軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

171.底なしの腹

グランドイーターがドロップした輝く石を拾い上げた途端、手のひらの中で溶けてなくなった。溶けたものは淡い光になって、俺の全身を包む。

溶ける感触は覚えがある、よく知ってる。

ニホニウムの種とまったく一緒だ。

……ってことは、これも俺だけか?

今度試してみよう、一度は倒せたんだからリペティションが使える様になった。

セルが山ほど回収してるはずだから、一つ回してもらおう。

それよりも今はこの光だ。

ダンジョンマスターのハグレモノがドロップしたもの、触れた瞬間光になって全身を包む。

これでなにもない、なんてことはあり得ない。

どうなるんだろう、何が起きるんだろう。

俺はわくわくしながら、体の変化を注意深く見守りつつ、それを待った。

光はやがて徐々に小さく、しかし濃くなっていく。

一点に凝縮した光は俺のポケットにあつまった。

ズボンのポケット。光はそこにはいって、完全に消えてしまった。

追いかけるように手を入れる、すぐに異変に気づく。

ポケットから、 底(、) が消えていた。

通常のポケットは手を入れればすぐに袋の底に突き当たる、それがないのだ。

底どころか、 袋(、) そのものが消えた様な不思議な感触だ。

まるで巨大な、底なしの袋に手を突っ込んだかのような感触。

手をいったんだした、試しにもう片方のポケットにも手を突っ込んだ。

同じ感触だ、両方のポケットは同じように底なしになってる。

さっきの手も突っ込んでみた、両手をポケットに入れた。

「うおっ!」

思わず変な声が出てしまった。

思いがけないことが起こった。

ポケットに入れた両手が触れあったのだ。

穴があいたポケットに手を深く突っ込めば触れる事もできる、しかしそれは体のまん中で手が合流しての話だ。

今、俺の両手はそれぞれ普通の位置に、太ももの横のポジションにある。

両手ともだ。

それがそれぞれ、右手の隣に左手の、左手の隣に右手の感触がする。

指を絡める、おかしくなって変則的な指相撲をする。

どうやら、俺の左ポケットと右ポケットは繋がってて。

中は、奇妙な空間になっていたのだった。

家に帰ってきて、自分の部屋にはいった。

今、部屋の中に家具はほとんどない。

ベッドも机も、さっきまであったものが全然ない。

「リョータ帰ってるの――って何これ!?」

部屋に入って来たアリスが盛大にびっくりした。

いきなりがらんとなった部屋を見ればこんな反応もする。

「何があったの?」

「しまっただけだ」

「しまった?」

「出すことも出来る」

俺はポケットからベッドを取り出した。

ベッドはそこそこの重さだが、力SSだからたいした事はない。

取り出したベッドを元の場所に置く。

「で、しまう」

もう一度軽々と持ち上げて、ポケットにしまう。

ポケットよりもはるかに大きいベッドだが、すんなりと呑み込まれてしまった。

「すごい、どうしたのそれ」

「グランドイーターってモンスターを倒したアイテム……か能力かだ」

「なるほど」

モンスターのドロップといわれて納得するアリス。

「すごいねリョータ。ねえねえ、それって何でも入るの?」

「ああ……ほら」

ポケットの中から色々取り出した。

ドロップ品がはいるかどうかをテストしたもやし、加工品が入るかどうかの自分の衣服、ハグレモノドロップはどうかっていう通常弾。

テストのために色々いれたのを出して見せた。

「アイスも入る、ほら」

「おお、すっごい冷たい。その中って冷たいの?」

「そんなこともない」

「ステーキだ! しかもアツアツ!」

「保温はできるけど、中どうなってるのかわからないんだ。手は突っ込めるけど頭はな」

そう言って身を屈んで見せた。

ズボンのポケットだから、当然頭は入らないというか届かない。

「じゃああたしが代わりに入ってみる!」

「え? 入ってみるって――ああっ!」

止める間もなく、アリスは俺のポケットに手を突っ込んで、面白がってる顔をしながらポケットの中に消えてしまった。

「人間も入るのか……」

アリスは手をにょきっと出した。

ズボンから人の手が伸びてくるというちょっと猟奇的な光景になった。

アリスの手はピースをして、再び引っ込んだ。

「中面白いのか?」

彼女の性格を考えるとその可能性が大だ。

戻ってきたら詳しく話を聞いてみよう、そう思ってアリスの帰りを待った。

しかしアリスは戻ってこなかった。

ポケットの中に手を入れると手の甲をつねられた。

