軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.特殊ダンジョン

次の日、新居のリビング。

引っ越した直後だというのに、家は早くも暖かさに包まれていた。

ものはほとんど増えていない、生活感はないに等しい。

それでも、まるでおばあちゃんちのような暖かさと安心感を覚える家になった。

「エミリー恐るべし」

「本当。何がどう違うのかしら」

「これでテントをいれて四箇所目だけど、おれにはまったく分からないから見つけるのを諦めた」

「そんなに経験しても分からないのね」

キッチンで朝飯を作ってるエミリーをみて、セレストは悩ましいため息を吐いた。

「もう現象だと思うようにしてる。エミリーがいれば明るく温かくなる、エミリーがいなかったら普通の家。そう思うことにしてる」

「そうね、わたしもそう思うことにするわ」

「現象といえば、今日も魔力嵐が続いてるな」

「今日いっぱいまで続くようよ」

セレストは質の違うため息をついた。

がっくりうなだれて、自分の非力さを嘆くかのようだ。

「今日もわたしはダメだわね。ドロップ全部Fだし、こう言うときは魔法も使えないし、本当だめね」

「気にするな、こう言うときは思う存分休め。家のなかだと平気なんだろ?」

「そっちはびっくりするくらい平気。こういう建物ってあったのね」

「それはよかった。それだけでもここを借りた甲斐があった」

「……」

セレストは驚いたように目を見開かせて、直後に何故か頬を染めてうつむいてしまった。

「あの……」

「うん」

「ありがとう……」

「気にするな。亮太一家の仲間じゃないか」

「……うん」

セレストは穏やかに微笑み、そのまま頷いたのだった。

魔力嵐でセレストが病欠なので、今日もおれは単独行動をとった。

午前中はニホニウムで体力をDからCにあげた、二段トドメが必要なマミーにもすっかり慣れて、完全に周回気分で楽々狩ることができた。

午後はまずテルルの地下一階でスライムを狩ってもやしを生産した。

こっちはもっと楽作業気分だが、楽すぎてちょっと飽きが来そうだった。

しょうがないからたまに特殊弾を混ぜる、20体に1体の割合で作業じゃない、テクニカルな倒し方をした。

そうしてスライムを倒し続けて、魔法カートの機能を使ってぴったり4万ピロ分ゲットして、シクロに戻って買い取り屋に持ち込んだ。

「はい、ぴったり4万ピロです」

「サンキュー……ってあれ?」

「気づきました?」

おれに買い取りの金を渡してくれたエルザが苦笑いした。

そりゃ分かる。

4万ピロは普通にやれば1万ピロ紙幣が4枚だ。

しかし今もらったのは1万が3枚で、1千のが10枚だ。

4万ピロには違いないから、問題はないんだが。

「細かくなっちゃってごめんなさい、最近お金の流通がちょっと減っちゃってるんです」

「そうなのか」

「ダンジョンを管理してた国のお役人が汚職でつかまってるから、生産量が一時的に減ってるんですけど、その人の罪も確定したし新しい役人も就任したから、もうしばらくしたら普通に戻ると思います」

「そうか……うん? まって、今の話って、お金もダンジョンからドロップされるって事なのか?」

「そうですよ?」

エルザは首をかしげて、頭の上に「?」をいくつも浮かべたような状態で聞き返してきた。

何をあたり前の事をきいてるんだ? って言われたような気がした。

そうか、お金もダンジョンドロップなのか。

今もらった一万ピロと一千ピロの紙幣と、ポケットの中からコインをいくつかとりだした。

あたり前のように使ってるこの金も、この世界ではダンジョンドロップで生産されるって事か。

まてよ、って事はその生産するダンジョンを握ってる国はいくらでも金を――。

ってまあ、それは向こうの世界でも同じか。国はその気になればいくらでも金を作れる、その上で量を管理してるんだ。

こっちでもきっと同じ事なんだろうなあ、だからこそ役人云々の話になったんだ。

「ありがとう、また来る」

「はい、また来て下さい!」

エルザの笑顔に見送られて、おれは店を出た。

紙幣を大事にしまって、一番でっかい500ピロのコインを取り出して、親指ではじいてはキャッチするを繰り返した。

これがダンジョンドロップねえ。

今まで気にはしてなかったことだけど、いざ知ったら面白いと思った。

あらゆる物がダンジョンドロップするこの世界はやっぱり面白かった。

ドン!

