軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.SとAの戦い

朝の日課、ジョギングのノリでニホニウムのダンジョンにやってきた。

入り口にナウボードがあったから、能力をチェックしてみた。

―――1/2―――

レベル:1/1

HP S

MP F

力 S

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運 F

―――――――――

相変わらず、レベルは1固定のまま。

しかし地下一階でHPをSまであげたのと同じように、地下二階で力もSまであげきった。

ということで、今日から地下三階だ。

スケルトンの地下一階、ゾンビの地下二階をスルーする。

何度も壁の中から現われて奇襲されたりしてウザかったけど、とにかくスルーして地下三階に来た。

地下三階はそれまでの空気とほぼおなじだった。

薄暗くてジメジメした天然の洞窟っぽいところ。

早速モンスターがあらわれた!

地面を突き破るように出てきたのは、全身包帯の人型のモンスター。

サイズは人間とそんなに変わらない、強いていえばプロレスラーくらいちょっと大きいってレベル。

ミイラ男、あるいはマミーって呼ばれてるタイプのモンスターか。

ちょっとホッとした。

このニホニウムは地下一階にスケルトン、二階にゾンビがいる。

この世界のダンジョンはなんだかんだでダンジョンごとの傾向とか特色がある。

ここもそんな感じで、同じアンデット系のマミーが出てきた。

同じだとやっぱりホッとする。

ホッとしたから、早速確認だ。

向かってくるマミーに向かって銃を撃った。

体格は良いから当てやすかった――がよろめくだけで更に前進してくる。

ちょっと焦って連射した、シリンダー分を全部頭にぶち込んで、ようやく頭を吹っ飛ばして倒せた。

十数発の銃弾でなんとか倒せた。

ちょっと冷や汗をかいたが、モンスターのドロップ自体は いつも通り(、、、、、) 。

ニホニウムは通常何もドロップしない、ただし能力に「ドロップS」を持ってるおれだけが、おれにしか持てないものをドロップする。

種。

種を手に取った、すぐに手のひらの中に溶けて消えた。

――速さが1あがりました。

これも同じで、ホッとした。

どうやらこの地下三階では速さが上がるみたいだ。

そうと分かればテンションが上がってきた。

おれはマミーを探して回った。

「うお!」

マミーの奇襲を受けた!

壁が崩れていきなり現われて! おれに組み付いてきた。

抵抗する。

ちょうど銃口がマミーの体を向いてるから連射した。

パンパンパンパンパン!

