作品タイトル不明
544.強くてニューゲーム
「それで、ここからどうするの?」
「とりあえず倒してみよう。この世界のモンスターは、全部倒してからで話が先に進むんだ」
「例外とかなかった?」
「うーん、なかったな」
俺は少し考えて、きっぱりと言い切った。
「保護してるユニークモンスターたちも、最初は倒されてドロップして、そこからのハグレモノ化だったからな」
「サトニウムのみんなね」
「サトニウムはやめて」
俺はちょっとだけ苦笑いした。
サトニウム。
ユニークモンスターたちの村に、よかれと思って村をダンジョンっぽく建造させたせいで、世間はそこを119個目のダンジョン、サトニウムと呼ぶようになった。
あくまで冗談だけど、ちょっと恥ずかしい。
「いいじゃんサトニウムで。異世界チーレムの場合さ、もっとストレートに『リョータ』って名前がつくんだよ、普通は」
「それはそうなんだけど」
俺と同じ転移者、そして俺以上に今の状況を楽しんでいるさくら。
彼女はことあるごとに「チーレムは」と言って、その「お約束」を語っている。
「それに比べたら、サトニウムってひねりを加えられただけマシじゃん」
「本質は一緒だけどね」
「よし、じゃあたおしちゃおうっか。あたしがやる? それともおじさんが?」
「俺がやるよ。多分ドロップSの方がいい」
「ん、わかった」
さくらは頷き、スケッチブックを引っ込めた。
俺は一歩前に進み出て、拳銃+10を構えた。
込めたのは成長弾。
威力最大まで成長させた必殺の弾丸だ。
睡眠をかけてるとは言え、攻撃で起きないとは限らない。
確実に仕留めた方がいい。
「……」
「どうしたのおじさん」
「どれを撃てば良いんだろ」
「全部いっちゃえば?」
「全部か、よし」
一旦銃を下ろした。
もう一丁取り出して、バナジウム弾を使って、加速弾を二発込める。
そのバナジウム弾を自分に撃つ。
超加速した世界に入った。
慎重に調整して、成長弾を次々にうつ。
同時に全部の首に当るように、タイミングを調整する。
超加速した世界の中で弾丸はほとんどすすまない。
すこし待って、効果が切れるのをまった。
加速弾が切れた瞬間、成長弾が一斉にヤマタノオロチの全部の首を撃ち抜いた。
びくん! と体がけいれんした。
断末魔をあげることなく、ヤマタノオロチは倒れた。
そして……ポン、と。
「おっ、すごい、剣だ。これアレだよね、草薙の剣だよね」
「あー……」
「そういえばおじさん、『くさなぎのけん』って聞いて、漢字はどんなの思い浮かぶ? あたしみっつ」
「へ? 三つ? 草薙の 剣(、) と草薙の 拳(、) だろ? 他になにかあるのか?」
「ほら、草彅の件、二文字目が普通使わない漢字で――」
「すとーっぷ!」
それ以上はいけない。
「あはは、ごめんごめん。やっぱり草薙の剣かあ」
「……」
「って、おじさん、さっきからすっごい微妙な顔をしてるんだけど、どうかしたの。これでちゃまずかった?」
「いや、まずくはない」
「じゃあなに?」
さらに聞いてくるさくら。
俺はますます複雑な表情をしてしまう。
「これ、前に見た事があるからな」
「え? 本当に?」
「ああ」
「ヤマタノオロチをもう倒した事があるの?」
「いや、そうじゃない。ヤマタノオロチとまったく関係のないところで出た」
「そうなんだ、で?」
「うん」
俺は「ふう」、と深い息を吐いて。
「これ以外に、鏡と、勾玉」
「おお、三種の神器だ」
「それを三つ集めて、やっとニホニウムに会えた」
「……あ」
さくらはハッとした。
そういうことだ。
これは、既に一度集めている。
全部集めて、最初にニホニウムと会えた。
「つまり……」
「やり直しってわけだ」
俺はあはは、と乾いた笑みを浮かべた。
「そっかー。まっ、いいじゃん」
「え?」
「強くてニューゲームみたいで、これはこれでたのしいじゃん?」
さくらはポジティブに笑っていた。