作品タイトル不明
第92話 ジーナの胸の内
ジーナの弁護を務めるのはベッファだ。
弁説さわやかに、次々にジーナの発言を裏付ける証拠を提出する。
証人にはケイショリーもいた。
カティオがジーナ側に立つケイショリーを見て目を見開くと怒りのあまり殴りにいきそうになるが、それを察知した親方が思いきりカティオの腹を蹴った。
カティオは腹を抱えうずくまる。
「すんません、コイツはどうも腹の調子が悪いらしくって。救護室で見てもらえませんかね?」
親方は作り笑いを浮かべながら役人に訴え、役人は親方を見下しつつカティオを引っ立てて退場させた。
親方は腹を決める。
どのみち冤罪だ。ここまで証拠を集めて対抗してくるとは思わなかったし当初の予定から狂いっぱなしだが、ジーナが見つかったことでおおよその目的は果たしたのだ。
ジーナとは長い付き合いだ、扱い方は心得ている。
自分が腹を決めたなら、ジーナは戻ってくるだろう。
ベッファがすべての証拠を提示し証人に証言してもらい、司法官が審議に入ろうとしたとき。
「……ジーナ。俺が悪かった」
親方は急にジーナに向かって頭を下げる。
全員が親方に注目した。
「ジーナ。お前は寂しかったんだな。カティオがケイショリーのお嬢さんに見初められて浮かれていたもんだから、お前が寂しく思って家出した気持ちを察してやれなかった。だが、ようやくわかったよ。……罪滅ぼしに、お前を俺の工房の後継に指名しよう。これからは、本当の家族として暮らそう。カティオは、ケイショリーお嬢さんのところに婿に行かせる。お前を娘として養子に迎える。……あぁ、家事がつらいならやらんでいい。女房にやらせるからよ。だから、 俺(・) の(・) 工(・) 房(・) を(・) 大きくする手助けをしてくれ。――娘として」
優しげというよりも憐れを誘うような声で親方は話す。
それが効果的だと親方は知っていた。
おとなしく、自己主張ができない娘だ。
お人好しでもあり、怒鳴りつけ見放そうとするとすぐ従う。
だが、今怒鳴りつけるのは得策ではない。
ジーナが最もほしがっているのは家族の愛情だから、それを餌にすればすぐ食いつく。
泣いて喜ぶ――と、そう思っていた。
だが、ジーナは答えない。
「……ジーナ? 返事をしてくれ。そうしたら、何もかも水に流す。こんな裁判もやめちまおう。訴えを取り下げるよ。だから、帰ろう」
親方がなおも語りかけると、役人が取り押さえた。
「退出だ。質問以外に答えるなと警告したのにそれを破った。判決は、牢屋の中で聞かせてやる」
親方は牢屋に入れられると知りギョッとしたが、いや牢屋よりもジーナだと、まだ叫ぶ。
「ジーナ! 待ってるぞ! 俺を迎えに来い! ジーナ!」
憐れな声で叫ぶ。
ジーナの顔は見えなかったが、うつむいていた。
きっと感動してうれし泣きしているのだろう。
カティオと親方が退場したのち、司法官は原告側の訴えは虚偽という判決を下した。
「次いで、公爵令嬢シルヴィア・ヒューズ様からの訴え――自身のメイドの名誉を傷つけ、奪おうとしたという訴訟は真実であることを認めます。あの者たちに罰則を」
「ありがとうございます」
ベッファが司法官に頭を下げる。
ジーナも頭を下げた。
ジーナは何も言わない。
ここで下された判決は覆らない。それを理解している。
証人の一人として立ったエドワードは、ちょっと苦笑した。
「ここまでやる必要はなかったかな?」
小さくつぶやくと、ヴェールを被った神官カロージェロが微かに首を振る。
「災いの芽は早めに摘まないと危険ですよ。……まだ引き返せるのならね。今後は彼ら次第です。今回のことで反省し贖罪したのなら、やり直せるでしょう」
エドワードはカロージェロを横目に見た。
カロージェロは憂い顔になっていた。
「……なんでお前がそんな顔をする?」
エドワードが尋ねると、カロージェロは答えた。
「……ジーナさんだって、騙されていたとはいえ数年間一緒に暮らしていたのですから情はあるでしょう。ですから、彼らに反省して贖罪してほしいと願っているのです」
……それはつまり、彼らは反省しないだろうとカロージェロは考えたのだ。
真横に、その事例が立っている。
カロージェロがチラリと横目でエドワードを見ると、エドワードが嫌そうな顔をした。
「……言いたいことがあるならハッキリ言え」
「何度も言っておりますよ。私より若いと自慢しているわりには、すでに記憶力が怪しくていらっしゃる」
「……この……」
「静粛に!」
役人から注意が飛んできて、二人は黙った。