軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第93話 最後の語り合い 上

誰もが判決をジーナには聞かせたくなかったが、ジーナは聞きたがった。

コスマが支えるようにジーナの肩を抱き、一緒に判決を聞く。

「……まず、工房の長の妻ミシマだが、すぐ虚偽だったと認めた。夫の暴力が怖くて従っただけだが、すぐバレるし巻き添えを喰らいたくないので裁判所に行かなかったと供述した」

司法の役人が淡々と語った。

彼女は警備隊とともに来た役人に脅えて、自らしゃべったのだ。

「周囲も、彼女が脅えていたのを知っていたので真実だという結論が下された。なので共犯ではあるが罪は軽い。罰金程度だ。……で、次はその息子のカティオだが……簡単に言うと精神が錯乱している」

ジーナが目を見開く。

だが、何も言わずに聞くことに徹した。

「退場した後もわめき暴れ、牢屋に入れられた。牢屋の中でも、まるで獣のように唸り怒鳴り散らし、肉体を傷つけてまで物に当たりまくる。いわゆる『癇癪』を起こし、判決以前に牢から出せなくなった。別の獄舎に移送して、正気に戻るまでそこへ閉じ込めておく」

ジーナは青ざめたが、硬い表情でうなずいた。

「最後に、主犯である工房の長チーキだが、こちらもまた罪を認めた。公爵令嬢の侍女を陥れようとしたことは重罪だが、公爵令嬢が重い刑罰を望んでいないため、財産没収と一定期間の労役、城塞都市フォルテへの立ち入り禁止に留めた」

ジーナは少しホッとした顔でうなずく。

そして、しばらく考えた後で役人を見つめた。

「……親方と、少しだけでいいので、話せませんか?」

コスマがジーナを見た。

「……ジーナ! 利用されているのがわかったと言っただろう!? なぜまた会おうとするんだ!?」

「言いたいことがあるからです」

ジーナがコスマを見てキッパリと言う。

コスマは、昔から見ていたジーナとは違う、強い意志を宿した瞳に驚いた。

「……決して流されないと誓ってくれるか?」

「両親を亡くして寂しがっていた少女は、もういなくなりましたよ、叔父さん」

ジーナは微笑む。

――少なくともジーナは、亡くすまでは両親に愛されていた。

だが自分の 主(あるじ) は、両親がいるにもかかわらずジーナよりももっと小さいときに「城主になれ」と親元から追い出されたのだ。

それを思えば、所詮他人にされたことなど大したことはない。

だから、決別しなくてはならないのだ。

役人は渋ったが、公爵令嬢の侍女の肩書きに押されて面会を許した。

ジーナは牢屋にいる親方を見ると、親方は訝しげな顔をした後顔を輝かせ、ジーナに詰めよるべく牢屋の檻を掴み、訴え始めた。

「ジーナ! 助けにきてくれたんだな。やはりお前は優しい子だ。早くここから出してくれ!」

ジーナは呆れた顔をしたが、親方はそれに気づかないフリをして断定的に話す。こういう話し方をすればジーナは断れないと知っていたからだ。

「さぁ、二人で帰ろう。カティオはどうした? あのバカ息子は暴れているとか言っていたが……それもジーナがなんとかしたんだろう? さすがはジーナだ。家族同然に育ててやったもんな。恩返しをしてくれるのは当たり前だろう。何せ、お前が天涯孤独になったのを、俺たちが拾ってやったんだから。さ、仕事が山積みなんだ、早く帰るぞ、ジーナ!」

ジーナは答えず、親方にしゃべらせていた。

親方が疲れきり黙ると、ようやくジーナが口を開く。

「私は今、シルヴィア様――公爵令嬢の侍女です」

親方はそれを呆けた顔で聞くと、またしゃべり出す。

「侍女? そんなもん、お前の才能の持ち腐れだろう! とっととやめろ! 早く帰って工房の仕事をするぞ! お前は少しトロいところがあるから、俺がみっちり鍛えてやる。そうすりゃ、一流の仕立て屋になれるぞ。 俺(・) の(・) 工(・) 房(・) が一躍有名になるんだ! ジーナ、嬉しいだろう?」

「いえ、まったく」

ジーナが即、端的に否定したので親方が黙る。

「……ジーナ。あんまり舐めた口をきくもんじゃないぞ。俺はお前を後継にしようと考えてるんだ。なのに、そんな口のきき方じゃあ、考え直さねーといけねぇなぁ」

脅すように言うと、ジーナがうなずいた。

「私はあなたの後継にはなりません」

ハッキリ言い切ったジーナに、親方は慌てる。

「いや、悪かった。ちょっと精神的に追いつめられててな……。わかるだろ? こんなところにブチ込まれているんだ。つい、家族同然のお前に甘えちまった。……だから、早く出してくれ、ジーナ。それで元どおりだ」

ジーナはジッと親方を見つめている。

その視線を受けて、親方は居心地が悪くなってきた。

親方は言いかけてはやめ、言いかけてはやめて、とうとう黙る。

沈黙の後、ようやくジーナが話し始めた。