軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

173.サメチレン冬の陣

サメチレンの街。

セルと二人で、馬車の形をした人力車に乗ってここまでやってきた。

シクロの街並みは中世ヨーロッパ風だったのに対して、サメチレンの人や街並みはどちらかといえば中華風な感じがする。

それでいてシクロに負けず劣らずの活気で賑わっている。

この世界の事だ、どんなダンジョンがあって、それでどんな日常を街の住民が過ごしているのかが気になった。

もちろんダンジョンの名前も気になるところだが、今はそれところじゃない。

俺は向かいに座るセルに聞いた。

「サメチレンに着いたけど、何処に行くんだ?」

「ダンジョン協会。そこで協会長であるライナス・ローニンを追い込む」

なるほど。

確かこれを機に合意やルールの強化を図るっていってたっけな。

「それはいいんだけど、なんで俺まで?」

「サトウ様に協力して頂きたい。サトウ様にしかできないやり方で」

「俺にしか出来ない?」

「うむ。余の手のものに任せてもどうにかなるのだが、サトウ様に出てもらった方が話が簡単にカタがつく」

「そうなのか……俺は何をすれば良い」

「一緒にいて、そこそこに話を合わせてくれればそれでいい」

「それでいいのか?」

セルははっきりと頷いた。

落ち着いた目だが、どことなく嗜虐的な光が見え隠れしている。

俺に見せてない野心家的な一面もあったりするのかな? なんて思ってしまった。

屈強な男二人組が引く馬車もとい人力車は目的地に辿り着いた。

車を降りると、五重塔の様な建物が目の前にあった。

セルと一緒に塔の中に入る。

アポイントを取ってるのか、すんなりと入って、豪華な応接の部屋に通された。

しばらく待っていると知ってる顔があらわれた。

インドールの一件でクリントにやり込められた男、サメチレンの協会長。

名前は……セル曰くライナスだったな。

「お待たせしました」

「初めてお目にかかる。余はシクロダンジョン協会の会長、セル・ステムだ。こちらはインドール協会の会長、サトウ様だ」

セルが名乗りつつ、俺の事も紹介した。

そうか、俺インドールの協会長だったんだ。

それは半分方便でインドールの協会は実質シクロ協会の下位組織で、普段はその事をほとんど気にした事がない。

なるほど、俺に同行してくれっていったのはこのためか。

協会長として何か発言を求められるんだろうな。心の準備しとこう。

「サメチレンダンジョン協会長、ライナス・ローニンです」

ライナスは名乗ったが、ビクビクしていた。

こっちが何のためにやってきてるのかを察してるからの反応だな。

「突然の訪問すまない。実はこの頃、シクロとインドールで大変な事が起きてしまってな」

「な、なんでしょう」

「何者かがダンジョンにダンジョンデブリをしかけたのだ」

「そ、そんなけしからん輩がいるんですか」

糾弾する言葉を口にしたが、ライナスの声は震えていた。

目を伏しがちで、俺とセルをチラチラと様子をうかがうように見てくる。

俺がやりました。って自白してる様な反応だ。

「サメチレンにもそのような事は起きていないかな?」

「ど、どうでしょう。そういう報告は受けていないですね」

「そうか。そちも知っての通り、ダンジョンにそのようなモノをしかけるなど重大な違反行為だ。シクロを預かる余としては見過ごせない。真犯人を捜し出さなければならないと思っている……その黒幕もな」

「そ、そうですね」

ますます声が震えるライナス。

セルは遠回しにライナスを脅し続けた。

びっくりする位遠回しに、そしてネチネチに。

それに何も出来ず、あいづちをうつことしか出来ずに、セルが口を開く度にビクッとするライナスは少しずつ追い詰められていく。

栄華を極めたが無惨に丸裸にされた大阪城の事を思い出した。

セルはあんな風に、外堀を埋め続けていった。

「しかし、相手も馬鹿な事をしたものだ」

「え?」

「シクロではこんな風にいわれている。リョータ・サトウを関わらせるな。道理に合わぬ事をして、サトウ様の不興を買ってしまい介入されたばかりに壊滅的なダメージを受けた輩は一人や二人ではない」

そういえばそんな風に言われてるなあ。

クリフォードの後くらいか? それを言われるようになったのは。

俺は普通にやってるだけだけどな。

しかしそれも脅しになった。

道理に合わないことをやったライナスは更に怯えた。

「サトウ様にかかればダンジョンのドロップ時間すら替えてしまう。そういえば聞いたことはなかったが、サトウ様はドロップ自体なくせるのかな?」

「うん?」

いきなり何を聞いてくるんだ――と思った瞬間ハッとした。

これか、話を合わせてくれってのは。

「出来るぞ」

「おお、本当か?」

「ああ」

あえて話を合わせるまでもない、それは普通に出来ることだ。

夜になって屋敷に戻ってくるアウルムを、朝ダンジョンに帰さなければいいだけのことだ。

やろうと思えば出来る。

「さすがはサトウ様。いやはやサトウ様のいるところで不条理な事はできんな」

「そうしてくれると嬉しい」

これは本音だ。

ブラック企業にいた俺は不条理な事を見かけるとつい首を突っ込んでしまう。

それがないというのは普通に嬉しいことだ。

「ところでサトウ様」

「うん?」

「せっかくのサメチレン、ダンジョンを体験していってはいかがか」

「ダンジョン体験? そうだな、確かにサメチレンのダンジョンがどんななのか興味はあるな。……いいですか?」

話を合わせてくれ。

それを思い出して、最後にライナスに聞いた。

これも脅しなんだな。

不条理に俺は首を突っ込む、今まで突っ込んでやられた人間の話をして、更にアウルムの話でドロップなしの可能性を示す。

それをひっくるめてライナスに脅しをかけた。

脅されたライナスは気の毒になるくらい、一瞬で10年くらいふけたように見えた。

そうやってさんざん脅しただけで、セルは結局、突っ込んだ話は一切しなくて、俺と一緒にサメチレンの協会を後にした。

屈強な男が引く人力馬車の中、セルは俺に言ってきた。

「感謝するサトウ様」

「あれで良かったのか?」

「うむ、サトウ様のおかげで完全に主導権を握れた」

「役に立ててよかった。でもよかったのか、要求とか何もいってないけど」

「こちらが完全に主導権をとったのだ、慌てる必要はない。ライナス・ローニンもそれなりの人物、立場を理解して自ら申し出てくるだろう」

「なるほど」

「それに、大樹は倒れる前が一番美味しいのだ」

平然と、恐ろしい事を言い放つセル。

まあでも、今回のはライナスの自業自得だ。

「サトウ様がいなければこんなに上手くは行かなかっただろう。改めて礼を言わせてほしい」

全く揺れない、快適な人力馬車の中でセルは膝に手をつき、俺に頭をさげ。

「ありがとう」

と、言ってきたのだった。