軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172.俗物

シクロダンジョン協会、会長室。

俺はアウルムの協力を得て、アウルムダンジョンに設置されたダンジョンデブリ――グランドイーターの石を回収して、ここを訪ねた。

「合計で六つ、か」

向かい合って座る、間のテーブルに置かれた六つのダンジョンデブリを見て、セルは眉をひそめた。

「たしかアウルムは……」

「全部で三階までだ」

「階ごとに二つ置かれていたのか?」

「ああ」

はっきりと頷いた。

ダンジョンの主であるアウルムに感知だかサーチだかしてもらったんだから、この六個で間違いない。

見つかってないままダンジョンに残ってる事はあり得ないのだ。

六つのダンジョンデブリを見て、セルは深刻そうな顔をした。

やがて顔を上げて。

「誰か」

「お呼びでしょうか」

部屋の外から一人の女が入って来た。

切りそろえた綺麗なショートカット、怜悧な美貌にぴったり身を包むスーツの様な服。

ここを訪ねたときに顔をあわせているセルの秘書だ。

「シクロの全ダンジョンを改めてくまなく捜索させろ。階層ごとに一つずつという先入観を捨ててかかれ」

「御意」

秘書は恭しく一礼し、部屋を後にした。

それを見送った後、再び6つのダンジョンデブリに目を向けるセル。

「うかつであった、余の失態だ。階層ごとに一つだけと思い込んでいた」

「そう思うのが当たり前だから気にするな。俺だってそう思ってた」

「ならばなぜ?」

聞き返してくるセル。

「ニホニウムは二つだけだった。それでおや? って思ってさ。もしかして階層ごとに絶対置かれてるわけじゃないんじゃないか。もっといえば二つ以上置かれてるところもあるんじゃないかって」

「ふむ」

「だからアウルムに頼んでアウルムダンジョンをチェックしてもらったんだ」

「うむ、サトウ様はダンジョンの精霊をも使役出来るのだったな」

セルは感心と尊敬がない交ぜになった目をした。

使役って訳じゃないけど、それをあえて弁明する必要もなかったのでスルーしといた。

「冒険者狩りのシステムでわかると思うけど、アウルム……ダンジョンの精霊は自分のダンジョンでおきたことが分かる。異物があるのかどうか、何処にあるのか分かる。それで見つけてもらったんだ。だからアウルムにはもうない」

