軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76.永久機関

「ところで今の結晶はなんですの? もしかして噂に聞く経験値売り、というものなのです?」

興奮が収まった後、マーガレットはあたり前の疑問を口にした。

経験値売り……ああ、収穫祭でみたメッキマウスみたいなヤツか。

モンスターの経験値はものすごく高いけど、ドロップ品がどうしようもなく需要がなくて安い。

それをハグレモノに戻す用途で使われるのが経験値売りってヤツだ。

ハグレモノに戻してもう一回倒す、と言う意味ではさっき彼女に渡した結晶とまったく違う話だが、経験値売りという事だけ知ってて内容をよく知らないんだろう。

「それとはちょっと違う。この指輪の能力で、レベルがカンストした後の経験値をああいう結晶にして他人に渡すことができるんだ」

「そういうことでしたの」

「それよりも」

おれはマーガレットをまっすぐみた。見つめられた彼女は顔を赤らめて気持ちうつむいた。

「キミのレベルを上げたい」

「わたくしの?」

「おれの推測が間違ってなければキミはレベルカンストした時にすごい事になる」

「???」

マーガレットは首を思いっきりかしげた。

あれをみても当の本人は気づいていないのか。

常識が邪魔してるのか、それともオールFの不遇の期間が長すぎてそっちに慣れてしまったのか。

レベル99でドロップオールA。

超晩成型の成長タイプでそうなるかもしれないというおれがした予想を、彼女は想像すらしていないようだ。

さて、どうやったら一番効率的にあげられるのか。

それが問題だった。

一時間くらい経った後、おれたちの前に大量のもやしが積み上げられていた。

場所はニホニウム外れのまま、そこに積み上げられたもやしの小山。

100万ピロ分。

もやしもそれだけ集めれば壮観なものだ。

ちなみにもやしを集めるアイデアはおれだが、金はマーガレットが出した。

どうやら彼女はかなりの資産をもってて、もやしがあればあるほどいい、というと「とりあえず百万ピロ用意させますわ」といってこうなった。

ちなみに今ある分がシクロにあるもやしの全在庫分らしい。

「悪いな、金を出させて」

「いいえ。それよりもこれをどうするんですの?」

「みてて」

マーガレットと一緒にもやしの山を離れた。

しばらく待っていると、もやしから一体のスライムが孵った。

人気のない野外、スライムは生まれるやいなやこっちに向かってくる。

スライムを撃った、銃に込めた通常弾で撃ち抜いた。

一撃でスライムが消える。

更にスライムが孵る、今度は動き出す前に通常弾で始末する。

ここで、マーガレットが得心顔になった。

「こうしてもやしを経験値にかえますのね!」

「ああ、こっちが一般的に言われてる経験値売りだ。もっとも普通は経験値効率のいいメッキマウスでやるみたいだが、シクロにそれはなくてな」

あの商人も多分元の街に引き上げただろうしな。

スライムが次々と孵っていく。

それを孵ったそばから全部一撃で撃ち抜いていく。

「すごいですわ、百発百中ですわ。自分は動かずにモンスターを次々と倒すなんて……」

マーガレットは尊敬の目でおれを見た。

多分長期戦になるこのレベルあげ、おれが スライム(もやし) を選んだのは二つの理由がある。

一つは孵ったそばから楽に倒せること、スライム程度なら動かなくても見えさえすれば99%の確率で一撃で葬れる。

そしてもう一つ――。

おれは腰のポーチから通常弾を取り出して空になった銃に装填した。

ドロップ品をそのまま吸い込むポーチ。

それを使って、ハグレモノスライムを倒した時の通常弾を動かないで補充した。

スライムを通常弾で倒す、倒せばポーチに通常弾が補充される。

無限沸きのポイントに永久機関で狩りつづける、そんな構図になった。

スライムはスケルトンと同じ、十体ごとに結晶が一つでる。

それが出たそばからマーガレットに渡してやる。

倒して、自動で弾を補充して、経験値を渡す。

それを繰り返していく。

たまに離れたところを冒険者が通りかかる。

冒険者たちは首をかしげて不思議がったり、あるいは口角をゆがめて笑った。

スライムをハグレモノにして倒す理由が分からない人は不思議がって、経験値目的だとわかる人は笑った。

この世界ではレベルは周回のついでにいつの間に上がってるのが常識だから、仕方ない。

しばらくやってると目に汗が入った。

目をパチパチさせて汗を追いだそうとした。さすがに長くやってるとちょっとだけ疲れるな。

その時、横からいい香りが漂ってきた。

何事かと思えば、マーガレットがハンカチでおれの汗を拭いた。

この香りはハンカチの? それとも彼女の?

