軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75.レベル95

朝、日課のニホニウム。

地下一階に入ると、マーガレット姫とその仲間たちがいた。

リーダーの男と、削り役の四人、そしてマーガレット姫本人。

いつもの一行六人と遭遇した。

「ようサトウ、またあったな」

「やあ。今日もいっぱい空気を出してるみたいだな」

リーダーの横にパンドラボックスが山の様に積み上げられている。

全部がマーガレット姫の顔写真付きの空気箱だ。

「ああ、まだまだこいつも売れるからな。今日も姫の体力が続く限り狩っていくぜ」

「そういえば最近見かけなかったけどどうしたんだ?」

「お前さんに教えてもらった商売が出来そうかやってみてたのよ」

「おれが? ……ああ、指輪の話か」

前回あったときの事を思い出した。

空気箱以外でなにか商売になるものはないかと悩む彼に、おれは「マーガレット姫があなたに贈る指輪」はどうなのかというアイデアを出した。

「それで、指輪はどうなったんだ?」

「それがなあ……指輪をドロップするダンジョン、大半がでっかいファミリーに抑えられてんだ」

「ファミリーに?」

米の事を思い出した。

シクロでも、唯一米をドロップするシリコンの地下六階をアダルバードという一味が独占してた。

そういうことはどこにでもあるんだな。

「出荷量と品質の管理だとさ。いろいろ当たってみたが、一箇所だけああいう連中が管理しきれない階層があったんだが……」

「だが?」

「そこにいるのがドラゴンでな、とても姫がどうこうできる強さじゃないから諦めたってわけさ」

男は手のひらを上にして肩をすくめた。

戦闘をみた。相変わらず四人の男が弱らせてマーガレット姫がトドメを刺すというスタイルだ。

そのトドメも、剣をふらふらしながら扱っててどうにも頼りない印象がある。

いや、か弱くて可憐だから、姫としては百点満点なんだけどな。

「たしかにあれじゃドラゴンは無理だな」

「だろ? 姫もなあ、レベル高いんだけどなあ」

「そうなのか?」

聞き返すと、男は胸を張ってまるで自慢するように言った。

「聞いて驚け、姫の最高レベルは99、今のレベルはなんと94だ」

「えっ!」

「そして能力は驚異のオールF、レベル1の時から何一つ上がってないんだぜ」

「そんな事があるのか!?」

「実際姫がそうなんだ、レベルが高いから強いって訳でもないんだよ」

それはそうだ。

強さはレベルじゃなくて、ステータスによるもの。

おれだってレベルは1で上がらないけど種でステータスをどんどんあげてそれなりに強くなった。

にしても、あんなにレベルがあがっても能力が上がらない人もいるのか。

レベル94でオールF、実際のステータス画面をちょっと見てみたい気がする。

「もうすぐ95にあがる頃だと思うが、まあなにもおこらないだろうな」

そんな事をしてる内にスケルトンが倒された。

フォローをする男の一人が空気の入ったパンドラボックスをもって小走りで戻ってきて、他の三人が姫を護衛しながらゆっくり戻ってくる。

が。

「――っ」

おれを見た瞬間、姫が顔を真っ赤にして逃げ出した。

護衛をする三人の男が慌てて追いかけていく。

「ど、どうしたんだ?」

「……そういえば」

リーダーがおれの顔をじっと見つめる。

「サトウ、前にあったとき姫を助けてくれたんだっけ」

「え? ああそんなこともあったな」

「……はあ、そういうことか」

「え? どういうことだ?」

「はあ……」

リーダーの男はますます深いため息を吐き、おれは、まるで狐につままれた様な気持ちになったのだった。

ニホニウム地下二階。

どうやらおれがいるとマーガレット姫はまともに動けないみたいだから、おれは二階に降りてきた。

ポーチが空になってることと、親指に指輪を装着している事を確認。

通常弾もしっかり込めて、ダンジョンを歩き出した。

ゾンビが現われたのを瞬殺して、ポーチに種が入る。

効率モードで地下二階を回った、とにかく出会い頭に瞬殺、奇襲されても最小限の動きで処理して瞬殺。

ゾンビを十体倒したところで結晶が生まれた。

指輪の効果で、レベルカンストしたあとの溢れた経験値をこうして結晶にして、他人に渡せるようになる。

ゾンビを十体倒したところで結晶が一つ生まれた。

それを大事にしまって、更にゾンビを探す。

地下二階以降のニホニウムはまったく冒険者がなくて、スムーズにエンカウントして倒せた。

更に十体倒したところで二つ目の結晶が生まれた。

これでだいぶ確定してるが、念の為さらに狩った。

三十体目を倒したところで三つ目の結晶がでた。

これでまちがいないな。

「ゾンビ十体につき結晶一つか」

さきにとった二つの結晶も取り出して手のひらの上に並べた。

まったく同じサイズの三つの結晶、ダンジョンのうっすらとした光を反射して綺麗に輝いている。

今までとひと味違った達成感だ。

おれはこの世界に来て、最高レベルが1って事で経験値とは無縁だったんだが、こうして経験値がアイテムとして手のひらにあるのは、普通にモンスター倒してアイテムをドロップさせるのとちょっと違う達成感を覚えていた。