銃弾をしこたま撃ち込むが大して効いてない。

とっさに前蹴りを放って蹴り飛ばして、そのまま回し蹴りを叩き込んだ。

マミーの体が「く」の字に……と思ったらそのまま腰からちぎれて真っ二つになった。

地面に落ちたマミー、また種をドロップする。

拾って、考える。

上の階と違って、ここは銃だと効率が悪いな。

直接殴った方が、力Sで物理的に殴った方がいい。銃は牽制とかにした方がいいみたいだ。

そうと決まったらおれは軽く拳を握ってマミーを探して回った。

上の階に比べてちょっと疲れたけど、昼までに無事、速さをFからEに上げる事が出来たのだった。

シクロの街に戻ってきて、ホローホローという店にやってきた。

大衆食堂みたいなところで、客層は冒険者がほとんど。

様々な冒険者で賑やかな店だ。

席を取って、適当に軽食を注文する。

今日はここでエミリーと待ち合わせだ。

午前中の日課、ニホニウムに籠もるときは魔法カートはいらないから、その間、アルセニックで岩を割って花を大量ドロップさせるエミリーに預けた。

花は大量にびっしり積めるから、エミリーも結構稼げるはずだ。

エミリーはどれくらい稼げるのか、おれはわくわくしてそれをまった。

しばらくして、影がおれをおおった。

「エミリー」

来たか、と顔を上げる、が。

「やあ、キミがサトウリョータだね」

それはエミリーじゃなかった。

二十代くらいの優男。アイドルの様なあまいマスクのイケメン、そんな感じの男だ。

男はおれの隣にそのまま座った。

「ここいいかな」

「すわってから聞かれても困るんだけど。そもそも他にまだ席があるだろ」

「キミに用事があるんだ。名前を呼んだだろ?」

「そういえば……」

確かにおれの名前を呼んでいたっけ。

あらためて彼をみた。

「お前は?」

「親しい人はネーくん、とか呼んでる。キミもそう呼んでくれて構わないよ」

えー……。

なんか知らないけど引いた。

「いや遠慮する。それよりも要件を」

「うん。あのね、キミいい体してるよね」

「お前そっちかよ!?」

パッと椅子を倒して立ち上がった。

全力で逃げ出したくなった。

「あはは、ちがうちがう。ぼくはホモじゃないよ、よく間違われるけどノンケだよ」

「しょ、証拠は?」

後から変な質問だと気づいたけど、身の危険を感じたからついこう聞いた。

「リル、ラン」

優男が背後に向かって呼びかける、すると二人の女が近づいてきた。

一人は優男よりちょっと年上に見える妖艶な美女、もう一人は逆に年下の十代の女の子に見える美少女。

片方はお姉様キャラ、片方が妹系キャラって感じだ。

「なあに? もうおしまい?」

「もう帰るの?」

「あはは、違うよ。この人がぼくの事をあっちの趣味だと勘違いしたから」

「ああ、そういうことね――」

チュッ。

「そんな事ないのにね」

チュッ。

リルとラン、二人は続けて男にキスをした。

軽いキスだが、恋人同士のキス。

それを――証明をしたあと、二人は離れて、元いた席に戻っていった。

「あの二人はぼくのパートナーでね、公私ともに」

「お、おう……」

「だからぼくは別にホモじゃないんだ。納得してくれたかな」

「あ、ああ……そうだな」

むしろハーレム作ってて死ねとか思ったけど、そういうことならホッとした。

「で、おれになんのようだ?」

「うん、キミの二の腕を触らせてほしいって思って」

「お前やっぱりそっちだろ!!!」

また椅子を倒して、逃げる様に立ち上がった。

「だから違うって。うーん、じゃあ腕相撲、腕相撲しよう」

「腕相撲? なんで」

「昨日の噂を聞いてね。キミがあの大男を一発で殴り飛ばした事」

「……」

ほっとした、というのもちょっと違った。

普通に戻った、真剣になった、だな。

「キミの力――パワーだね、に興味があってね。噂は本当なのかって確かめに」

「……そうか」

「どうかな」

「わかった」

「ありがとう」

男はテーブルの上に右腕をだして、肘をついた。

おれも同じようにして、肘をついて、彼と手を組んだ。

「それじゃ、いくよ」

「ああ」

「レディ……ゴッ!」

号令と共に力を込めた。

ものすごい力だった、やっぱりホモかもしれないしそもそも男と手を組んでるのはいやだから一瞬で終わらせようとしたけど、終わらなかった。

二人の腕がプルプル震えて、力が拮抗した。

本気を出す。

左手でテーブルを掴んで、全力でいった。

均衡が破れる、少しずつおれが押して、やがて彼の手の甲をテーブルに押しつけた。

おれの勝ちだ。

「えええええ!? ネーくんが負けた」

「惰弱ね、レベル上げサボってるからこうなるのよ。たまにはいい薬だわ」

「でもでも、ネーくんに力で勝てる人なんて初めてみた」

