軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第91話 裁判

自分本位に文句を言っていた親方とカティオも、裁判所に入り周囲の厳格かつ威圧的な雰囲気を感じとるとさすがに黙り、萎縮したが、自分たちは原告側、訴えているほうだと己を思い直した。

被告人たちが責められるのを眺め、なんならなだめて条件をつけて引き下げればいいのだと呑気に考えていた。

だが、円形の部屋のほぼ中央に、見世物のように立てと言われて顔色を変えた。

それではまるで、自分たちが犯罪者のようではないか。

「どういう……」

カティオが尋ねようとしたら、ピシャリと役人が言う。

「話すな。よけいなことを話したら罰を与えることになる」

息を呑む二人。

裁判を知らない二人は、なぜここに立たなくてはいけないのかという疑問も尋ねられないまま、所在なく佇んだ。

しばらくすると、反対側からやってきたのはコスマと――ジーナだ。

ジーナは、なぜかメイド服を着てやってきた。

とうてい犯罪者の衣装には見えない。

二人を一切見ないまま、役人の話にうなずいている。

その様子にカティオがまずキレた。

「おい、ジーナ! こっちを見ろ!」

怒鳴ったとたん、役人が飛んできてカティオの目の前に立ちふさがる。

「被疑者に話しかけないように! 再度、必要なこと以外で声を発したら退場してもらう。そうなると、以降は相手の言い分のみで審議することになるぞ」

親方は慌ててカティオの頭を押さえつけて頭を下げさせた。

「申し訳ございません。黙ります」

親方もジーナを怒鳴りつけたかったのだが、そうしなくてよかったと内心で安堵した。

カティオは怒りでブルブルと震えていたが、退場になるのはマズいと理解できている。

ケイショリーとのことでより我慢がきかなくなってしまっている状態のカティオには、かなりの苦痛だった。

ジーナは硬い顔のまま、絶対に二人のほうを見ようとはしなかった。

裁判が始まる。

司法官が原告側の訴えを言うように促されたので、やっと話せると親方が意気揚々と話し始めた。

「そこにいるジーナは、両親に先立たれて身寄りをなくした子で不憫だからとうちで育てました。なのに、店の金をくすねて逃亡したんですよ! その隣にいる叔父とかいう奴にそそのかされてね。でもって、こないだうちに来てさらに 強(ゆ) 請(す) り始めたから、警備隊に来てもらって捕まえてもらったんです! ……まぁでも、ジーナが心を入れ替えて戻ってくるのなら、訴えは取り下げますよ。――さ、ジーナ。うちに帰るぞ」

そこまで一気に話したが、誰も反応しない。

親方は、脅すように声を低め、さらにジーナに話しかける。

「……ジーナ。お前が仕事を放棄していなくなったから、工房はめちゃくちゃになったんだ。お前にはその責任もあるんだ。わかるな? お前は家族同然だろう? うちの立て直しをするのは家族同然なら当たり前だ! とっとと戻ってこい。……今まで厳しくしすぎていたのに拗ねたのなら、少しは甘やかしてやる。な? カティオ」

うながされたカティオが、ふてくされたような乱雑な口調で言う。

「……お前が逃げやがったのには頭にきてるから、多少のお仕置きはするけどな。悪いと思っているなら謝って帰ってこい。そして、二度と外に出るなよ。お前は俺だけに尽くせば良いんだ、わかったな!」

二人以外の全員が、口上に呆れ返った。

領の裁判で、こんなふざけたことを言う連中が来ることなど滅多にないからだ。

領の裁判は本来、領内で起きたさまざまな訴えで裁判が必要なものを、裁判所で互いの言い分を聞き、司法官が審議するものなのだ。

――小さな町の小さな工房で起きた盗難など、裁判所で審議を行わない。本当は、町の警備隊やその町のメイヤーが間に入り調停して終了だ。

重罪なら騎士団に連れていかれ処罰されるが、若い娘が店のお金をくすねて逃亡したのなんて、よくある話なのだ。

本来は、手配書が配られても見つからない、その程度の話。

それをここまで大きくしたのは、被告人のジーナが公爵令嬢の侍女を務めているとエドワードとジーナが報告したからだ。

そのため司法官は慎重にこの件を取り扱わないといけないし、たかが町で起きた事件と簡単に片づけてはいけないのだ。

「被告人であるジーナ、原告の訴え……あの話を聞いて、反論があるなら答えなさい」

司法官に促され、ジーナはうなずいて答える。

「幼い頃に両親を失った私は、家族同然という言葉にすがり、ずっと彼らの言うままに働いてきました。ですが、私が『兄さん』と呼んでいた方が婚約し、このままあの家にいてはいけないと思い、婚約者の方に頼んで旅費をいただき、旅支度までしていただいて家を出ました。……ちなみに私は仕事から家事まですべてこなしていましたが、家族同然だからという理由で給金は一切出ておりません。そして、金の管理は親方がなさっていたので私はお金がどこにあるのかすら知りません。そして、叔父に会ったのは幼少時に別れて以来、『叔父が捕まった』という連絡を家令の方から受けこちらにやってきた、ほんの数日前です」

ジーナがキッパリと言った。

親方とカティオは口を開けて呆けた。

おとなしかったジーナが、反撃してくるとは思わなかったのだ。

またもや先にキレたのはカティオだ。

「……お、お前……。お前! 俺に逆らうつもりか!?」

「そこ! 勝手に話しかけないように! 次に逆らったら退場させますよ!」

慌てて親方がカティオの口をふさぐ。

「……カティオ、いいかげんにしろ! これ以上話すようなら、お前は帰れ! 俺がなんとかする!」

「…………」

カティオはいら立たしげに近くにあった柵を殴る。

親方は、まずいと思い始めていた。

当初の思惑からどんどん外れていく。

おとなしいジーナを脅して言うことをきかせるつもりだったが、裁判はあまりにも勝手が違う。

もともと冤罪なのだ。

最悪は勘違いだったで済ませるが、そうなるとジーナを連れ帰れない。

肝心なのは、ジーナを連れて帰り、工房の仕事をさせることだ。

家事なんてどうでもいい。

女房がやらせたければやらせてもいいが、工房の仕事に支障が出るようなら女房にやらせたままにする。

多少家が汚かろうが、親方自身が苦労して繁盛させた工房がなくなることに比べれば些末なことだ。

カティオがこれ以上工房の仕事をやらないようなら、あちらの家に婿入りさせ、金だけ引き出し、ジーナを後継に据えるとまで考えていた。

自分の工房の名を領内に轟かせたい、その要となるのがジーナだと、今さら親方は知ったのだった。