結晶が5つになったところで、おれはダンジョンを出た。

地下一階にはもうマーガレット姫たちはいない、引き上げたんだろう。

ダンジョンの外にでて、ポーチから種を地面に落とす。

そして離れて、ハグレモノに孵るのを待ちながら考える。

ハグレモノを倒して火炎弾を補充すれば午前中は大体おわりだ、やる事が増えた訳じゃないから、日課のペースは変わってない。

つまり、普通のペースでやれば午前中に経験値の結晶を5つ生産できるってことだ。

とりあえずそれを数値化したかった。

魔法カートを使った一往復の稼ぎが大体四万、一日の稼ぎが普通のドロップで約二十万。

そういうのと同じように、経験値結晶の稼ぎを数値化するのが今日の目標だ。

それが無事達成できて、ホッと一息だ。

そうしていると種からゾンビのハグレモノが孵った。

五十体のゾンビが一斉に現われた。

おれは通常弾を用意した、こいつらを瞬殺してみんなと合流して午後のダンジョンに行こう。

「きゃっ!」

ゾンビの向こうから女の悲鳴が聞こえた。

まずい! 誰か通りかかったのか。

しかもこの悲鳴、冒険者じゃない普通の女の子の悲鳴だ。

通常弾はやめて、拘束弾を込めなおして連射。

ゾンビが光の縄に拘束される。

突進してゾンビの群れに飛び込んでいく、素手でゾンビを倒し、群れを突破して一直線に悲鳴のあった方角に向かっていく。

突っ切った先に尻餅をついてる女の子がいた。

「姫!?」

そこにいたのはマーガレットだった。

彼女はさっき会ったときとまったく同じ格好で、しかし武器だけ持たないでいた。

拘束からもれたゾンビが彼女をおそう、よける事すら出来ず怯えた顔をしている。

「離れろ!」

地を蹴って猛烈に突進、うめきながら彼女にかみつこうとするゾンビの側頭部をわしづかんでそのまま握りつぶす。

「大丈夫か!」

「――!」

彼女は答えず、代わりにおれに抱きついた。

いやしがみついてきた。

小さな体がプルプル震え、おれの体に顔を埋めている。

「安心しろ、もう大丈夫だ」

マーガレットの腰に手を回して後ろに飛んで脱出し、片手に銃を構える。

助け出したらもう大丈夫。

おれは片手でリロードと連射を繰り返してゾンビを倒して行く。

女の子を一人抱いていていつもと勝手が違ったが、ゾンビくらいは楽勝だった。

しかしいつもと違うから、マーガレットの震えがいつの間にかきえてて、至近距離からおれの顔を見あげている事に気づいていなかった。

「大丈夫か?」

ゾンビ50体全部倒した事を確認した後、まだおれの腕の中にいるマーガレットに聞いた。

彼女はどうした訳か答えず、ぼんやりとおれを見つめている。

「どこかケガをしたのか?」

「……」

「マーガレット?」

返事がないから顔をペチペチ叩いてみようかと手を伸ばした。

「きゃっ」

おれの手が近づくと、マーガレットはハッとわれにかえっておれを押しのけた。

不意を突かれてしまい、マーガレットはおれから抜け出して、おれもバランスを崩した。

しまっていた五つの結晶が地面に落ちる。

それを拾う前にマーガレットをみた。

顔が赤かった、うつむいてもじもじして、おれをちらちら見てくる。

「どうした、なにかあったの?」

