軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111.周回魔法

ニホニウム地下五階、最後のレッドスケルトンを倒して、種を拾い上げた。

種は俺の手のひらの中で雪のようにすぅーと溶けて、アナウンスが耳元で聞こえた。

「これで……Sだな」

大分前から体感でわかるようになったステータスの上がり具合、今朝はAのスタートで、倒した数を計算するとSになってるはずだ。

新しく出てくるレッドスケルトンを瞬殺して、来た道を引き返す。

ダンジョンの表に出て、ナウボードの前に立つ。

ニホニウムのダンジョン内にはナウボードはない、ドロップしないクズダンジョンって思われてるから。

それでも最低限の一つ、ダンジョンの入り口に設置されている。

そのナウボードの前に立って、慣れた手順で操作した。

―――1/2―――

レベル:1/1

HP S

MP S

力 S

体力 S

知性 F

精神 F

速さ S

器用 F

運 F

―――――――――

地下五階、レッドスケルトンが落とすMPの種でMPもSになった。

5つめのS。最初はオールFだったけど、とうとう5つ目もSになった。

長かったようで、そうでもないようで。

他の能力が上がってたし、ここまで集めてきた通常のアイテムもチートアイテムもあって、割と楽々あげる事ができた。

……できた、が。

「MPの恩恵を受けた実感はないな」

ついこうしてつぶやくほど、MPが上がったメリットを感じてないような気がした。

HPと体力は割と早い段階で実感した、ダメージは減るし普通のモンスターに攻撃されても死なない自信がついた。

力と速さも、銃を使わない肉弾戦でその強さをすごく実感した。

一方、MPは実感してない。

いま俺が覚えてる魔法は二つ、ウインドカッターとリザヴィレーションだ。

ウインドカッターはレベル1の風魔法、初歩の初歩だ。

リザヴィレーションはそれをかけたモンスターを、誰が倒しても俺のドロップSを適用する魔法だ。

前者は弱いから、後者はパーティーを組んでる時の強敵にしか使わないから。

それぞれちがう理由で、あまり使わない魔法だ。

いやまあ、リザヴィレーションは使えば効果は高いいい魔法だけど。

ともかく、今の俺は魔法をほとんど使わなくて、MPがSの恩恵をまったく受けてない。

「魔法の実……買うか」

シクロの街、魔法道具屋の中。

俺は三つ並べられた魔法の実を凝視していた。

「こんなことを言うのもなんですけどね」

魔法道具屋の店主、アイザックが苦笑いしつつ言った。

「いくらみても分からないですよ。気持ちはわかりますけど、魔法の実は食べるまで何の魔法がつくのか誰にも分からないですから」

「……そうかもしれないけど」

それでもなにか差異はないかとつい見つめてしまう。

何しろ安い買い物じゃないんだ。食べれば魔法を一個覚えられるこの魔法の実は店頭価格で3百万ピロもする。

今の俺には買えない様なものじゃないが、だからといって迷わずに買える値段でもない。

買うのは確定、どれを買えばいいのか悩む、というレベルなのだ。三百万ピロは。

「まあ、お客さんの気が済むまでにらめっこしてていいんですけどね」

アイザックは手のひらを上にして、肩をすくめて言った。

俺みたいな客は多分他にもいるんだろう、いかにも慣れてる対応だ。

「……むぅ」

魔法の実をみつめて、穴が開くほどじっと見つめた。

前から、後ろから。

横から上から下から。

あらゆる角度からじっと見つめた。

「――っ!」

ふと、引いた場所から三つをまとめて見つめた瞬間、一番左の魔法の実の後ろに何かが見えた。

思わず目をゴシゴシした。

「どうしましたお客さん」

「あれ……」

「あれ?」

アイザックは俺がさす魔法の実を見た。

「こっちの魔法の実がどうかしたんですか?」

「……」

見えないのか、っていう言葉を呑み込んだ。

多分見えないんだろう、状況的に俺にしか見えないんだろう。

一番左の魔法の実の後ろには女が立っていた。

半透明で、魔法の実よりもちょっと大きい人の形をしている。

まるで幽霊の様なそいつは……留め袖を着た女だった。

「……これをくれ」

「まいどありー」

色々言いたくなることをぐっと呑み込んで、俺は、着物女がニコニコ笑っている方の魔法の実を買った。

シクロ郊外、いつも使ってる人の来ない場所。

ハグレモノを孵すために使っている場所にやってきて、魔法の実を地面に置いた。

店を出た後、着物の女の姿は見えなくなった。