かなり楽しんでるみたいだな。

「さて、出てこないんじゃしょうがない。次のテストをしてみるか」

新しい能力を把握するためのテストを再開することにした。

あらゆる物をのみこみ、人間さえも普通に飲み込めることがわかった。

次は何を試そう。

色々考えてみた、すると、このズボンなのか? って気になった。

ぶっちゃけもうあの有名ネコロボのポケットみたいなになってるこれは、このズボンのポケットだけなのか、その事が気になった。

ズボンを脱いで、新しいものに履き替える。

両足を通して、あげようとした瞬間。

「ねえリョータ、中は――うわわ!」

新しいズボンのポケットから顔を出したアリス。

いきなりのことで、びっくりしたこともあって、思わずズボンを取り落とした。

裾の一部がふくらはぎのあたりで裏返りつつ、アリスの頭はゴトン、と床に落ちた。

「いったーい、もう何するのよ」

「わるいわるい、いきなり顔をだすから」

「いきなりじゃないもん――あっ」

「あっ?」

いきなり黙り込んでしまったアリス。

どうしたのかと彼女の視線を――追いかけるまでもなく分かった。

半脱ぎのズボン、見あげるアリス。

「お――」

「何もいうな中に入れ!」

「きゃ、お、押さないでよ」

「いいから入れって」

「わかった、わかったってば――」

「リョータさん、協会長から――」

「「え?」」

ノックと共にドアがあいて、セレストが入って来た。

とてもまずい光景。

ズボンを下ろして、アリスの頭を押さえつけてる。

誤解されかねない光景に。

「そんな……先越され……」

「越してない、越さないから!」

セレストは後ずさって壁に背中を打ち付け、アリスはポケットから慌てて飛び出した。

説明して誤解を解くのに、ちょっとだけ時間がかかった。

「そ、そうだったの……」

説明を聞いたセレストはあきらかにホッとした。

ズボンをはき直した俺はポケットの中からベッドを――意図的に普段からじゃあり得ないものであるベッドを取りだした。

それを見たセレストは「わぁ……」ともらした。

これで誤解は完全に解けたとほっとするのと同時に。

「ズボンを履きかえてもいけるのか、しかも繋がってる」

「ズボンじゃなくてリョータの力になってるね」

「そういうことになるわね」

「ねえねえ、中に入れたまま運ぶってのも出来るのかな」

「運ぶ?」

アリスを見つめて、聞き返す。

「うん! こんな風に」

「うわっ! ちょっとアリス!」

止める間もなく、アリスは再び俺のポケットの中に潜り込んできた。

そしてにょっきりと顔を、頭だけをだした。

「セレストもきなよ」

「え? わ、私?」

セレストは首だけでてるアリスと俺を交互に見比べた。

「私が……リョータさんのズボンの中……」

「ポケットの中だから!」

「いいから来て」

アリスは更に手を出して、セレストを引っ張り込んだ。

セレストは「ひゃん!」と悲鳴をあげたが、普通に何事もなくポケットの中に引きずり込まれた。

「それじゃ、移動よろしく」

「……ああ」

強引に押し切られたが、アリスの言いたい事は分かった。

ついでにもう一度ベッドをポケットにしまってから、部屋を出て廊下を歩いた。

様々な家具、そして人間二人をポケットの中に入れてるのに重さを感じない。

力がSSだから重くないんじゃなく、そもそも重さを感じないのだ。

廊下を歩いて、庭に出てぶらつく。

「どう?」

「見ての通り庭だ」

「おお、移動出来るんだね」

「本当だわ……」

「ねえ、この状態だとどうかな」

左右のポケットから首だけ出すアリスとセレスト。

「まるでカンガルーだな」

「何それ」

「動物の一種だ、体にポケットがあって、赤子をポケットにいれて育てるんだ」

「へえ……じゃあこんな感じ?」

アリスは首だけじゃなくて、両手も出した。

首の横にちょこんと出された手はポケットの縁を掴んだ。ますますカンガルーの子に見えてちょっと可愛かった。

ポケットから顔を出したアリスとセレストを連れて庭を歩き回った。

重さを感じない、ポケットの中に入ってるからだろうか。

グランドイーターの能力、思った以上に便利そうだ。

「リョータさん」

「エルザ? どうしたんだ?」

屋敷の中からエルザの呼ぶ声がして振り向く。

エルザは俺を見て、俺の下半身――アリスとセレストを見て。

「……きゅぅ」

いきなり白目をむいて気絶した。

「ど、どうした!」

「あー、こうなるよね」

「そうね、傍から見れば生首を二つぶら下げてるものね」

グランドイーターのポケットは便利だけど、ちょっとだけお騒がせだった。