「な、なんでも……」

「ふむ? ケガとかはしてないんだな」

こくこく、と顔を赤らめたままうなずくマーガレット。

様子が変なのは気になるが――よく考えたら今日の彼女はずっと変だ。

それよりもケガをしてないみたいだから、それでよしとする事にした。

ここに居るの危険だし、彼女を街まで送ろう。

そうおもいながら、おれは落とした結晶を拾おうとした。

「ひ、拾いますわ」

「あっ、ちょっとま――」

止める間もなく、マーガレットは奪うようにして結晶を拾い上げた。

――瞬間、結晶が彼女の手の中で消えた。

「え?」

驚くマーガレット。

おれは結晶の特性をもう一つ知った。

どうやらおれ以外の人間がもつとすぐに消えてしまうらしいな、エミリーの時と同じだから、多分彼女の経験値になったんだろう。

となるとアリスはどうだ? 同じレベルカンストしてる彼女がもったらどうなるんだろう。

合流したら確認してみよう、とおれは思った。

「あっ……レベルアップしましたわ」

「本当か? そういえばそろそろ95になるってあいつ言ってたな」

今の結晶分で上がったのか。

「とりあえずおめでとう」

「ありがとうございますわ」

「能力はどうなった?」

リーダーの男から聞いたことを思いだし、興味も同時に蘇った。

マーガレットはまわりをきょろきょろし出した。

「ナウボード、どこかにありませんの?」

「ここからだとニホニウムの入り口が一番ちかいかな」

マーガレットは頷いた。

おれ達は一緒に歩き出してニホニウムに向い、到着するなりマーガレットはナウボードを操作してステータスを出した。

―――1/2―――

レベル:95/99

HP F

MP F

力 F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運 F

―――――――――

「おー……」

思わず声がでた、今までに見てきた最高の上限、そして最高レベル。

なのに、能力は見事なまでにオールF。

ここまで来ると感動すら覚える。

「やっぱり……」

「うん?」

「いいえ、なんでもありませんわ」

一瞬だけマーガレット姫が寂しげな表情をした。

気のせいじゃない、間違いない。

何をやっても報われない、それを感じた時の絶望。

彼女はレベルアップのたびにこれを感じてきたんだろうな。

なんとかしてやりたい。

そんなマーガレットが寂しげな表情のままナウボードを操作して次のページにいった。

「え?」

「どうした……お?」

―――2/2―――

植物 E

動物 E

鉱物 E

魔法 E

特質 E

―――――――――

そこにあったのはオールFじゃなかった、全部一段階上がったオールEだった。

「あがってますわ、上がってますわ!」

喜び、はしゃぐマーガレット。

レベル95にしてようやくステータスが上がった、例えそれがEだとしてもはしゃぐ程の事だろう。

だが、おれはちがった。

本人じゃなくて喜びをそれほど感じていないから、ある事――いやある可能性にきづけた。

「E、D、C、B、A……5、6、7、8、9……」

両手の指を折って数えたおれは、ある可能性に気づいていた。