軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54.魔法使いの憂鬱

すっきりとした目覚めの朝。

部屋の外からいいにおいがしてくる、リビングに出ると、エミリーが朝食を並べている最中だった。

「おはようですヨーダさん」

「おはよう……ってセレストどうしたんだ?」

「おはよう……」

食事のテーブルで、セレストがしおれた花の様になっていた。

顔色があまりよくなくて、今にも倒れそうな感じだ。

「あたまが痛いみたいです」

「頭痛? 風邪でも引いたか?」

「ちがうの、魔力嵐なの」

「魔力嵐って、あの魔法が使えなくなる自然現象の事か」

セレストが力なく頷く。

「魔力嵐が来ると、頭が重くてズキズキするのよ」

「あー……おれも低気圧の日はすっごい頭痛くなるから気持ちはわかる。何か薬とか買ってきた方がいいか?」

「大丈夫……魔力嵐が過ぎればケロッと戻るから」

「そうか」

セレストが当たり前の様に言った。

そこまで言うのならそうなんだろうな。

魔法使いのセレストはどうやら、魔力嵐が来たときは魔法が使えないだけじゃなく、体調もものすごく悪くなるようだ。

「それじゃ、今日はダンジョンに行くのやめるか」

「ううん、リョータさん達はいつも通りいって。わたしは大丈夫だから」

「いや、せっかくだから」

おれはセレストに微笑みかけた。

「今日は不動産屋に行こう」

前から延び延びになっていた新居探し。

ダンジョン潜りに向かない日なら、そっちをやろうと提案した。

午前中はニホニウム地下四階で体力をDからCにあげた。

朝ご飯の後すぐに不動産屋にいってもよかったけど、セレストが動けるようになるまで時間がかかるから、その間に能力を上げた。

能力あげはポーチを活用した。

倒して1ずつあげるんじゃなく、倒して、ポーチに吸い込んだ体力の種を、最後にまとめて使った。

能力アップの脳内コールがまとめてコールされて、レベル1ではぐ○メタルを倒した時の様な連続アップ。

午前中の稼ぎは、違った意味で脳汁が出て気持ちよかった。

昼を過ぎて、エミリーとセレストと合流して、街中を歩いた。

魔力嵐の影響で、街には魔法使いの姿が大勢見かけられた。

飲食店なんかは「魔法使いデー」、「魔法使いの来店ポイント10倍」、「団体客なら魔法使い完全無料」などなど。

ここぞとばかりに儲けようとしてる。

そんな魔法使いの一人、セレストはまだちょっとしんどそうだ。

「大丈夫か」

「だいぶよくなったわ。無理は出来ないけど、普通に過ごす位は平気だわ」

「そうか」

「そもそも今回のは街でなら魔法が使える方だから、そんなにつらくはないのよ」

「あれでつらくない方か……」

魔法嵐は規模によって、ダンジョンだけ魔法が使えない、街でもダンジョンでも魔法が使えない、の二種類がある。

感覚的にも今のセレストの証言的にも、街で使える方は規模が小さい方みたい。

それでもしんどそうなんだけどな。

色々世間話してると、不動産屋に到着した。

中に入ると知っている顔があった。

物腰の柔らかい青年――アントニオは立ち上がって、おれ達を出迎えた。

「やあサトウさん、お久しぶりですね。今日はどうしたんですか?」

「新しい部屋を借りようと思って」

「そうですか」

アントニオはニコニコ笑顔で頷き、セレストの方を見た。

「新しい仲間だ、彼女をいれた三人で住める家がほしい」

「はい! こちらへどうぞ」

ニコニコ営業スマイルのアントニオに案内されて、客用のソファーにすわらされる。

腰を落ち着かせるとアントニオが聞いてきた。

「それで、どのような物件をお望みですか?」

「3LDKが最低条件だな、というか寝室が三つはほしい」

「客間もあった方がいいんじゃないのかしら」

「客間か」

「ええ」

セレストは頷き、ちらっとエミリーをみた。

エミリーは「?」と小首を傾げた。

「一緒に住んでて思ったけど、たまに誰かを連れてきて、自慢したくなるの」