「おっとすまねえ」

考え事しながら歩いてると通行人とぶつかった。

もてあそんでいたコインをキャッチし損ねて地面に落とす。

車輪のように転がっていく500ピロのコインに追いついて踏んづけて確保。

腰を屈んで、土がべっとりついたコインを拾い上げる――瞬間。

何かがひらめいた。頭の中を白い光が突き抜けて行った。

落としたコイン、無くしそうだった。

無くす、手元から離れる、持ち主がいなくなる。

――ハグレモノ。

自分でも分かるくらい、目を大きく見開かせていた。

シクロの郊外、何度も通って使った人気の無い場所。

そこに一万ピロの札を地面に置いた。

離れて、しばらく待っていると、紙幣がハグレモノに孵った。

鳥だった。都会で見かけるカラスの三倍近くはあるでっかくて黒い鳥。

そいつがいきなり羽ばたいて――おれとは反対方向にむかって飛び出した。

猛スピードで逃げられた!

「逃がすか!」

銃を抜いて弾を撃つ。

弾がすっ飛んでいって鳥を追う。

鳥は気づいたみたいで急旋回して避けた。

「機動性が高いな、ならっ!」

今度は追尾弾を、それも念の為に二発撃った。

左右から弧を描いて追尾する特殊弾、鳥はアクロバティックな飛行で避けようとするが、弾はしっかり追尾して、二発とも鳥を撃ち抜いた。

鳥は空中で絶命して、ポンと何かをドロップした。

それが落ちた場所に向かって行き、まわりをくまなく調べる。

それらしきものを見つけて、拾い上げる。

「これは……鍵か?」

鳥がドロップしたのは宝石の様なオブジェがついた鍵だった。

お金から孵ったハグレモノ、宝石の様なオブジェ。

多分これが鳥のドロップで間違いないんだろうなと思った。

「それはいいんだが、どう使うんだこれ」

鍵をジロジロみて、触ったり突っついたり軽く弾いたりしてみた。

ふと、頭の中に声が聞こえた。

特殊アイテムがドロップした時に聞こえる、使い方を説明する声が。

「こうかな?」

それに従って、鍵をもって空中でひねる動作をした。

次の瞬間どこかに飛ばされた!

シクロの野外にいたのが、急にダンジョンの中に飛ばされてきた。

神殿の様な、廃墟の様な、広大な空間の洞窟。

そこにモンスターが一体だけいた。

一見して女の姿だったが、人間ではないのがあきらかだった。

体が妙に青白くて透けてて、足もなくて空中に浮かんでる。

ニホニウムのモンスターがアンデッド系だとすれば、こっちはさしずめレイス系モンスターってところだ。

あの鍵はどうやら、特殊ダンジョンに入るためのアイテムだったみたいだ。

「どのみちモンスターなら倒すまでだ」

自分でもわかる、口角に笑みが浮かんでいる事に。

この世界で――お金さえもダンジョンドロップで生産する世界では、モンスターは実質宝箱のようなものだ。

それもこんな特殊な形で入るダンジョンのモンスター、期待しない方がどうかしてる。

レイスがゆらゆらと向かってきた。

迎撃に銃を撃った。

通常弾――すり抜け。

冷凍弾――すり抜け。

火炎弾――すり抜け。

回復弾――すり抜け。

追尾弾――すり抜け。

次々に弾を撃ったが、全部がすり抜けて当たらなかった。

最後に拘束弾をうって――効果があった。

弾が途中でぱあと光って、レイスの体を光の縄が縛り上げた。

そして、光の縄が縛っているところだけ、透けてなくて実体が見える。

とっさに追尾弾を込めてうった。

するとさっきはすり抜けてまったく効果なかった追尾弾が、縄が縛ってるところを撃ち抜いた。

レイスが人にはおよそ出せない悲鳴をあげる。

どうやら効くみたいだ。

拘束されてることもあって、おれは通常弾に切り替えて、肉薄してゼロ距離から実体化してる箇所に連射した。

レイスはさらに悲鳴をあげて、ゆっくりと空気に溶けるように消滅した。

ドロップしたのは赤い液体が入ったガラスの瓶だ。

それを拾い上げると――なんとダンジョンから一瞬で元の野外に戻された。

なるほど、鍵一個につきモンスター一体の特殊ダンジョン、ってあたりか。

えっと、金を稼いで、その金をハグレモノ化して、それで鍵を手にいれて、鍵で特殊ダンジョンにいって、ゲットする。

だいぶ面倒臭い手順だけど、さて効果はどうかな。

おれは瓶の口をあけて、赤い液体を一気に飲み干した。

液体が一瞬で体に染みこんでいくのが感覚で分かる、即効性があるみたいだ。

そして。

――植物ドロップが10分間3ランクアップします。

今までのと微妙に違う、ある意味まったく違うカテゴリーのアイテムだった。