軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136.番犬(こわがり)

ケルベロスに屋敷の中で遊んでこいといって、今度はクイックシルバーでエミリーの能力も上げてみた。

ケルベロスの時と同じ二十回くらいやった後、ポータブルナウボートで確認する。

―――1/2―――

レベル:40/40

HP A

MP E (+1)

力 A

体力 A

知性 E (+1)

精神 E (+1)

速さ D (+1)

器用 D (+1)

運 B (+1)

―――――――――

「なるほどこうなったか」

「こうなったです」

能力をみる俺とエミリーは同じ納得のしかたをしていた。

カンストで元々の能力でHP、力、体力がAになっていたエミリー。その三つが綺麗にアップから外れていた。それ以外のはちゃんと1ずつ上がっている。

「偶然じゃないな、流石に」

「はいです。Sはやっぱりヨーダさんだけなのです」

「クイックシルバーがそもそもこの世界に存在してた魔法だろうしな」

今まで覚えた魔法にも強力なものがある、モンスター一体に使用者のドロップ率を付与するリザヴィレーション、一度倒したモンスターを無条件で(ただしMP消費は強さに依存)倒すリペティション。

それらは強力だけど、この世界にもとから存在している魔法ばかりだ。

このクイックシルバーも同じだろう、だから元々存在していた 理(ことわり) ――最高Aから逸脱することはない。

「でも充分なのです」

「そうだな、ノーコストでA以外は全部一段階底上げなら言うことはない」

新しい魔法をチェックした結果大満足の俺たちだ。

ふと、窓の外でぼつり、ぼつりと雨が降り始めた。

通り雨か、外が一瞬でくらくなり、窓で瀧が流れる程の土砂降りになった。

「雨ですね……やっぱりヨーダさんはすごいです」

「む? 今のは流石に分からないぞ」

「この雨でもダンジョンからなら濡れなくても帰れるです。ヨーダさんのおかげなのです」

「ああ」

なるほどって思った。

ちょっと前までなら、こんな時ダンジョンから帰ってくる時に思いっきり濡れたり、それを待って時間取られたりするが、今はそんな事にはならない。

それどころか。

「ただいまー。ってあれ? 雨ふってる」

部屋の外からアリスの声が聞こえてきた。

「ダンジョンの中じゃ分からなくて、帰ってきて初めて雨が降ってるのに気づいたか」

「です!」

「確かにこれは便利だな。それに」

「それに?」

「アウルムくらい離れてたら雨降ってない可能性がある。ああ、これからもっと広げていけば、好きなときに好きな天気の場所に行けるな」

「それは素晴しいことなのです!」

手を合わせて目を輝かせるエミリー。

突然の通り雨で、転送部屋の新しい可能性を発見する俺たちである。

「えっ!」

「むっ!」

瞬間、ぞっとする俺たち。

背筋にものすごい悪寒が駆け上っていく。

殺気。

一瞬で顔つきをかえて部屋から飛び出して殺気の方へ向かう。

やってきたのは転送部屋前、イヴとケルベロスが向き合っていた。

いつも通り表情の乏しいイヴ、一方で伏せて(なおも大きい)威嚇のポーズをしているケルベロス。

背筋が凍るほどの殺気はケルベロスが出していたのだ。

「わんこ、なにもの」

「ぼくはご主人様の番犬。ご主人様の敵は全部倒す」

「うさぎはこの屋敷のうさぎ。屋敷のニンジンは全部食べ尽くす」

イヴの台詞は気が抜けるものだったが、それとは裏腹に二人の間にある緊迫感が高まっていく。

一触即発、このままでは血をみる。

まあ止めればいいんだけどな。ケルベロスはあくまで番犬として知らない外敵を排除しようとしてるだけだから俺が止めればいい。

殺気の強さに頼もしさを覚えつつ、俺はケルベロスを止めようとしたーーその時。

ピカッッ!! ゴロゴロゴロ……。

窓の外が光って、一瞬遅れて雷鳴が轟く。

雷が落ちた、音の時間差は一秒もなかったから結構近い。

それはいいんだが、それよりも。

雷が落ちた瞬間、ケルベロスは 敵(イヴ) を放り出して逆走した。

そして机の下に潜り込むかのように、エミリーに突っ込んだ。

小さいエミリー、ケルベロスの巨体。

我が家の番犬は体と尻尾を丸めてエミリーの下に突っ込んだが、傍から見ればエミリーを背中に乗せたような格好になった。

「ケルベロス……」

「――はっ! こ、怖くない。ぼくはご主人様の番犬なんだから雷なんて怖くないです!」

「俺はまだ何もいってないぞ」

「はうっ!」

勝手に墓穴を掘って、それを指摘されて盛大に赤面するケルベロス。

「それよりも不埒な侵入者、覚悟――」

敵(イヴ) をにらみ改めて出す殺気はやっぱり背筋が凍るもので頼もしかったが。

ピカッッ!! ゴロゴロゴロ……。

「きゃいん!」

雷が落ちると悲鳴をあげてガタガタ震えだす。

頼もしいやらそうじゃないやらだ。

「よしよし怖くないのです」

突っ込まれて、結果的に背中に乗せられたエミリーは優しくケルベロスを撫でた。

まるで慈母のような優しさに、ケルベロスの震えが徐々に収まっていった。

「あれは何?」

イヴが聞いてきた。

「今日から我が家の番犬になるケルベロスだ」

「……犬?」

「犬だ」

「なら大丈夫。犬は骨食べる、うさぎの敵にはならない」

犬は雑食だからニンジンも食べようと思えば食べられるはず、と思ったが言わないでおいた。

三度、雷が落ちる。

ケルベロスが情けなく怯えて、エミリーが優しく撫でる。

「あそこに コクロスライム(ごきぶり) 投げ込んだらどうなるかな」

「冗談抜きでやめて、地獄絵図になってしまう」

イヴに釘刺しつつ、エミリーと、彼女に懐いたケルベロスをみる。

その後かえってきたセレストとアリス、騒ぎを聞きつけてやってきたエルザ。

仲間たちとケルベロスを引き合わせて、ケルベロスは全員の匂いを覚えたと宣言する。

こうして、我が家に頼もしい 番犬(こわがり) が加わったのだった。