「分かる!」

セレストの意見に全面的に同意する。

「エミリーハウスがいかにすごいか自慢したくなる時あるよな。というか悪党を連れ込んだらいやされて改心するんじゃないかって思った時がある」

「わたしは死霊系のモンスターを連れ込んだらどうなるか気になるわね。あの神殿の様な波動に浄化されるんじゃないかって」

「ありうる」

うんうんと頷くおれとセレスト。

「ないです、二人とも変な事をいわないで下さいです」

「いやいや、変なことじゃないぞ。なあセレスト」

「ええ、エミリーの癒やしは間違いなく世界一よ」

「もう! お二人とも冗談ばっかりなのです……」

エミリーはちょっとふてくされた、本気で言ってるだけなんだがな。

「ちなみに予算は」

「月三十万」

おれは即答した。

根拠は、前のが十五万ピロで、せっかくだから倍のところに引っ越そうという考えだ。

「三十万!」

「そんなにですかヨーダさん」

「そんなにでもないだろ。三人で出撃して親子スライムを最大効率で狩った場合一回あたり12万ピロだ。30万なんて一日で稼げる額だ。それに何より」

セレストとエミリーを見つめて、

「二人といいところに住みたい」

と、言った。

セレストもエミリーもびっくりしておれを見つめ返した。

今、亮太一家のサイフはおれが握ってる。

ドロップ品の買い取りをした金は全部おれのところに入って来てる。

そのおれの感覚は「稼いでる」、二人と一緒に稼いでる。

稼いでるのに仲間に還元しないのは論外だし、そもそも一緒に稼いだ金だ。

一緒に稼いだ金をみんなのために使う。

ただそれだけの事だ。

「ありがとう、リョータさん」

「ありがとうです」

「お礼を言われる事じゃないけどな。金だってみんなで稼いだものだし」

「では、物件の方はこういったものだとどう――」

「うっ!」

アントニオが物件の資料をだしてくれたそのとき、セレストが急に頭を押さえてうめいた。

「どうしたセレスト」

「ちょっと……頭が」

「頭? 魔力嵐のせいか?」

「そういえば午後から嵐が強まって、街でも使えなくなると予報で出てましたね」

アントニオが眉をひそめていった。

そういうこともあるのか。

「そちらのお客様は魔法使いの方でしたか」

「そうなんだ……そうだ、魔力嵐が来ても体調が悪くならない建物ってのはあるのか?」

街中でみた一連の「魔法使いデー」のサービス、そしてほとんど自然現象――天候のような感じの魔力嵐。

もしかしたら? と希望を込めて聞いた。

「こんな日ですから、一軒だけ、しかも予算からはみ出て――」

「それを見せてくれ」

アントニオに案内されたのは、シクロの西側にある三階たての一軒家だった。

一階は魔法カートを複数台おける駐車場になってて、二階は風呂とかキッチンとかリビングといった共用スペースになってる、三階は寝室が三つある。

そんな間取りだ。

間取り的にも完璧だが、なにより――。

「頭痛が……ひいたわ」

「本当か!」

家に入って、ドアを閉めるなりケロッと体調がよくなったセレスト。

「ええ、こんな効果のある家ってあるのね」

「本当にもう大丈夫です?」

「びっくりするくらい」

本人がいうように、驚く位体調がよくなっていた。

「いかがでしょうか」

アントニオが聞いてきた。

「すごくいい」

「ここって月いくらくらいです?」

「40万ピロ、最新の魔力嵐完全遮断工法をつかってますので、同じ間取りのものよりも三割割高なんですよ」

「40万……」

「さ、さすがにそれは――」

「ここに決めた」

眉をひそめるエミリー、恐縮して辞退しようとするセレスト。

そんな二人に変わっておれが決断した。

びっくりする二人。目を見開いておれを見る。

「これで頭痛がひくのなら安いくらいだ」

そう言うと、セレストは目をうるうるさせておれを見た。

「リョータさん……ありがとう」

こうしておれ達はこの一軒家に引っ越すことになり。

住処も、また一つランクアップしたのだった。