軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.事故じゃないんです

朝、今日はダンジョンに向かった。

ニホニウムの地下二階でゾンビを倒して種ゲットして、力をSまであげた。

これでHPに続いて力もSだ、つまり地下二階コンプリート。

明日から地下三階だな。

スケルトンにゾンビ、地下三階はどんな魔物になるのかに想像をはせつつ、ニホニウムを出た。

なじみの「燕の恩返し」にやってきた。

魔法カートの中身は全部もやしだ。

その魔法カートを押して店の中に入って、店員を探す。

エルザがいた――が彼女は他の客の買い取りをやってる。

目が合った、申し訳ない表情をされた。

また後で、と口パクとジェスチャーで伝えて、空いてる店員のところに持っていった。

「いらっしゃいませー。あっ、サトウさんじゃないですか」

「やあ。お前はたしかエルザと親しい……」

「イーナ・ミストラルよ。エルザは――あっ、取り込み中だね」

「いいよ、今日はこの後もくるから。それよりももやし、買い取りお願い」

「はい、今計算しますね――あれ?」

エルザの親友、イーナは驚いた。

「ぴったり40000ピロですね」

「そうなるように持ってきたんだ」

魔法カートの新機能があって、もやしみたいな量の調整がしやすいドロップだから、そうした。

ちなみにちょっと余った分はハグレモノ経由で銃弾に変えた。

「端数ない方がそっちも楽だろ」

「ええ、まあ」

イーナはおれをじっと見つめた。どうしたんだろ。

「そうきたか……こりゃエルザがメロメロになるのも分かるわ」

「え? いまなんて?」

「なんでもないですよー。それじゃ計算しやすくしてくれてありがとうございます。はい、40000ピロです」

「どうも」

「またよろしくお願いしますねー」

イーナがそう言って、おれは魔法カートを押して外に出ようとした。

さて、次はテルル地下二階でニンジンを――。

「おかしいだろうがよぉ!!」

ドン! って何かを叩く音と、男の野太い声が店の中に響き渡った。

多数の冒険者が買い取りアイテムを持ち込んでくる活気づいた店内は一瞬で静まりかえった。

どうしたのかと立ち止まって声の方角をみた。

エルザのいるカウンターが、男に殴られて半分崩壊していた。

エルザは顔を青ざめさせて、怯えている。

「で、でもお客様、集計の結果が――」

また、ドン!

今度は地面を思いっきり踏んだ。

まわりまでビクッ! ってなるくらいの衝撃で建物が揺れた。

「9000ピロだと? そんなのおかしいだろうがよ、おれはちゃんと、10000超えるように持ってきたんだ。客の持ち込みをごまかしてんのかここは」

ごまかしてる訳ないだろ。

ついさっき40000きっちり量ってもりこんで、何もいわないでいたらぴったりに驚かれたんだから。

というかこういう商売やってて1000ピロ程度ごまかして信用落とす意味がわからない。

「どうなんだよ、おい!」

「ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないだろ――」

男は腕を振り上げた。

弓引いて、エルザにむかって振りかぶった。

誰もが息を飲んだ。

パン!

ピキーン!

男の腕が凍った!

