軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話 逮捕

ジーナが捕まったという報告が、親方とカティオにもたらされた。

隣国にいたらしく、たまたま戻ってきたところを捕縛されたという。

「よーしよし。捕まったぞ」

親方は満足げにうなずいた。

二人とも、ジーナと彼女の叔父に冤罪を着せて投獄したことに対して、まるで罪悪感はない。

逃げたジーナを捕まえるための、必要な措置なのだ。

そう、本気で思っていた。

親方がさっそくジーナを引き取りに行ったが、詰め所にいる警備隊は怪訝な顔をした。

「引き取る? どういうことだ?」

「どういうことも何も、アイツはうちで働いていた、家族同然の子だ。何も、金を返せとは言わないさ。そのまま戻ってまた元どおりの生活を送ってくれれば、不問にするっつってんだ。だから、それを話してジーナをこっちに渡せって言ってるんだよ」

警備隊は呆れた顔をした。

「そんな勝手なことが出来るわけないだろう。お前が訴えたんだ。町で起きた犯罪なら話し合いでいけたが、お前が捕まえろって言った男も町の人間じゃないし、ここを出ていったジーナちゃんもそうだ。訴えは、領の司法官まで回ってるよ」

親方は青くなった。

町の警備隊程度なら先ほど言った話で通用する。

そもそも、そうやって事を収めようとして冤罪でジーナの叔父コスマを捕まえさせたのだ。

だが、領の司法官まで回っていると、裁判になる。

「……そこまで大事にしたかったわけじゃない。なら、訴えを取り消すからジーナを返してくれ」

親方は警備隊に訴えたが、警備隊は軽蔑した顔で首を横に振る。

「だから、今さら遅いんだよ。関係者全員が集まって裁判だろ。そのときにでも言えよ。どのみちここにはいない。捕まったって知らせは来たが、ここじゃないからな。別の場所にいるんだろうよ」

親方は激しく舌打ちした。

「……使えねぇ……!」

「なんか言ったか?」

とたんに警備隊が睨む。

「穏便に事を収めたかったのにって言ったんだよ!」

親方は怒鳴ると詰め所から立ち去った。

家ではカティオが喜色を浮かべて親方を見る。

「ジーナは!? ジーナはどこだ!?」

「見りゃわかるだろ! いねぇよ!」

とたんにカティオが顔色を変えた。

「どういうことだよ!?」

「逃げた先で捕まったんだとよ! そこから裁判所に送られるから、引き取れねぇんだよ!」

怒鳴り合う。

親方もカティオも精神的に追いつめられているので異様な形相になっていた。

家に入ると、親方は自分の妻であるミシマに怒鳴った。

「おい! 飯にしろ!」

ミシマはビクッと反応すると、恐る恐る親方に話しかける。

「……本当に大丈夫なのかい? ジーナは何もやってない。逃げただけだよ。あの叔父って男も、ジーナの行方を知らないから怒鳴り込んできたんじゃないか。あたしはアンタがあの男に殴られるかもしれないって思ったから警備隊を呼んだんだ。それなのに……」

「うるせぇ! それ以上ガタガタ抜かすとひっぱたくぞ!」

親方がまた怒鳴る。

ミシマはそれ以上もう言わず、怯えた顔のまま奥に引っ込んでいった。

親方とカティオは、裁判所へ向かった。

おかみさんのミシマは「行きたくない。行ったら正直に話してしまうかもしれない」と拒んだので、連れていかなかった。

親方はずっと、

「ジーナが戻りゃ、すべてはうまくいくんだよ」

と、呪言のように繰り返していた。

カティオはカティオで、

「ジーナは愛人……いや奴隷にしよう。ケイショリーはお飾りの妻だ。ジーナは俺専属の奴隷だからな。常にそばにおいて、俺の機嫌をとらせりゃいい。それで全部丸く収まる」

とブツブツつぶやいていた。

親方は、自分の大切な工房が潰れそうなことと自分の工房の信用がゼロになったことにショックを受け、なんとしてでもジーナを連れて取引先を回り以前のように仕事をとってこさせてやらせ、復興させたかった。

大変な思いをして独立して工房を持ったのだ。本当はジーナが来てから公爵家の下請けの仕事まで受けるようになったのだが、そのことは都合良く忘れ、自分の工房がすごいのだと思い込んでいた。

だからこそ、落ちぶれてしまった今の状況が耐えられない。

カティオは、ケイショリーに耐えられなかった。

力関係からするとカティオこそケイショリーの機嫌を取らなくてはいけないのに、甘やかされジーナからご機嫌取りをされていたカティオには逆の立場になることは無理だった。

だが、ケイショリーの持つ金の魅力は捨てられない。

ご機嫌取りは無理だが、ケイショリーは自分に惚れている。

なら、ケイショリーをお飾りの妻にして、自分はジーナを侍らせ好き勝手に扱ってやろうと考えていた。なんならケイショリーのご機嫌取りもやらせるつもりだ。

今までは妹としてジーナを扱っていたので手を出さなかったが、連れ戻したら強引に関係を結び誰とも結婚させないような体にして、二度と家から出られなくしてやると決めていた。

小さなお山の大将である親方と、甘やかされていた大きな子どものカティオは、それぞれが慣れない我慢を強いられストレスでおかしくなっていた。

「……一番近い裁判所っつっても遠いな。疲れたんだけど」

「黙って歩け。……チッ! よけいな金を使っちまった。叔父とか言う奴のせいだから、奴に弁償させるか」

二人はブツブツと文句を言いつつ、裁判所に入った。