軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

543.歴史じゃない

「噂をすればなんとやら、だな」

「ねえ、こいつはどういうモンスターなのかな。この階はかまいたちだったじゃん」

「レアだろう、ダンジョンマスターは何回も戦ったしテネシンの時にじっくり見させてもらった。こんなやつじゃなかった」

「何いってんのおじさん」

さくらが呆れた様な声でいった。

「え?」

「ダンジョンの中もモンスターも全部変わってんじゃん。だったらダンジョンマスターも変わるじゃん?」

「そうだった。うん、確かにそうだ。あれじゃ妖怪じゃなくて前のアンデッド縛りだもんな」

さくらの言うとおりだった。

盛大にうっかりをかましてしまって、自分の早とちりが恥ずかしかった。

ゴホン、とじゃっかんわざとらしく咳払いして、改めてヤマタノオロチを見る。

階段の前で鎮座するそいつは、距離が離れている事もあってか、攻撃してきていない。

「うごかないな」

「うごかないね」

「近づいたら攻撃してくるのかな」

「どうだろね。ちょっと試して見る」

さくらはそう言って、肌身離さず持ち歩いているスケッチブックを取り出して、ページをめくって「ジェネシス」を唱えた。

スケッチブックから、彼女が描いた絵が具現化し、召喚される。

「なにそれ」

「スライム三兄弟」

さくらはあっけらかんと答えた。

「これ、元ネタあるんでしょ。丸くてなんとか三兄弟」

「そういう歌があるな、懐かしいな」

「あたしが生まれる前だから、聞いた事ないんだけどね」

「え?」

「え?」

俺は驚いた、そんな俺の反応にさくらが驚いた。

「産まれるまえ?」

「うん。パパがCD持ってたのを見た事ある、発売日あたしが産まれる前だったよ」

「……」

俺は絶句した。

産まれる、前……。

それを最初は小首を傾げていたさくらだったが、やがてハッと察して。

「しょうがないしょうがない。だっておじさんはおじさんなんだから」

と、笑いながらトドメをさしてきた。

「生まれる前ってマジかよ……ほんのこないだじゃないか……」

「あたし二十一世紀うまれだもん」

「ぐほっ!」

血を吐きそうになった。

二十世紀の記憶が結構鮮明に残ってます……はい。

俺が心に致命傷を受けている間に、さくらは召喚したスライム三兄弟をうごかした。

縦に三つ重ねた、タワーのようなスライムがみょんみょんとヤマタノオロチに向かって飛んでいく。

全然動く気配のなかったヤマタノオロチだったが、スライムが一定の距離に近づく――間合いにはいるなり、くびの半分が一斉に口を大きく開いて、炎を吐き出した。

灼熱の炎が、スライム三兄弟を一瞬で焼き尽くした。

「うっわー、えぐいねこれ。跡形もないじゃん」

「喰らいたくないな、それは」

「喰らったら死ぬ?」

「余裕で死ねそう。俺の火炎弾よりも大分火力がエグい」

「そっかー。みた感じ、パワーもさ」

「うん、弱いわけないな」

間合いのそとには攻撃してこないから、俺とさくらはその場にとどまって、ヤマタノオロチの品評をしている。

階段を完全に覆ってしまう位の巨体、八つ首の蛇――もしくは竜。

どう控えめに見積もっても、パワーが弱いなんて事はあり得ない。

「正攻法はキツそうだね」

「そうおもう」

「でもおじさんはやれるでしょ」

「多分、なんとか」

情報が少なすぎて、俺は断定を避けた。

「でもまあ、攻略するだけなら多分なんとかなる」

「あっ、それあたしもできるよ」

さくらがそう言った。

「史実通りにやればいいんだよね」

「『史』ではないんだけどな」

俺は苦笑いする。

元ネタはあるけど、神話だから、史実っていうのはちょっと語弊がある。

「あたしは一から書かないといけないな、そういうの、用意してないから」

「そうなのか」

「ニンジンとか用意してたらそれでもいいんだけど」

「それやったらイヴが釣れそうだからやめよう」

「だね」

二人で笑い合った後。

「じゃあ俺がやるよ」

といった。

そのまま二丁拳銃を抜いて、両方に回復弾を詰める。

そして――うつ。

回復弾が途中であたって、融合する。

ふだんはあまり使わない、回復弾同士の融合弾――睡眠弾。

それが当って、ヤマタノオロチは――

「あっさり寝たな、予想以上だ」

「史実通りだからいいじゃん別に」

だから「史」じゃないんだけどな、と、俺は二重の意味で苦笑いしたのだった。