とっさに冷凍弾を込めて男を撃って、腕ごと半身を凍らせたのだ。

「なんじゃこりゃ!」

「女の人に手をあげるのは、そりゃ違うんじゃないか?」

「はあ? なんだてめえ」

「リョータさん!」

エルザは半泣きで、しかし助かった、ってホッとした顔でおれの名前を呼んだ。

「おいみたか今の」

「一瞬で凍ったぜ? 魔法か?」

「詠唱なかったぞ、無詠唱か?」

「無詠唱魔法がそこまで凍るかよ。ってか魔力も感じねえぞ」

「だが魔法陣はあったぞ?」

他の客ががやがや言い出した。

気にしてる余裕はない、頭から追い出す。

そうして、男と向き合う。

半身を凍らせた男は血走った目でおれを睨んでる。

「てめえ、なんのつもりだ」

「この店の事はよく知ってる、量とか買取額をごまかさないいい店だ」

「なんでてめえに分かるんだよ」

おれは魔法カートを持ってきて、エルザに聞いた。

「買い取りは……ネギかこれ。単価は?」

「えと、えとえと……」

おずおず答えるエルザから聞いた買い取り額を魔法カートに入力してから、男が持ち込んだネギを中に入れる。

一本ずつ入れる、最初は男もエルザも、まわりの客もおれが何をしてるのか理解できなかったが。

「なるほど、魔法カートの機能か」

「中にいれたものの金額を計算してくれるのか、便利だな」

「そんな機能はじめてみた、どこのヤツだ?」

「プログレスって店でつけてくれるオプションらしいぜ」

がやがやするまわりが理解したところで、最後のネギを入れる。

結果、9120ピロだった。

それを男に見せて、言う。

「こうなったけど?」

「そんなものデタラメだ! 誤魔化しがあったんだ!」

「みんな見てる中でどうやって」

「ええ、いちいちうるさいヤツめ!」

男は激高した、こめかみの青筋がヒクヒクした。

「ふん!」

男が力を込めると、氷がはじけ飛んだ。

それだけじゃない、体が倍くらいに膨らみ上がった。

筋肉。

80%とか100%中の100%とか言いそうな妖怪っぽく、筋肉ムキムキな見た目になった。

「邪魔しやがって、てめえは許さねえ!」

男は拳をふってきた。

ぶおおおん!

ものすごい風を切る音がして、拳が飛んで来た。

おれは受けた。

手をつきだして、パンチを手のひらで掴むように受けた。

地面がビシッ、って更に壊れたが、おれは微動だにしなかった。

「なっ、なんだと!」

「ふっ!」

そしてカウンターに渾身の右フック。

男の体は「く」の字に折れ曲がってすっ飛び、地面にたたきつけられた。

白目をむいて、くちから泡をふいてうごかなくなった。

「おいおい……一発でやっつけたぞ」

「魔法使いじゃなかったのか」

「あの男のパワー本物だったぞ……それを上回ったのか……」

まわりが更にガヤガヤするのを無視して、まずは、エルザを宥めようと思ったのだった。

結局男は街の警察みたいなのに逮捕されて、ドナドナされていった。

おれも男をふっとばして店をちょっと壊したが、完全におとがめ無しで、むしろ感謝された。

その後買い取り――通常の業務は普通に再開された。

そしておれは、エルザと店の外にいる。

「ありがとうございました」

「気にするな、あたり前の事をしただけだ」

「本当にありがとうございます……」

エルザに見つめられる。

うっとりした、潤んだ目で。

ちょっと居心地が悪い、こんな風に見つめられるのはあまり経験がないから。

どうしたらいいのか分からなくて、おれは――逃げることにした。

「無事ならそれでいい、それじゃ、また後でニンジンを持ってくる」

「はい……」

魔法カートをおして去っていこうとするが、ふと、引っ越したことをまだ教えてないことを思い出した。

「そうだ、おれは――」「あの――」

振り向くおれ、追いついて話しかけるエルザ。

交錯するふたり――ちゅっ。

濡れた音がした、温かくて柔らかい感触がした。

………………キス?

それだと気づいたの十秒くらい経ってのことだった。

おれは慌てて離れた、エルザは顔を真っ赤にして口を押さえた。

「ご、ごごごごごごごごめん。おれそういうつもりじゃ」

慌てて弁明をする。

いけない、これはいけない。

事故で唇を奪ってしまうなんて、こんなの許されない。

「今のは事故――じゃなくて、本当にごめん。おれに出来る事なら何でもする――」

必死に弁解しようとした、が。

チュッ。

「……え」

濡れた感触、温かい感触。

同じ感触がもう一回。

キス。

エルザからキスしてきたのだ。

「え、エルザ?」

「事故じゃありません」

「え?」

「事故なのはいやです」

「そ、それって……」

「リョータさんだからしました」

エルザはそう言って、更に真っ赤になった顔を押さえて、店の中に逃げ帰った。

おれは、起きた事を理解するまで、おもてにぼうっと立ちつくしたのだった。