ちょっと前までだったら着物の女が出てきても色々考えただろうが、今は違う。

アウルムのアウルム、ダンジョンの精霊とあった事のある俺は、何となく一つの連想をした。

ニホニウム、着物の女。

「……安直すぎるかな」

そう思いつつ、離れた場所で魔法の実が 孵る(、、) のを待った。

通常の魔法の実は食べても一つしか魔法を覚えない、しかしハグレモノにして、俺のドロップSで再ドロップさせたら二つ覚える魔法の実に変わる。

それを待つ俺は、高級食材を調理する料理人の気分になった。

しばらくして魔法の実がハグレモノに孵った。

前と同じ、液体金属のようなモンスターで、孵った直後俺の姿に化けた。

能力は化けた人間の八割の強さになるモンスターだ。

「またいた」

そしてそいつの肩の上に、一瞬だけあの着物の女が姿を現わした。

まるでアリスのモンスターと同じように、肩の上に立っている。

にこりと微笑んだあと、そいつは消えた。そしてモンスターが襲ってきた。

前と同じように、攻撃を躱しつつ強化マシマシの拘束弾を打ち込んで、無限の雷弾を連射して倒す。

無限雷弾があってよかった、じゃなかったらこいつ倒すのに弾をかなり持ってかれるところだ。

こいつもそうだけど、レアモンスターとかダンジョンマスターとか、周回に向かないモンスターがある。

倒せないわけじゃないけど、面倒くさくてどうしても周回に向かない。

そういうモンスターと戦う為、もうちょっと強くなりたいなって思った。

そう思ってるうちに倒れたハグレモノが魔法の実になった。

元が六芒星一つだった魔法の実が、六芒星二つになった。

俺はそれを食べた。瞬間、二つの魔法が頭の中に浮かび上がった。

一つ目はマジックトゥフォース。使うと、攻撃のたびにMPを消費するが物理攻撃力があがる呪文だ。

もう一つは――。

「サトウ殿」

「うわっ!」

いきなり声をかけられて、飛び上がるほどびっくりした。

現われたのはラト、マーガレットにかしづく忍者騎士の一人だ。

「な、なんだよ」

「お力をお借りしたく」

「お力……? まて、お前ケガしてないか?」

いきなり声をかけられてびっくりしたが、よく見るとラトはぼろぼろだ。

騎士の鎧はところどころひしゃげて、あっちこっちから血を流している。

「どうしたんだ?」

「マーガレット様が危険です」

「なに?」

ニホニウムダンジョン、地下一階。

「サトウ!」

中に入ると、空気売りのオヤジが俺の名を呼んだ。

「マーガレットは?」

「あそこだ!」

そう言って指をさす、指された方向をみると、マーガレットとそれを守る三人の騎士の姿が見えた。

マーガレットはぐったり倒れていて動かない、他の三人はモンスターからの攻撃をしのぐので手一杯で、彼女を連れて逃げる余裕がない。

それほど彼らを追い詰めるモンスター、それもそのはず。

160cm位で、身長を遥かに上回る長さの髪。

半透明の体はまるで幽霊のように見える。

ニホニウムのダンジョンマスターだ。

「遭遇しちゃったのか」

「まさか出るとは……サトウ、どうにかしてくれ」

「わかった」

俺は一歩前に進み出た。

その横にラトが、俺を呼んできたラトが並んできた。

「何でもする、言ってくれ」

ちらっと彼をみた。

鎧で隠れているが、軽い傷ではない。ドクドクと流れている血がそれを物語っている。

それでもひるむ様子も怯える様子もない。

ただただ、マーガレットのために、って顔だ。

感心……いや尊敬すら覚えた。

「大丈夫だ、俺一人でやる」

「……やれるのか?」

「ああ」

うなずく俺、そこから何かを感じたのか、ラトは何もいわず俺に任せてくれた。

一歩踏み出す俺――彼女の姿が見えた。

マーガレットでもない、ダンジョンマスターでもない。

留め袖姿のあの女だ。

彼女はにこりと笑った。瞬間、俺の頭の中にある言葉が浮かび上がった。

それを反芻する。

きっと、それを教える為に留め袖の彼女は現われてくれたんだろう。

「ありがとう」

小声でささやくように言うと、彼女は満足げに更に微笑んで、そのまま姿を消した。

俺は頭に浮かび上がった言葉――呪文を唱えた。

「リペティション」

使った瞬間、体はものすごい脱力感に見舞われた。

魔力が――MPがごっそり持ってかれた感覚だ。

そんなもんだろう、ダンジョンマスター相手ならそうだろう。

リペティション。一度倒した事のあるモンスターを、MPと引き換えに瞬殺する魔法。

留め袖の女が選んでくれた魔法の実の、二つ目の魔法。

かつてさんざん手を焼いたニホニウムのダンジョンマスターは、SのMPと引き換えに一撃で倒すことが出来たのだった。