「上には上がいるのよ。彼がその上だったってだけ」

彼の連れの二人が後ろでそんなことをいっていた。

二人の――特に少女の方の反応は分かる。

おれは今、力Sになってる。

そのおれが全力を出してようやく腕相撲で勝てる相手。

間違いなく力Aはある。

「あはは、負けたよ、すごいねキミ」

「お前もな」

力Aの男、おれは密かに警戒した。

もはやホモ疑惑は一割くらいしか残ってない、普通に警戒した。

そうして、彼を見つめる。

にらみ合う――かと思えば、かれはおれの視線を受け流してニコニコ笑ってる。

「なんだ、もう終わったのかボウズども。どれ、おれが本当の腕相撲ってのを教えてやろう」

横から中年男がやってきた。

ひげ面のごつい男、海外のプロレスラーみたいな見た目の男だ。

そいつはどかっとおれのテーブルにすわって、肘をついて腕相撲を持ちかけた。

大男につれがいた。

こっちはいかにも普通な感じで特徴のない普通の青年。

彼が止めに入った。

「お、おいやめろよ」

「なあに、ひょろひょろもやしどもに世間の厳しさを教えてやるのさ。授業程度にな」

「そうじゃなくて、その男はネプ――」

「わかったよ」

優男はニコニコ笑って、座り直して大男と手を組んだ。

腕の太さは、ざっと三倍。

並べると優男の細さが際立って見える。

優男は大男のつれにいった。

「じゃあ、号令をお願い」

「いや――」

「お願い」

優男がいった、青年は息を飲んだ。

「じゃあ、授業開始だね」

「がははははは、おお、優しくしてや――」

パン!

ものすごい音がして、何かがテーブルにたたきつけられた。

大男の腕だ。

そいつの腕は一瞬で本来曲がっちゃいけない方向に曲がって、ぐにゃってなった。

「――うぎゃああああああ!」

大男が悲鳴を上げ、つれの青年がこめかみを押さえた。

「おれは止めたぞ。すいません、ネプチューンさんですよね。こいつ馬鹿なんで、腕一本で勘弁してやって下さい、お願いします」

青年は腰九十度に頭を下げた。

優男――ネプチューンと呼ばれた男は相変わらずニコニコしている。

「なに言ってるんだい、ぼくはしかけられた腕相撲をしただけ。それ以上なにかをするわけがないじゃないか」

「ありがとうございます」

青年はもう一度頭をさげて、大男を連れて店を出た。

治療しに行くんだろう。

「ネプチューンだって?」

「バカお前気づいてなかったのか? リル姫とラン姫もいる、どこからどう見てもネプチューン一家だろ」

「本物はじめてみた」

「待て、だったらあのネプチューンに腕相撲で勝ったあっちは何者だよ」

「分かってるのは一つだけ……どっちもバケモノだって事だ」

昼の店内はざわざわし出した。

ネプチューン……どっかで聞いた事のある名前だな。

もちろん海の神とかそういうことじゃなくて。

おれはまだこの世界に来て間もない、人名で聞いた事になると、大抵は「こいつすげえやつだ」っていうタイプの噂話だ。

ぱっと思い出せないけど、多分ネプチューンはそういうカテゴリーの人間だ。

「ねえ、もう一回腕相撲してくれる?」

「……やめとこう、これ以上は騒ぎになり過ぎる」

「えー、しょうがないなあ。分かった。リル、ラン」

ネプチューンは二人の女を呼んだ。

かえってくれるのか――と思っていたら。

空気をさく音がした、同時に、世界がスローモーションになった。

まずい、これはまずい、何も認識出来てないけどこれはまずい。

おれは反射的にパンチを放った。

力Sで、命を守るための全力パンチ。

どーーん!

爆発音がした、衝撃波が広まった。

間にあるテーブルが衝撃波に巻き込まれて木っ端微塵になった。

よろめいたが、なんとか踏みとどまった。

「何をする」

「やるねキミ」

ネプチューンの腕がだら、って下がっていた。

血まみれでボロボロになってる。

おれは打ち合ったのが彼の腕、パンチとパンチで打ち合ったのだとようやく理解した。

慌てて自分の手をみた。拳が赤くヒリヒリしてる、手首が捻挫しかかってるようにいたい。

パンチングマシーンを全力で殴ったときの感覚に似てる。

が、なんとか無事みたいだ。

まわりが更にざわざわした。

「ネプチューンさんが……」

「おい、これ本当に負けてんじゃないのか?」

「あいつ本当何者だよ……」

遠巻きにして、怯えた顔でおれ達――主におれをみる客達。

一方で、ネプチューンは実にけろっとしていた。

ボロボロの腕はお姉様――リルって呼んだ女が魔法でなおした。

「キミいいね、ねえ」

「……なんだ」

「キミ、ぼくのものにならない?」

「おまえやっぱりホモかよ!」

敵意がまったくない彼のセリフに、おれは釣られるようにして、思わず突っ込んだのだった。