ、カイトくん……」

優しい声でそう告げたあと、クロはそっと俺に顔を近づけて俺の唇に自分のそれを重ねた。