軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導具と共にある人々

まさかドルー司祭が魔導具をご愛用していたなんて。

大聖堂を案内するときは、舌打ちしながら「魔法使い風情が」なんて見下すように言っていたのに。

人というものはわからないものだ、としみじみ思ってしまった。

一階には他に魔法の気配などないようなので、二階へ進んだ。

この辺りは大聖堂の関係者のみが立ち入ることができる区画である。

階段を上った先には聖騎士がいたものの、シスターの格好をしていた私が呼び止められることはなかった。

二階部分はブラザーやシスターが生活の基盤とする施設があり、もっとも大きな部屋は聖餐卓が置かれた食堂である。三百名くらい収容できると聞いた覚えがあった。

朝、昼、晩とメニューは決まっていて、朝はパン粥と茹で卵、昼は温サラダとスープ、パン、晩はスープにパン、魚料理にチーズが提供される。

パン工房や酪農工房もあり、先ほど私が向かうよう指示されたリネン室もあった。

バタバタと忙しく働く人が多く、他人のことなんて誰も気にしていない。

貴族の屋敷ではこれらの施設は一階部分にある。

必要な荷を持ち運ぶ手間があるので、階段を上らないでいいよう、作業区画のすべてを一階に集めているのだ。

けれども大聖堂はそれらのすべてが二階にある。

一階は礼拝堂が占めており、また大聖堂の神聖さを保つために、シスターやブラザーの日常は見せないようにしているからだとか。

洗濯工房も二階にあって、洗濯に必要な水はわざわざ階段を使って運ばれる。

なんとも非効率なことをしているようだが、信者の信仰心を高めるためなのだ。

洗濯工房の前を通ると、大きな洗濯釜の中で修道服がぐつぐつ煮込まれていた。

工房の前は熱気で熱く、洗濯を担当するシスター達も大粒の汗を掻きながら動き回っていた。

彼女達のおかげで、清潔な修道服に袖を通せるのだ。

改めて感謝する。

と、洗濯工房に気を取られている場合ではない、先を進む。

すれ違うシスターは同じ格好をしているようでも、身につける物を見れば階級がわかる。

見習いシスターはガラスでできた首飾りを、その上の誓願シスターは大理石でできた首飾りを、もっとも上の修道シスターは真珠の首飾りを下げているのだ。

すれ違うシスターのほとんどは見習いか誓願シスターだったが、その中に二人の修道シスターが洗濯物を抱えて走っていた。

彼女らが担当するのは、序列が高い者達の聖衣だろう。

それに気付いたのと同時に、メルヴ・ウィザードが魔法の反応があったと報告する。

『コッチダヨ!』

テテテと走って行く先は、先ほど修道シスター達が向かった方角である。

修道シスターが入っていった部屋の前でメルヴ・ウィザードは立ち止まった。

『ココダヨ』

魔法の気配はこの部屋から発しているという。

わずかな隙間から覗き込むと、そこには魔石が填め込まれた大きな洗濯釜があった。

「早く入れて、そう! あとは呪文を摩るだけ」

「これだけでいいの?」

「ええ、そうよ。給水から洗濯、乾燥まで自動でやってくれるの」

「すごいわ。魔導洗濯釜って便利なのね」

「これを知ってしまったら、お湯を使った洗濯なんてできないわ」

「本当に」

どうやらここでも、魔導具が使われているらしい。

「他の人には秘密よ」

「もちろん。こんな快適な道具があるって知ったら、手作業の洗濯なんてできなくなるだろうから」

下級職のシスターには魔導具を使わせずに働かせ、上級職の人だけが楽をしていたなんて。酷いとしか言いようがない。

「あとは放っておくだけだから」

「その間に、休んでおきましょう」

二人の修道シスターが出てこようとしたので、慌てて隣の部屋に入る。

「ここは――」

たくさんの魔石が保管されている部屋だった。

「こんなにたくさんの魔石があるなんて」

おそらく、魔導洗濯釜以外の魔導具があるのだろう。

聖教会の教えでは魔導具を禁じているのに、裏ではどんどん遣っているなんて。信者が知ったら落胆するに違いない。

修道シスターの気配がなくなったので、先ほどの魔導洗濯釜を確認する。

メルヴ・ウィザードが動力源となる魔石が填め込まれた部分を発見した。

どうやらここも、魔力を吸収する魔法が展開されているわけではなかった。

「先を進みますか」

『ソウダネ』

それからというもの、三階、四階、五階とそれぞれの区画で魔導具の使用が確認できた。

決まって、上級職の人々が楽をするために使われているようだ。

知らずにあくせく働くのは、下級職の人ばかりというわけだった。

残るは六階と七階である。

どちらかにあるのは確実だろう。

『コッチダヨ』

上層階ともなれば、聖騎士の監視の目も厳しくなる。

階段を上っていっても、入り口部分で止められるのはわかりきっていた。

そのため、下の階にあるバルコニーを伝って上ることをメルヴ・ウィザードが提案してくれた。

問題はどうやって上るか。

五階ともなれば、地上が信じられないくらい遠い。

落ちたら大けがだけでは済まされないだろう。

メルヴ・ウィザードは杖を刺すと、何やらぶつぶつと呪文を唱えている。

両手を高く掲げると、杖が六階にあるバルコニーに向かってぐんぐん伸びていった。

『上ルヨ』

そう言って杖にしがみつくと、するすると上っていった。

上からメルヴ・ウィザードが『ドウゾ!』なんて言ってくれたものの、杖が細くて私が体重をかけただけで折れてしまいそうだ。

『上レソウ?』

「ご、ごめんなさい、まだ勇気がでなくて」

木登りなんて初めてである。上手くできるものか、なんて考えていたら、バルコニーから蔓が下りてきた。

顔をあげると、メルヴ・ウィザードが魔法で蔓を生やしたらしい。

『ソレニ、掴マッテ!』

「え、ええ、わかりました」

蔓を掴むと、杖からも二本の蔓が生えてきて、ブランコのように私の体を支えてくれる。

そのまま六階部分のバルコニーまで上がっていった。

無事、六階に下り立つことができたようだ。

「メルヴさん、ありがとうございます」

『イエイエ』

メルヴ・ウィザードが杖を元の形状に戻した瞬間、魔法の反応を感知したようだ。

『ココノ部屋、ミタイ!』

まさかの、バルコニーを伝った先にあった部屋に魔法が展開されているという。

カーテンの隙間からそっと中を覗き込むと寝室のようで、男女の影を発見してギョッとする。

そこで寄り添うようにいたのは、まさかの人物だった。