「サトウ様の言葉だ、疑おうはずもない」

セルはそう言って、再びダンジョンデブリを凝視した。

アウルムの三階層に設置された6つのダンジョンデブリ、6体のグランドイーター。

そこからはっきりとした 殺意(、、) が感じ取れた。

何もドロップしないニホニウムが9分の2に対して、砂金をドロップ――いわば金鉱山であるアウルムは3分の6だ。

何が何でもアウルムを殺してダンジョンを他のところに飛ばすという強い意思が感じられた。

「……もしかして」

「うむ?」

「しかけた相手が分かってるのか?」

「うむ、9割9分確定している。現場と実行犯をまだ押さえていないだけだ」

「誰だ? それをやったの」

「サメチレンダンジョン協会」

「……なるほど」

納得した。

すごく納得した。

メチャクチャものすごく納得した。

サメチレンダンジョン協会、アウルムとインドールの一件でごたついた相手だ。

アウルムがあるインドールという村はかつてサメチレンという街から資金援助をもらって作った村だ。

街はダンジョンが新しく生まれ変わる事を見込んで開拓の形で資金を出して村を作らせる事がある。

サメチレンもそうで、インドールは初動資金をもらって出来た村だ。

しかしサメチレンはその後インドールを放置した、困り果てたインドールがシクロの協会に助けを求めて、俺が派遣された。

アウルムの問題を無事に解決して、インドールはサメチレンから独立し、シクロの傘下になった。

サメチレンからすれば、アウルムがあそこにあるのは非常に面白くないわけだ。

更にいえば。

「アウルムだけじゃなくて、シクロのダンジョンを全滅させようとしてもおかしくないな」

「俗物の行き着きそうな考えである。だがもう意味はない。グランドイーターは確かに凶悪ではあるが、ダンジョンに手のものを常駐させておけば意味を成さない」

「そうだな」

それには全面的に同意だ。

俺が初めてグランドイーターを倒したのと同じように、どんなに強いモンスターだろうとこの世界のルールから逸脱する事はできない。

ダンジョンに常に誰かいればハグレモノは孵らないのだ。

「……ふ、ふふ、ふはははは」

じっと見つめていたかと思えば、今度は天を仰いで大笑いした。

「どうしたんだいきなり」

「可笑しいのだ。俗物どもの誤算がな」

「誤算?」

「うむ、シクロのダンジョン全てにダンジョンデブリ、つまりグランドイーターが仕込まれていた。本命はアウルムであろうが、他のダンジョンも 殺(や) れれば 殺(や) るつもりなのだろう」

「そうだな」

「しかしそれはサトウ様に発見された。最初にダンジョンデブリを発見したのはサトウ様。階層に一つずつじゃなくて二つ以上ある可能性があると発見したのもサトウ様。サトウ様のおかげで、シクロの警戒態勢は万全のものになった。こうなった以上、万に一つもハグレモノがダンジョンで暴れる事態にはならぬ」

セルはメチャクチャ楽しそうにいった。

「俗物どもの企みの全てはサトウ様によって阻止されたという事だ」

「なるほど」

「そして」

「そして?」

また何かあるのか?

「ダンジョン内に、当該階層以外のドロップ品の放置は重大な違反行為だ」

「ああ。その階層のものを放置するとむしろモンスターが増えてドロップも増えるけど、階層のモンスターに特化する冒険者も多いから違うモンスターが出るのは危険きわまりないもんな」

「うむ。かつてそれで犠牲者がでた。その時は事故だった、冒険者が人気の無いところで息絶えて、装備品がハグレモノになってな」

「なるほど」

ちょっと想像してみた。

もし俺がダンジョンの隅っこで死んだら、全身の装備が一斉にハグレモノに孵った時の光景を想像した。

ダンジョンマスター級やレアモンスターが合計十以上、弾丸もいつも大量に用意してるからニホニウムのモンスターが軍勢になって現われる。

それが周回特化した冒険者達に襲いかかる……相当の悲劇になりそうだ。

「それをもって、全てのダンジョン協会の間で合意が結ばれたのだ。故意に別ダンジョン別階層のものを投棄することは重罪だ、と」

俺のケースで考えても分かる。

軽く殺人未遂だからな。

うーん、大量殺人はどういう罪名になるんだ?

どっちにしてもものすごい重罪だろうな。

「サトウ様に感謝する」

「感謝?」

「ダンジョン、冒険者達を守った事はもちろん。グランドイーター級を使われた事をネタに首謀者を叩ける」

「叩くのか」

「相手が協会クラスであればなお都合がいい。それを徹底的に叩いて合意を強化。今後一切ハグレモノを悪用しないシステムも作れよう」

「そうか」

それは……結構大事なことだ。

法律ってのは罰則があってはじめて抑止力が生まれる。

ダンジョン協会クラスの相手を徹底的に叩きつぶせばそれはかなりの抑止力になる。

自分の装備をもう一度見た。

これらがハグレモノになった時、ダンジョンで出る犠牲者の数を考えると、セルには徹底的にやってもらうべきだとますます思った。

冒険者達が安心して、今まで以上に安心して周回して狩りが出来るシステムを作る。

「俺に出来る事なら何でもする、いつでも言ってくれ」

「感謝する」

セルは膝に手をついて、頭を下げた。

高い地位にいながら現場の人間をおもんぱかれる器の大きい人間だ、と感動した――のだが。

ゴトン。

頭を下げたセルの懐から何かがおちた。

拳銃一丁を連射している俺――グランドイーターを倒した時の格好だ。

「なんでそれもあるんだよ!」

「ごほん! いやあ感謝するサトウ様、そして俗物どもはサトウ様がいるところにちょっかいを出したことに後悔するのだな」

「お前が一番の俗物に見えてくるんだけど!?」

盛大に突っ込むが、セルはもういつものすまし顔に戻っていたのだった。