分からないけど……とにかく果物か花の様ないい香りだ。

「ありがとう」

「いいえ、お礼を言うのはわたくしですわ。こんな速さで経験値が上がっていくの初めてですから」

「そうなのか?」

「わたくし、スライム一匹も自分で倒せないほど非力ですの」

「……ああ、スライムでも削ってもらわなきゃ倒せないのか」

マーガレットが頷く。

「せめてMPが上がればといつも思っていますわ」

「それはなんで?」

「途中のレベルアップですごい魔法をいくつもおぼえてますの。生命停止魔法『エターナル』や、究極神炎魔法『フェニックス』とか」

「すごいもの覚えてるんだな!」

マーガレットのイメージと全然違うぞ。

「そういう魔法がざっと十個は」

「ますますすげえ!」

「ですがどれも使えませんの。MPがDくらいにならないと一発も撃てないのですわ」

「くっ、MPが足りない。状態か」

似てるな、セレストと。

マーガレットと雑談しながらスライムを狩り続けていく。

100万ピロのもやし、積み上げられた小山は徐々に小さくなっていった。

おれは最初に立ってる位置から動かないまま狩り続けた。

ハグレモノ・スライム、それを使った永久機関の狩りだから、むしろ意識して動かないようにした。

永久機関は最後まで完璧に機能した。

西日が沈む黄昏時、おれは最後の一匹になったスライムを撃ち抜いた。

結晶も出たから、それをマーガレットに渡した。

「どうだ?」

「まだちょっとだけたりませんの」

「100万ピロ分でも足りないか。レベル95から96だからしょうがないか」

「今から注文……もう在庫がないのですわね」

「かといって 現地(テルル) に行くともっと効率悪いしな」

仕方ない、レベルアップは持ち越しだな。

と、そんな事を思っていると。

「ヨーダさん」

おれを呼ぶ声に振り向くと、そこにエミリー、セレスト、イヴ、アリスたちの姿があった。

彼女たちは山ほどのもやしを運んで、こっちに向かってくる。

「どうしたんだみんな」

「低レベルの嘘つき」

イヴにいきなりチョップされた。

「え?」

「午後のニンジンサボった」

「そうかごめん! こっちに夢中になってた」

イヴはむすっとしている。午後にみんなとダンジョン潜るときは通過する地下二階でついでにニンジンをドロップさせて彼女に渡すようにしている。

「夢中!? 夢中になった、その女と夢中。ううん違うわ、リョータさんはそういう夢中をしない。きっとわたしの時と同じ――って余計にまずいじゃないの!」

「どうしたセレスト、いきなりセルフツッコミなんかしたりして」

「なんでもないのです。それよりヨーダさんにもやしを届けに来たのです」

「ありがとう……ってなんで?」

「冒険者の人からヨーダさんがここでやってる事を聞いたです」

「すごいねリョータ! みんなが『あのリョータ一家のリーダーが』って噂してた。あたしリョータがそんなに有名人だって知らなかった!」

興奮するアリス。

噂……? ああ偶然通りかかった冒険者たちが街にもどって噂してるのか。

「はいです、それを聞いて追加でもってきたです」

微笑むエミリー。

四人がもってきたのはかなり大量のもやしだった。

最初に集めたのよりだいぶすくないが、それでも目算で二十万ピロ分はある。

「みんなで集めてくれたのか」

エミリーはハンマーをもちあげ、セレストはバイコーンホーンをかざした、アリスはホネホネとプルプルをモンスターサイズに戻して、イヴはニンジンを取り出した。

「それはおれと関係ないよね!」

イヴに思いっきり突っ込んでから、改めて四人の仲間たちを見つめて。

「ありがとう」

と言った。

四人は微笑みかえしてくれた。

夜、おれたちはニホニウムの表に戻ってきた。

マーガレットがナウボードに近づき、それを操作する。

―――1/2―――

レベル:96/99

HP F

MP F

力 F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運 F

―――――――――

仲間たちから歓声が上がった。

みんなの協力のおかげで、彼女のレベルは無事96まで上がった。

「……」

振り向き、おれを見るマーガレット。

こっちまでドキドキしてきた。

いけるのか? それともあれだけだったのか。

心臓がぱくぱくする。

マーガレットに頷きかえす、彼女は深呼吸して、ナウボードを更に操作した。

ごくり……と生唾を飲む。

―――2/2―――

植物 D

動物 D

鉱物 D

魔法 D

特質 D

―――――――――

レベル96、ドロップオールD。

予想したオールAをおれはほぼ確信した。

仲間たちからさらなる歓声があがった、事前に説明したからだ。

「ありがとう!」

マーガレットがおれに抱きついてきた、か細い腕でぎゅっと抱きしめてきた。

よほど嬉しいのが分かる。

スライムをものすごい密度で倒して続けて疲れたけど、頑張った甲斐があったとおれは思ったのだった。